大和ハウス工業株式会社 技術統括本部建設DX推進部次長 宮内尊彰
「データ基盤の構築」と「デジタル人財教育」で、建設業界の変革を目指す
大和ハウス工業株式会社 技術統括本部建設DX推進部次長 宮内尊彰(みやうちたかあき)
■プロフィール
1998年、大和ハウス工業株式会社に入社。構造設計部(建築系)を経て、2017年に発足した「BIM推進室」へ異動し、BIM構築をスタートさせる。デジタルコンストラクションの取り組みを開始し、2020年に発足した「建設デジタル推進部」次長に就任。2022年からは「建設DX推進部」に改称した組織で、デジタルコンストラクションからDXを目指している。
コロナ禍でテレワークが広まる中、以前と変わらず建設資材を肩に担いで運ぶ建設現場の方々。人の手が欠かせない建設業界で、デジタル化は可能なのか。そんな疑問を払拭するような変革プロジェクトを進めるのが、住宅メーカー大手の大和ハウス工業である。時代が変化する中で絶えず技術を追い求めてきた宮内次長に、建設DXの歩みと今後求められる人財について伺った。
入社当時は、店舗や施設などの構造設計を担当していました。図面を描きながら技術を追い求める中で気づいたのが、デジタルの重要性です。デジタルツールの活用により、図面の作成時間は格段に速くなりました。全社的なデジタル化を目指す動きもあり、建設デジタルの基本となるBIMに携わり、2022年から建設DX推進部にてデジタル戦略に取り組んでいます。
特に、建設技術とデジタル技術の融合を「建設DX(デジタルトランスフォーメーション)」といいますが、それが求められている背景として、主に3つの課題があります。1つ目は、建設業界の働き方改革です。建設業就業者の残業時間は横ばいで推移し、人手不足や高齢化も進んでいます。2つ目は、増加・大型化する災害や異常気象への対応です。地球温暖化による災害や異常気象が多発しています。我々の使命は、安全で早急な仮設住宅を被災者の方々に提供することです。3つ目は、コロナ禍による建設ニーズの変化です。家庭内でテレワークを行う方々にとって、建設現場の音は気になります。建設現場でも、遠隔作業の必要性が高まりました。
■世の中の役に立つため二軸で進める建設DX
当社の建設DXは、「BIM」と「デジタルコンストラクションプロジェクト」を2本の柱として進めています。BIMとは、建物(Building)を情報(Information)で形成する(Modeling)建設データ基盤です。二次元の絵だった図面に従来はなかった情報を入力することで、自由な方向からの図面設計や、外壁の部材・部品ごとのモデリングなどが可能となります。具体的な活用事例としては、災害発生に伴う自動配置計画プログラムの開発があります。BIMを活用し、被災者の方々に迅速かつ安全な応急仮設住宅を提供するため、「予測型建設」と呼ばれる自動設計を行います。例えば、2019年の東日本台風で被災した長野の応急仮設住宅では、DX化による自動配置案により、平均7日を要する配置承認を2日で取得しました。
デジタルコンストラクションプロジェクトとは、BIM情報の活用や遠隔管理による危険予測を行う、施工現場のデジタル推進プロジェクトです。施工現場とバックオフィスをつないだスマートコントロールセンター(SCC)にて、定点カメラ映像による工程、品質、安全の自動判別を行います。具体的な活用事例としては、建設現場における安全性の自動判別があります。360度の定点カメラ映像により、作業員がヘルメット未着用であったり、強風で足場のネットが危険であるといった情報が確認されると、SCCで安全性が自動的に判別されます。また、こうしたデータの蓄積により予測がブラッシュアップされ、建設現場の安全性向上につながります。
「儲かるからではなく、世の中の役に立つからやる」。創業者である石橋信夫の言葉を原点に、世の中の人々に安心・安全を届けるため、DXを駆使した変革を進めていきます。
■データ活用の高度化とデジタル人財教育
今後、建設DX推進部として目指すのは「誰もが活用できるデータ基盤の構築」です。これまでは設計と施工現場に注力し、データの可視化を徹底してきました。今後は、これをさらに高度化し、データを一つひとつ見なくても危険予測が可能であり、さらには現場の担当者だけでなく、顧客を含め、経験や知見の有無に関係なく、誰もが使える基盤を築きたいと考えています。また、建材や資材のデジタル化にも力を入れ、サプライチェーンの基盤作りも進めたいと考えています。また、「現場の職方・業者へのデジタル教育」も我々の役割だと思っています。今後の建築技術者は、データ活用によって現実空間と仮想空間の構築・計画技術を持つ「デジタル多能技術者」になることが求められます。現場の職方や業者、若手と高齢者では必要なスキルが異なるため、デジタル人材の教育を目指しています。
■message
建設DXには、皆さんのマインドチェンジも必要です。ここで大切にしてほしいことは4つあります。まずは「温故知新」。従来の知見や技術を活用することは重要です。次に、「新しい知見を吸収すること」。技術にデジタルが導入されるなど、新しい知見の吸収も必要です。そして、「建築の未来を創造すること」。未来を創造することで新たな空間が生まれます。最後に、「時代の変化点を感じること」。新時代の変化点を感じ取ることは良いことです。
学生新聞2023年4月1日発刊号 専修大学3年 竹村結
この記事へのコメントはありません。