株式会社BOOSTRY 代表取締役CEO 佐々木 俊典
ブロックチェーン技術を活用し、「直接金融」の実現へ
株式会社BOOSTRY 代表取締役CEO 佐々木 俊典(ささきとしのり)
■プロフィール
筑波大学大学院システム情報工学研究科卒後、SAPジャパンで金融ITコンサルに従事。
2008年から野村證券IB部門で資金調達業務を経験。
2016年から野村グループ内で新規事業開発部署に所属、野村ホールディング子会社のN-Villageに所属し、ブロックチェーンを活用した資金調達の調査研究等に従事。
2019年9月にBOOSTRYを立上げて現職。P2P金融とマーケティング×金融の実現に取組中。
ブロックチェーンを通じた、新たな資金調達モデルを提供する株式会社BOOSTRY。挑戦者とファンを繋ぎ、世の中に新しい価値を生み出すことをビジョンに掲げる。半数は野村総合研究所からの出向メンバーで構成された25人の少数精鋭の社員たちと共に、新たな金融市場開拓を進める同社の佐々木俊典社長に、その想いや今後の展望を伺った。
■IT×金融の可能性を模索し、会社を設立
「これからの時代は、人工知能かバイオテクノロジー産業が伸びる」。そう考えたとき、生物は苦手だったので、AIの研究をするために筑波大学に進学しました。プライベートの時間も含めて研究室に足を運ぶほど、AIの研究に没頭していました。就職を考えた際には、ITとビジネスが分かるコンサルタントになりたいと考え、ドイツのソフトウェア会社の日本法人の会社に入社。IT導入プロジェクトやシステム開発を通じて、企業向けのITサービスに関する幅広い知見を学ぶことができました。その後、企業のビジネスに直結する金融の勉強をするために、野村證券に入社しました。野村證券では投資銀行部門で企業や自治体等の資金調達業務や、さまざまな金融商品による資金調達の実務を経験しました。転機となったのが、2016年です。グループ内に新設されたFintechの新規事業開発部で公募があり、異動を決意。そこでの新規部署や別会社の立ち上げで経営や戦略に携わったのち、「自分のやりたいことを実現したい」という想いから、2019年に野村ホールディングスの傘下としてBOOSTRYを設立しました。
■目指すのは、金融機関がいない世界
私たちはブロックチェーンを活用して有価証券の管理ができるプラットフォーム「ibet」を提供しています。従来、株式や債券といった有価証券の権利者になるためには、証券会社を介する必要がありました。そこで、我々が考えたのが、これまで証券会社が担っていた機能を、ブロックチェーン技術で再定義することで、証券会社を通さない証券取引の仕組みです。ブロックチェーンとは、簡単に言えば情報をみんなで共有するシステムのこと。この技術を応用することで、有価証券の権利者が誰なのか、一瞬で分かるようになりました。ブロックチェーン上では、全員で情報を共有するため、セキュリティが高く、悪用されにくいとの利点もあります。また、「ibet」の利用は無料なので、様々な企業がネットワークに参加することで、日々システムの機能がアップデートされ、利用しやすいものになります。特定の企業に依存せず、オープンかつ無料なブロックチェーンの仕組みを提供している点が他社サービスとの差別化となっています。
■挑戦者と応援者を結ぶ
ibetの利用者のニーズは大きく分けて2つあります。1つ目は、資金調達。社債や不動産の証券化品の発行により、資金を調達できる点です。2つ目は、ファン創りです。アプローチが難しい個人投資家との交流をibetのプラットフォームで実現できます。大企業をはじめとする挑戦者とファンである投資家との繋がりを強化できるのが、我々のサービスの強みです。そして近年、このような仕組みを使った社債は個人投資家のニーズだけではなく、法人の投資家のニーズも高まってきています。これはいわゆるグリーンボンドといった環境事業の資金調達で発行される債券に注目が集まっているためです。このように時代に即したサービスを提供するには、ibetのようなオープンソースのプラットフォームが最適だと言えます。
そんなibetのネットワークを利用して、有価証券ではないもので私たちが提供するサービスの1つにibetアプリというスマホアプリがあります。このアプリを使うと、企業が発行する会員権やチケットなどの売買が、アプリ上で完結しますし、優待のようなチケットを受取れます。また、電子上の権利を流通させられる仕組みを、クレジットカードだけで取引を完結させられます。
なお、金融機関向けサービスの運営を行う際、有価証券の発行者の集客までは自社で行なっていません。なぜなら、社員が25人と少人数なので、全部を自分たちでカバーするのは難しいからです。代わりに、有価証券を買った投資家に優待をデジタルチケットで配布したいという要望に対してアプリを提供し、投資家とのリレーション作りをサポートなどをしています。
■金融機関がいない世界を目指して
BOOSTRYのメンバーとして来てほしいのは、好奇心とバランス感覚を持った人です。好奇心がないと人は成長しませんし、成長し続けることが成功に繋がると考えているからです。また、入社後は、与えられたことだけではなく、好奇心をもって、様々なことを吸収してほしいですし、一つのことだけに興味を持つのではなく、バランスよく物事に関心を持ってほしいです。そのためには、アンテナを高く張り巡らせて、専門領域外の周辺の事にも興味を持ち引き出しが増やすことが重要です。自分の仕事だけではなく、組織についても語れる人を社内で増やしたいですね。
あと、仕事のスタンスとして、私が社員によく言っているのが「何事も楽しむこと」です。仕事は真剣に取り組んでほしいですが、楽しくないと吸収は遅くなってしまいます。ですから、私たちは進め方ややり方は個人の裁量に任せ、会社としての方針だけ定めています。社員に任せる文化だからこそ、新しい事業が生まれやすくなります。実際に、法人の財務部向けに作ったインベスターズというサービスは、現場レベルの課題を抽出して、事業化したものですが、これも社員に任せる風土があったからこそ、生まれたものだと思います。
今後の展望は、今あるサービスで市場を広げていくことです。大企業の中にあるベンチャー企業なので、自分たちの収益を増やすより、市場をひろげ、その市場の中で活動する企業にに貢献したいと考えています。そして、究極的には、金融機関がいない世界を作りたい。そんな真の直接金融の社会を実現させるために、ブロックチェーンの参加者や活用事例を増やし、挑戦者と支援者の繋がりをさらに強固にしていきたいと思います。
■大学生へのメッセージ
学生のみなさんへ伝えたいのは、自分が好きになったことには、全力で取り組んでほしいということです。「将来の役に立つ」とか「仕事に活かせそう」とかは気にせず、自分が本気になれるものをいくつか見つけて取り組んでほしいです。そのとき得たものは、社会に出てからきっとあなたの力になります。
学生新聞オンライン2024年2月5日取材 明治大学大学院1年 酒井躍
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