株式会社Mizkan 代表取締役社長 吉永智征
変わりゆく社会に、日々進化して適応し続ける
株式会社Mizkan 代表取締役社長 吉永智征(よしなが ともゆき)
■プロフィール
1969年12月、千葉県出身。早稲田大学社会科学部卒。1993年3月、株式会社Mizkanの前身である株式会社中埜酢店に入社。営業、マーケティング、総務部門などを経験後、株式会社Mizkan Partners総務部長、株式会社MizkanHoldings専務執行役員 日本・アジア事業COOなどを歴任。2017年10月より現職である株式会社Mizkan 代表取締役社長 兼 CEO。
味ぽんや鍋つゆなどの商品をはじめ、長年多くの家庭に愛されて、食卓を支えてきたミツカン。創業以来、魅力的な商品を生み出し続けている秘訣はどのようなところに隠されているのか。商品に込められた工夫や思いについて、吉永社長に伺った。
学生時代は、勉強というよりも社会勉強に明け暮れていましたね。競馬が好きだったので、フリーライターとしてスポーツ新聞の記事を書く仕事などをしていました。学生時代から今に至るまで、「日々を楽しく生きよう」という思いは変わっていないです。当時から、上に上がりたいという気持ちは全くありませんでした。卒業後は、会社という大きな場所の中で商品作りや物作りに好きなだけ取り組みたいという思いで、身近な商品で安定した需要と市場を持つ食品業界に飛び込みました。
■前向きな気持ちでつかんだ成功
入社当初から新規事業を次々と担当しました。誰も取り組んだことのない事業で結果を出すのはとても難しく、大変なこともたくさんありました。取引先に相手にされなかったり、商品化が上手くいかなかったりする中、納豆事業のマーケティング担当として、赤字だった事業の黒字化に成功しました。勝負事が好きだったので、挑戦やミッションは、ゲーム感覚で楽しかったですね(笑)。忙しかったですが、お客様の潜在的なニーズに気づけることや、考えたことが結果に繋がる瞬間を実感することが出来てとてもやりがいがありました。その時の成功が、今の役職にも繋がっています。
前例がないことに対して結果を出せた秘訣は、物怖じしないことだと思います。経験豊富な人に対して真っ向勝負を仕掛けても勝てません。逆に未熟さも含めてオープンにして、周りの人に面白いな、と思ってもらうことで心の距離をつめることを心がけていました。
今でも大切にしていることは、常に前向きであることです。組織は明るい方が、成果に繋がると考えているので、前向きな気持ちは忘れないようにしています。常に将来を見据えて行動することも大切にしています。物事に取り組むときに、何のためにしているのかという目標意識を常に持ち、ゴールを設定することで、やるべきことを可視化して取り組むことが出来ます。
■200年続くミツカンの底力
ミツカンの強みは、発酵に関する技術とこだわり抜かれた味作りです。
販売当初、水炊き用に発売された味ぽんは、春夏の需要が伸びず苦労しました。そこで、一年を通してお客さまに愛用してもらえるように、春夏用のメニュー提案を続け、通年化に成功しました。使うメニューの変化に合わせて味も変えていきました。ただ、一気に味を変えるのではなく、徐々に変化させ、お客さんが違和感を持たないように何回かにわけて、少しずつ時間をかけて改良し続けました。その長きにわたる努力の上に、今の商品は成り立っています。変わりゆく時代の中で、よりよいものを作れるように、今も技術を磨き続けています。
発酵事業は原料を仕入れて売上になるまでの期間が長く、設備投資もかかるので参入障壁が高いことが特徴です。ミツカンは利益が出ていない事業であっても、自社の強みが活かせる領域であれば、すぐにやめることはしません。苦しい時期があっても、長期的な判断で残すようにしています。それを残す判断も、企業としての体力がないとできないことだと思うので、そこはミツカンの強みだと思っています。今後の社会状況の中で日々経営を変えていくことが、企業としての継続性を高めます。一見効率が悪いように見える事業であってもあえて残すことが、苦しい時の助け船になることもあるのです。
また、北米や欧米など、海外にも事業を展開しています。グローバル化に踏み切ったきっかけは、200年以上続いているミツカンを今後50年、そして100年存続させるためには日本だけではなく、世界でビジネスを展開することが必要だと考えたことです。市場を広げることで、為替市場の動向に関わらず利益を生み出すことが出来る強みがあります。
■「食は文化」という考え方
私たちの商品は、食の「原体験」をとても大切にしています。「家庭でも水炊きが食べられる社会にしたい」という思いから生まれた味ぽんは、今年で55年の歴史を持ちます。55年愛され続けると言うことは、3世代をつなぐ商品になっていると言うことです。子どもの頃の思い出というのは、大人になっても覚えているものですよね。商品を通して、世代間でのコミュニケーションが生まれ、今後も愛され続けることで、子どもの頃の楽しい思い出を次の世代に引き継いで欲しいです。
今後は、健康を意識したマーケットに目を向けていきたいと考えています。現在、健康に関する食品は比較的高い価格で販売されています。ミツカンブランドとしては、買いやすい価格で、無理せず健康になれる商品の提供を行っていきたいと考えています。健康寿命を延ばすだけではなく、食を通した楽しさを感じるものにこだわっていきます。食は、コミュニケーションを生みだすきっかけになります。これからも、この価値観を軸にした商品を開発していきます。
■大学生へのメッセージ
新しいことに積極的に挑戦してください。大学生は、たくさん社会と関わる時間と、経験できる機会があります。大人になっても、前向きさと素直さを忘れないこと、そして失敗を恐れないことを大切にすれば、きっと成功します。経験を通して自分のネットワークを増やしたり、やりたいことを探したりして、世界を広げて欲しいです。
学生新聞オンライン2023年7月6日取材 立教大学3年 緒方成菜
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