監督、脚本、プロデューサー、主演 崔哲浩    作品を通じて、自分にしか撮れないリアリティを感じてほしい

監督、脚本、プロデューサー、主演  崔哲浩(さい てつひろ) 

■プロフィール

1979年生。大阪府出身。様々な映画、ドラマ、舞台で幅広く活躍する。2007年に劇団野良犬弾を旗揚げ、主宰を務める。劇団の傍ら大規模な商業演劇において出演、プロデュースを行う。

2021年 ワールドムービーアソシエイション設立。

主な代表作に「ホタル-HOTARU-」(降旗康男監督)、「陽はまた昇る」(佐々部清監督)、「半落ち」(佐々部清監督)、「グラスホッパー」 (瀧本智行監督)など。

劇団野良犬弾主宰を務め、舞台・テレビ・オリジナルビデオなどジャンルを問わず幅広く活躍する崔哲浩さん。俳優を極めた先の挑戦として、今回「北風アウトサイダー」で自ら監督、脚本、主演を務めた。俳優という仕事への思いとともに、崔さん自身の半生をもとに描いた本作への思いや見どころを伺った。

映画を通じて知った「広い世界」

 小さい頃からとにかく目立ちたがりでした。ミーハーで、有名になりたいという気持ちを常に持っていたと思います。自分は在日3世という環境で、皆さんとは少し違う世界で生きてきました。そのため、映画からは自分の知らないこんなに広い世界があるという希望をもらっていたんですよね。また、中学の頃には自分の学校に地方劇団が来てくれて、その舞台に大変感動しました。自分の荒れている中学とは全く違う、こんなに華やかな世界があるということにひたすら「すごい!」と思いました。映画に救われていたこともあわせて、この業界に身を置きたいと思い、高校を卒業した日に上京し、役者を目指しました。

役者は苦労の先に歓喜がある仕事

 現在42歳ですが、実は30歳までは役者を続けるか迷っていました。25歳で家庭を持ったのですが、役者として食べていけるのはほんの一握りで、これで家族を養っていけるのか、男としての自分の一生の仕事はこれでいいのだろうかと悩みました。しかし、それでも一生かけてやりたいと思った仕事でもありました。自分は飽き性で、それでも唯一続いたのがこのものづくりの世界の役者という仕事だったんですよね。また、苦しい思いをしたあとに、見た人に何かを与えることができるという、苦労の先の歓喜がある仕事でもあります。平坦で当たり障りのない人生よりも、厳しい世界でやっていくことのほうが好きですし、人を触発することのできるエンタメの仕事は本当にやりがいがあると思います。当初は「有名になりたい」というミーハーな思いから始まりましたが、見事に鼻を折られてきました。しかし、その中で好きという気持ちが自分を動かし、またその好きという気持ちを超えた良さも感じてきました。やりきって、さらに新たなことに挑戦して、一生このエンタメのお仕事を続けていきたいなと思っています。

「北風アウトサイダー」は自分だけが作ることのできる作品

 俳優というお仕事をもっと極めていくために、30代の頃から映画を作ってみたいと思っていました。一方で、どこか遠慮している部分があったのですが、コロナによって状況が変わり、自分の人生を考え、自問自答を繰り返しました。すでに41歳だったのもあり、もう作っていいのではないかと思い映画を作ろうと腹をくくりました。テーマを決めるときに、自分は在日3世であり、このテーマに関してリアルに描けるのは自分だけなのではと思ったんです。私自身、本当は在日3世ということにこだわりはありません。しかし、そういう環境で育ってきたのは事実ですし、監督という立場で太刀打ちするにはこのテーマなのではと思い、在日3世というテーマで描くことを決めました。

 今回の作品では、自分が伝えたいと思うことをたくさん散りばめました。その中でも、「人間とは?」「愛とは?」「時代の継承」「血流」という4つのテーマを中心に描いています。地球の裏側の人が見ても同じ人間としてわかることを意識しました。世界中でみると、在日コリアンに関わらず同じような問題はありますよね。そのうちの一つである問題をリアルに描けるのではないかと思ったんです。

