たんぽぽ薬局株式会社 代表取締役 松野英子
地域のため、社会のため、そして何よりあなたのための薬局に
たんぽぽ薬局株式会社 代表取締役 松野英子(まつの えいこ)
■プロフィール
愛媛県生まれ。京都薬科大学卒業後、薬剤師として病院等に勤務。1996年に、たんぽぽ薬局株式会社(岐阜市本社)に入社し、2017年6月に代表取締役に就任。東海地方を中心に北陸、関西、四国に展開する店舗を束ねる。岐阜県で女性活躍の推進委員や、教育委員会での評価点検会議の委員等務める。趣味は愛犬ゴールデンレトリバーの桃太郎との散歩・園芸・ゴルフ。
地域に根ざした薬局であることを第一に会社経営を行う、たんぽぽ薬局株式会社の松野英子社長。就職、結婚(海外居住)、そして再就職という経験を経て、今の地位を築き上げたという松野社長に、これまでの生き方やその哲学についてお話を伺った。
■前臨床試験など研究室での実習に熱中した学生時代
薬学部を選んだのは、母親の友人が薬剤師で、その薬局によく遊びに行っていたのがきっかけですね。学校でも理系科目の方が好きで、他の学部の受験もしたのですが、結局薬学部に入りました。私のいた薬学部は授業数が多く、毎日忙しかった記憶があります。クラブ活動ではスポーツに挑戦してみたかったので友達と一緒に卓球部に入り、アルバイトは家庭教師をしたり夏休みに喫茶店で働いていたりしました。でもとにかく研究室にいる時間が長かったです。研究室で諸先輩方との実習が新鮮で面白く、時間を惜しまず没頭していました。しかし、将来や人生設計など全く考えてはいなかった事を覚えており、今となっては反省しています。
■「ありがとう」と言われる薬剤師になるために、「たんぽぽ薬局」へ就職
研究が面白かったので、当初は卒業も就職をせず、大学に残ろうと考えていました。でも、地元の四国に両親がいることもあり、戻って就職しました。その後、結婚を機に静岡に移住し、いくつかの薬局や病院で仕事を続けていましたが「薬剤師は本当に患者さんの役に立っているのか?」と疑問を抱くようになりました。3年間の海外生活で、人生観が大きく変わった事もあります。自分に合った仕事は何なのかを、考える時期がしばらく続きました。医療において「ありがとう」と言ってもらえるのはお医者さんや看護師さんであることが多い。一度勉強し直して看護師になれるだろうかと考えたこともあります。でもやっぱり自分の経験を生かしたくて、自力で仕事を探そうと考えました。当時の薬剤師業界では紹介で仕事に就くことが多く、人との繋がりだけで仕事が決まることがよくありました。そんな中で初めて自分の意思で、就職したのがこのたんぽぽ薬局でした。
■自ら仕事を掴み取り、「たんぽぽ薬局」の社長へ
たんぽぽ薬局に入ってからはあっという間に毎日が過ぎていきました。体制がまだ整っていなかった業界ということもあり、新しいことに次々と挑戦できたことが良かったですね。調剤薬局のあり方に関して議論したり、患者さんに薬を届けるより良い方法をみんなで考えたりしていると知らぬ間に時間が経っていました。
また一生懸命働いているうちに、おのずと患者さんから「ありがとう」と言ってもらえるようになりました。それが何よりのモチベーションでした。以前より人との交流が増えたことで、仲間と一緒に働く楽しさも感じるようになりました。
ただ同時に大変なことも増えていきました。忙しくてミスをしたり、患者さんに怒られたりして落ち込むこともしばしば。薬は人の命に関わるものなので、今も変わらず、その責任の重さを常に感じながら働いています。
また業務内容だけでなく会社における自分の立場も変化していきました。自分の考えや意見を人に伝える機会が増えたので、いかにして自分の考えを正確に伝えるか、常に試行錯誤する毎日です。社長の大変さも社長になってから知りました(笑)。ただ、忙しい毎日や立場があっても、大切なこと、思いやりの気持ちを見失わないように意識しています。
■目指すのは、誰もがより働きやすい会社
仕事をしていく上であらゆる女性にチャンスがあるべきだと思っています。家庭環境や子育てなど、各々が抱える事情は違います。それに対応するために、時短勤務や育休の制度はあるけれど、それ以外は十分な体制がまだ整っていないのが実情です。例えば、管理職になると仕事量や負担も増えますが、女性管理職に対応したサポートがまだありません。社内の制度の多くは男性に対応したものが実情です。より良い会社にするには、性別問わず限られた時間の中で生産性を上げる必要があると切実に感じていますし、どんな人でも活躍できる社内環境へと変えていきたいと思っています。
■今後力を入れていきたいのは、オンライン服薬指導
今注目しているのが、コロナ禍で国の施策としてはじまったオンライン服薬指導です。オンライン服薬指導が浸透すれば、薬局まで足を運ばなくても、立地に関係なく好きな薬局で薬をもらうことができます。オンライン服薬指導専用の相談窓口を設置する薬局も出てきました。実際に富山の人が岐阜の薬局から薬をもらったり、東京の人が愛知の薬局から薬をもらうなど、たんぽぽ薬局でもそんな患者さんがおられます。薬局のあり方も多様化しています。全国の患者さんが対象になることで、薬剤業界の可能性が広がっていくのかなと思っています。
■薬剤師を目指している学生へ伝えたいこと
薬剤師の仕事は、薬を通して、いかに患者さんや地域の人たちの健康に貢献できるか、に尽きると思います。健康に対する考え方は、一人ひとり違うことを理解し、患者さんの立場になって対応する大切さを感じながら勉強してほしいです。ある人はアスリートとして活躍できるまでの健康を望み、ある人は、その一歩が歩ける事を希望する人もいると思うから。また、より良い医療は、医師や看護師、そのほか多職種の方々との連携の中で生まれます。そのための話す力は大切で、普段から多くの方々と交流が出来る機会を持ってほしいと思います。
■message
今の学生はコミュニケーション能力が高く行動力もあり、ポテンシャルは自分の頃よりはるかに高い。しかしこの情報社会で多くの知識を持ち、理解はしているが社会人としての経験はまだまだ少ない。経験を積み重ねて失敗することで成長するということをわかった上で頑張ってください。未来は長いです。将来を考えることも大事ですが、それ以上に目の前の課題を丁寧に対処していくことも大切です。一生懸命やった結果、いつの間にか評価されるもの。そこは勘違いせず努力してほしいですね。
学生新聞オンライン 2022年5月30日取材 大阪大学4回生 中辻亮太朗
大阪大学4回生 中辻亮太朗 / 國學院大學3年 島田大輝
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