日本たばこ産業株式会社 サステナビリティマネジメント部長 向井芳昌

事業発展とサステナビリティの両立で、心豊かな社会へ

日本たばこ産業株式会社 サステナビリティマネジメント部長 向井芳昌(むかいよしまさ)

■プロフィール

京都府宇治市生まれ。1992年 日本たばこ産業株式会社へ入社。大津営業所、枚方営業所勤務の後、1996年より約10年間、本社で広報・開示関連業務に従事。2009年から約4年間、JT International Internal Audit(オランダ) に赴任。帰国後、飲料事業部企画部長、経営企画部部長などを経て2019年1月より現職。

JTグループの発展と共に、人々や地域との繋がりを大切にし、持続可能な社会の構築を目指すサステナビリティマネジメント部。2019年の設立後、初代部長として数々のサステナビリティに関する取り組みを展開させている向井芳昌さんに、持続可能な社会に向けた具体的な取り組みや今後の課題などについて伺った。

大学時代は、映画ばかり観ていました。ビデオショップに行けば棚の端から端まで全作品をレンタルしたり、映画館でアルバイトをしたり、当時は観たことがない映画がないほどでした。この情熱を何か形にできないかと考え、「映画を作りたい」という憧れを抱くようになりました。当時は、バブル景気を背景に文化芸術活動を支援している会社が多く、JTも音楽イベントや映画製作を行っていました。「たばこ会社」というJTの印象よりも、「映画を作れるかもしれない」という好奇心がきっかけで、この会社に興味を持ったんです。そして、面接まで進むと、喫煙者率の低下の風潮の中で、中心に据えていた国内たばこ事業の他にも新しいことを始めようとするムードを感じました。大企業ならではの安定したビジネス基盤があるからこそ、新しさを受容する柔軟性があると感じ、その面白さに惹かれて入社を決めました。

■事業の発展と社会課題の解決は、繋がっている。

 5年前の2019年、CSR(企業の社会的責任)推進部に変わってサステナビリティマネジメント部が設立され、私が初代部長に就任しました。就任前までにサステナビリティに関する取り組みに携わったことはほとんどなかったので、私にとって新しい挑戦でした。しかし、仕事に取り組む中で、次第に、以前に担当していたリスクマネジメントとの共通点を見つけたのです。会社が円滑に発展し続けられるよう、今後を予測して対策を打つリスクマネジメントと、自然や社会と企業が共に持続可能であるために環境や人権などの課題解決に取り組むサステナビリティマネジメントは似ていると思いませんか。おかげで、これまでの経験を活かして、新しい挑戦に繋げていくやりがいを新たに感じられました。

就任後に私が注力したことは、全ての社員にサステナビリティに関する取り組みを自分ごととして考えてもらうことです。過去にはCSRは社外からの評価のために「やらなければいけないもの」として捉えられている時代もありました。「事業は事業として行い、その中で得た利益をCSRに回す」というように、事業とCSRは別物だと考えられていたんです。しかし、現在のESGやSDGsといった考え方においてはそうではなく、社会課題を解決することと、事業を発展させていくことは繋がっている。サステナビリティを事業戦略の中にきちんと組み込むことが必要です。そうした考え方の変化につれて、世の中でサステナビリティに対する認識も高まる中で、社内でも「JTだからこそできるサステナビリティ活動を実践しよう」とする意識が生まれたことは、大きな進歩だと感じています。

■人権問題に向き合い、心の豊かさを実現する課題に挑む

 昨年、JTは、非連続に変化していく社会の中で、社会とJTグループが持続的な存在であり続けるための方向性を明確にするものとして、「心の豊かさを、もっと。」というパーパスを策定しました。我々は、このパーパスを実現するために、自然や社会が持続可能であってはじめて、人の暮らしや企業の活動も持続可能になるという考えのもと5つのマテリアリティ(重要課題)を設定しました。自然との共生、お客様の期待を超える価値創造、人財への投資と成長機会の提供、責任あるサプライチェーンマネジメント、良質なガバナンス、の5つです。これらのマテリアリティへの取り組みを、社員全員が自発的に意識し、実践してほしいと思っています。

 また、これらのマテリアリティには、全て「人権尊重」という考え方が共通しています。JTが事業を展開する地域の中には人権リスクが高い国も多く含まれています。例えば葉たばこはアフリカなどで作られていますが、児童労働のリスクがあります。児童労働には、労働による児童の教育機会の喪失などの根本的な課題が潜んでいるほか、背景にはたばこ栽培農家が労働者に対して人件費を十分に支払えないことなどが挙げられます。これらの課題を解決するために、現地の学校づくりなどの教育支援や、たばこ栽培農家への経済的支援も行っています。リスクを回避するために人権問題を抱える取引先と関係性を切る、というような企業側の理屈だけでは、課題の解決につながりません。人権被害を受ける側の立場に立って、根本的な解決をすることが求められます。こういった人権問題への取り組みも、社会の持続可能性を追求していく上で重要だと考えています。

もちろん、JTだけでは補いきれない場合もあるので、他の企業やNPOとも協力しあって、共にサステナビリティを目指していきたいと考えています。

■社会にアプローチする鍵は、サステナビリティ活動の「見える化」

 今後は、JTが現在どのようなサステナビリティへの取り組みを行っているのかを、より大きく社外に発信し、その領域に貢献する企業として様々なステークホルダーの方からの信頼度を高めていきたいと思っています。JTはたばこ事業の他にも医薬事業や加工食品事業なども行っていますが、商品やサービスを通じてのみでは、多くの方たちにアプローチする機会が少なくなってしまうんです。この問題に対して、JTグループならではの価値を、サステナビリティという視点から情報発信することでより多くのステークホルダーの皆様に会社の魅力をお届けできるのではないかと考えています。近年の会社の評価軸は、利益率だけではなくESGへの取り組みを通じた社会課題解決への貢献も視野に入れられてきました。サステナビリティ活動の「見える化」は今後も発展させていきたいと思っています。

■大学生へのメッセージ

 世界にも目を向けてほしいですね。私も4年間ほどオランダに赴任したことがありましたが、海外から日本を見るという経験はとても勉強になりました。環境の変化を恐れず、チャンスがあればぜひ飛び込んでみてください。少しの好奇心と柔軟性を持って、好きなことに全力で取り組み、充実した大学生活を送ってください。

学生新聞オンライン2024年2月14日取材 上智大学2年 吉川みなみ

津田塾大学4年 大川知/共立女子短期大学2年 猪本玲菜/日本大学2年 米満光里/上智大学2年 白坂日葵/上智大学2年 吉川みなみ/武蔵野大学4年 西山流生

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