 オモニ(母)のセリフの中に、「朝鮮人も日本人もみんな人間だから、仲良くできる時代が必ず来る」というセリフがあります。自分は朝鮮学校に通っていたのですが、小学校6年生からは日本の学校に通いました。そのため両方の立場から物事を考えられるようになったのですが、実際に壁を作っているのは誰なのかと考えたことがありました。自分が生きてきた中で、在日コリアンも日本人も同じ人間だという思いがあり、このオモニのセリフは必ずいれたいと思いました。

とことんこだわったのは、リアリティの追求

 映画の方向性については、何十回も話し合いました。見世物にはしたくないが、エンタメ要素もいれたい。最終的に、ドキュメンタリーのような臨場感で撮ろうと決めました。在日コリアンである自分や周りの人の身に実際に起きたことをちりばめ、とことんリアリティを追求しています。自分の出身地である大阪を舞台にし、暮らした家が映っていたり、オモニの特殊な性格も実体験で、言っていたことがセリフになったりもしています。あるシーンでは、全ての小道具を役者たち自身で手作りすることで、より想いが前面に表れるように意識しました。

 この映画を観た人には、ぜひ「人生っていいな」と感じてほしいです。自分の理念として、映画は娯楽なので、観ている人の気持ちを楽しくさせるものでありたいと思うんです。4つのテーマとハッピーな部分を拾って、家族や人間、人生っていいなと思ってくれたら嬉しいです。また、観た方からの感想として「在日コリアン役の役者さんたちがみんな本当の在日コリアンの人かと思った」と言われることがあります。本当はみなさん日本人の役者さんたちですが、そう見えるようにとことんリアルを追求しています。そのとことん追求した人生のリアルなところも堪能してほしいなと思います。

一生学び続け、挑戦してほしい

 一生「学生」でいてほしいと思います。社会に出たら、学生という枠はなくなるけれど、勉強は続きます。学生時代は、自分が意識して学ぶことのできる最後の場所です。それは過ぎ去ってから重要性がわかってくるものです。だからこそ、とにかく今学生のときに学んでほしいなと思います。

 また、誰でも自分が何に向いているのか迷う時期があると思います。しかし、どの業界にでも自分にとってやりがいとなることがあるはずです。やってみたいと興味を持ったことに思い切って飛び込んでいくと、その好きか嫌いかをはるかに超える良さを感じられます。俳優というお仕事は本当に辛いことが多く、僕は実際何百・何千もの名前のつかないエキストラの役をやってきました。しかし、その辛いことはどの分野でも同じで、それを超えるやりがいを見つけられると思います。やりたいと思ったことを思い切りやることは、変革期である今の世界を生きる術にもなります。とにかく興味のあることに飛び込んで、やりきってほしいなと思います。

学生新聞オンライン 津田塾大学4年 川浪亜紀

■映画『北風アウトサイダー』

出演:
崔哲浩  櫂作真帆  伊藤航  上田和光
永倉大輔  松浦健城  竜崎祐優識  並樹史朗  岡崎二朗

監督・脚本・プロデューサー:崔哲浩
制作:ワールドムービーアソシエーション 配給:渋谷プロダクション 2021/JAPAN/5.1ch/DCP/150min
2021 ワールドムービーアソシエーション

公式サイト:https://www.kitakaze-movie.com/
公式ツイッター:https://twitter.com/kitakaze_movie
公式facebook:https://www.facebook.com/kitakazeoutsider/
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/kitakaze_movie/

2月11日(金・祝)よりシネマート新宿ほか全国順次公開

関東鍼灸専門学校2年    竹原孔龍 / 津田塾大学4年       川浪亜紀 / 明治学院大学4年      小嶋櫻子 / 神奈川大学4年       竹尾あさと

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。