東京大学 公共政策大学院教授 鈴木 寛
教育改革を起こし若者と共に新たな時代を作る
東京大学 公共政策大学院教授 鈴木 寛(すずき かん)
■プロフィール
東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策・メディア研究科特任教授
1964年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾に何度も通い、若者の無限の可能性を実感し、人材育成の大切さに目覚める。通産省勤務の傍ら、大学生などを集めた「すずかんゼミ」を1995年に立上げ、教え子は1000名を超える。慶應義塾大学SFC助教授を経て2001年参議院議員初当選(12年)。
新たな時代の先陣をきる若者を多々輩出し、全国各地から学生の応募が殺到している「すずかんゼミ」。その主宰はすずかん先生の愛称で親しまれる鈴木寛氏だ。通産省勤務や元文部科学副大臣、大学教授などの豊富な経験から培われた知見やすずかんゼミの魅力、これからの教育や若者に対する熱い思いを伺った。
私は昔から政治経済に興味がありました。小学生の時、少年ジャンプに掲載されていた『田中角栄物語』を読んで、田中角栄さんが小学校卒業でも総理大臣まで上り詰めたというお話に衝撃を受けたのがきっかけです。その頃から田中角栄さんや政治経済のニュースが目に留まるようになり、中学高校とそれらに関する活動をしていました。
大学生になってからはゼミと課外活動で忙しい毎日でした。2年生までは国際政治学、3年生からは労働法のゼミに入りながら、劇団の音楽監督、東京六大学の合唱連盟の理事、テニスサークルに所属など、楽しくやりがいのある学生生活を送っていました。
卒業後は通商産業省(現経済産業省)に就職しました。役人が脚本を書いたり演出をしたりするという意味では、国会も学生時に取り組んだ劇団も同じだという意外な共通点を見つけたからです。学生の頃から憧れていた電子政策課の総括課長補佐のポストにもつくことができ、兼ねてから希望していた情報政策に従事することができました。
通産省は2年に1度様々な部署に異動します。山口県に出向した際、関心を持っていた吉田松陰が主宰した「松下村塾」に訪れました。10畳ほどの狭い空間に集められた、選抜されていない地域の子ども達がのちに日本・アジアを変える人材として輩出されていることに非常に感動し、若者には無限の可能性があると感じました。その後、松下村塾に触発され、1995年に東京に戻った際に現在も続けている「すずかんゼミ」を設立しました。
■日本の教育をより良くするために官僚から助教授、そして参議院議員へ
これからは松下村塾で学んだ、若者の可能性を引き出す「教育」を中心に活動していきたいと思い、通産省を退職して慶應義塾大学環境情報学部の助教授になりました。今まで行ってきた情報の分野と新たに教育の分野に専念することにしたのです。
その後、金子教授の友人の鳩山由紀夫さんからお誘いいただき、参議院議員になりました。私には「どんな家に生まれても、どんな地域で育っても、すべての子ども・若者に最善の学びを」というライフワークがあったことから、当時興味のあった奨学金制度の充実、コミュニティ・スクール運動の2つの課題に取り組むために、12年の間に2度文部科学副大臣も務め、教育政策に従事しました。任期を終えた際に東京大学と慶應義塾大学からお声がかかり、日本で初めての国立・私立大学のクロスアポイントメントとなりました。
■学生の成長のために徹する
教授の仕事は楽しいことしかないです。私にとって、若い人の可能性を見守り、時には手助けをすることほど好きなことはない。政治家や役人の時にたくさん苦労してきたからでしょうか(笑)。
私はどんな人にも必ず良いところがあると思っています。その若者の良いところはどこなのかを見出し、何か一つその人の真骨頂を作るお手伝いをして寄り添えられればと思います。
若者は上から教えて育つものではなく、自発的に成長するものです。そこに濃い仲間がいればお互いに切磋琢磨し、流れに乗っていく。その状況を28年ずっと見てきました。志を持った若者たちが出会う環境づくりに徹するのが今の私の役目です。一方で大学生は多感な時期。心が折れる時だってたくさんありますよね。私はそんな時にいつでも帰ってくることができる場所でありたいと思っています。
■これから目指すところは「卒近代」
私は28年の間「卒近代」という言葉を言い続けてきました。ポストSDGsと言われているウェルビーイング学会の副代表理事も勤めていますが、いよいよ時代が追いついてきていることを実感しています。今まですずかんゼミから、これからの未来を担うエポックメーカーが続々と巣立っていってくれたことはこの上ない喜びです。新時代でも様々な分野で活躍する若者を輩出できるようなコミュニティにしていきたいと思っています。そのために、すずかんゼミは今年から完全インカレ化しました。どこの大学からでもどの地域からでも気軽に参加できるようになっています。
私自身も卒近代を目指す仲間が集まる環境を作るエポックメーカーになりたいと思っています。文部科学大臣補佐官として学習指導要領を改訂した際、「探究」という時間を高校に入れました。これからの時代は各々の関心に対して皆が深く探求できるように教育していくためです。近代ではGDPに貢献できる人材にするためにマニュアルを覚えてそれを正確に迅速に再現できる人を育成していましたが、今ならAIでもできますよね。
それから「公共」という教科書も高校生に向けて作成しました。毎年80万人の高校生が公共を学んでくれることは非常に嬉しいです。
「卒近代」という時代を作るために今まで様々な取り組みをしてきましたが、これからも日本の教育のために活動していきたいです。
■大学生へのメッセージ
一つはやりたいことを思う存分やってほしいということ。やらない後悔よりもやって後悔する方がいいです。もう一つは同じ世代の友人と同志を増やしてほしいということ。SNSが普及した今、知人ならば簡単にできると思います。一晩語り明かすと友人になり、苦楽を共にすると同志になります。
社会人になると契約というものが発生します。契約先との契約は守らなければいけないけれど、学生時代は縛られるものが圧倒的に少ない。義務を負っていない最後の時代なのです。人生のラストチャンスに自由を謳歌してください。
学生新聞オンライン2023年7月12日取材 慶應義塾大学2年 加藤心渚
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