森トラスト株式会社 代表取締役社長 伊達 美和子
すべての事象に「なぜ」と問いかけ、成功プロセスに導く
森トラスト株式会社 代表取締役社長 伊達 美和子(だて みわこ)
■プロフィール
1996年慶應義塾大学大学院修了後、総合コンサルティング会社勤務を経て、1998年森トラスト株式会社に入社。2011年には森トラスト・ホテルズ&リゾーツ株式会社代表取締役社長に就任(現任)。2016年6月に森トラスト株式会社代表取締役社長に就任(現任)。また、2011年には公益社団法人経済同友会に入会し、2022年度より副代表幹事に就任(現任)。
不動産事業、ホテル&リゾート事業、投資事業。これら3つの事業を柱としつつ、既存の枠にとらわれない発想で常に新たな領域にチャレンジする森トラスト株式会社。日本経済に左右されやすい業界ながらも、バブルの崩壊やコロナウイルスの影響をどう乗り越えていったのか。伊達社長に、ご自身が現在の地位に至るまでのプロセスや今後の展望について伺った。
学生時代前半はゴルフをしていました。元々体育会に所属していたのですが、自分の時間を作れなくなり、サークル活動に切り替えました。学生時代の後半には就職や将来を意識し始め、家業の不動産事業に携わりたいと考えるようになりました。ただ、不動産業界で働くときにどんなスキルや経験が活用できるのか分からなかったため、最初は不動産の制度について学ぼうと思い、宅地建物取引士の資格を取りました。次に、不動産開発の専門知識を学ぶために大学院に進学し、通常独立した分野である都市計画と建築の双方を学ぶことができるゼミを選択しました。2つの知見を掛け合わせることで、よりよいまちづくりが達成できるという理念に基づいて研究を行ったことが今の自分の基礎になっています。
■プロセスを考えることの大切さ
大学までの学びは、非常に重要であることが大前提ですが、それらの知識はあくまでも机上のものであり、実社会でそのまま活きるものではありません。実際のビジネスに応用できるノウハウを幅広く効率的に学び、経験できる方法を考えたときに、コンサル会社が最適だと思い、長銀総合研究所の都市開発コンサルティング部門に就職しました。多様な案件を担当し調査する中で、分野の幅が広がり、不動産業の多面的な理解につながりました。その他、東京に限らず地方の実情についても見聞を広げることで、行政から第三セクター、民間におけるそれぞれの考え方、目的の違いを知ることができました。また、その過程で学んだ様々な分析の手法は、後に森トラストでの開発事業で役立ちました。一方で、森トラストのもう1つの柱であるホテル事業についての知識が依然として欠けていたため、ホテル関係の会社に出向しました。運営現場の実情を把握することで、お客様とサービス提供者という2つの立場から見識を深められたことは、建物を設計する上でもホテル運営事業を考える上でも価値ある経験となりました。
実社会において不動産事業とホテル事業とどちらも経験できたことは、私が後に社長として森トラストの中核事業である不動産事業、ホテル&リゾート事業の舵をとる上での糧になりました。
■常に先をみて実行する
私が森トラストに転じたきっかけは、当社が丸の内の土地を取得したことです。長銀総合研究所で働き始めて3年が経った1998年に、日本国有鉄道清算事業団の民営化に伴って丸の内の土地が民間企業に売却され、その一角(土地面積:12,026.77㎡)を森トラストが1,568億円で落札しました。日本の中心地である丸の内の土地で、これほど大規模な土地を取得することは非常に難しい以上、この土地を開発する機会は大変貴重であり、自分もそこに携わりたいと思いました。
丸の内の土地を開発していく中で、平行して考えていたのがホテル事業です。ホテル業界は、バブル崩壊後の1990年代は国内旅行者が減り続けるなどあまり良い状態ではありませんでした。そのため新規ホテルを開発する決断はハードルが高い状況でしたが、国際都市東京を実現するためにこの場所にグレードの高いホテルをつくることを決め、シャングリ・ラを誘致しました。これが、この後の森トラストのホテル事業の次の展開につながっていきます。
コロナ禍についてもそうですが、何かの影響で産業が衰退することは珍しいことではありません。オリンピック前までホテル産業は成長分野として見られていましたが、コロナの影響でインバウンドが激変しました。しかし、人々は旅行に「行けなくなった」だけで、「行きたくなくなった」わけではありません。故に私たちは常にアフターコロナに目を向け、準備を進めてまいりました。 世界観光機関のデータでは、2018年の全世界における海外旅行者数は14億人であったのに対し、2030年には18億人になると言われています。また、過去と比べると毎年常に2,3%増えています。こうしたデータからも、世界中のインバウンドはコロナ禍によって一時的に衰退しているものの、将来的に必ず増えると予想されます。そのため、私たちはホテル産業が今後も成長分野であると考えています。
なお、コロナ禍においては、ホテル事業は厳しい状況でしたが、不動産事業は好調でした。その結果、会社全体としては中長期ビジョンを前倒しで達成するなど、成長を続けることができました。アフターコロナにおいては、ホテル事業を含む3本の柱をさらに発展させ、次代を見据えた事業を推進していきたいと考えています。
■message
何事も目標を設定することが大事です。そして、その目標を最後までやり通すには精神力が必要です。そのためには、なぜ自分はそうしたいのかというモチベーションを徹底的に突き詰めることが大切だと思います。様々なことを学ぶ上で得た知識を、ただ知識、つまりファクトとして留まらせずに「なぜそうなるのか、何が成功要因なのか、何が問題でどう改善することができるか」を同時に考える癖をつけましょう。その分析は、必ずしもその瞬間に役立つものとは限りません。しかし、自らの知識の引き出しが増えていき、将来の大きな糧となります。
また、自分の興味の範囲以外のことにも、意識を拡大させてみてください。興味を持ったことがあれば、同じように「この成功プロセスってなんだろう」と疑問を持つのです。どんな事象も分解し、セオリーを見つけ出す。そのセオリーが、自分の業務に応用できないかを考える。その繰り返しが自分の成長につながるはずです。
学生新聞オンライン2023年1月25日取材 中央大学 1年 前田蓮峰
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