味の素株式会社 取締役代表執行役社長 藤江 太郎

アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献

味の素株式会社 取締役代表執行役社長 藤江 太郎(ふじえ たろう)

■プロフィール

1961年大阪府出身。1985年に京都大学農学部を卒業後、味の素に入社。2011年フィリピン味の素社長、2015年ブラジル味の素社長など10年以上の海外勤務を経て2017年に常務執行役員、2021年執行役専務、2022年4月代表執行役社長CEO。同年6月から現職。

うま味調味料の「味の素」をはじめ、数々のヒット商品で知られる味の素。創業から100年を超えた今も、世界一のアミノ酸メーカーとして商品開発に注力し、幅広い事業分野で発展し続ける。その企業としての強みや魅力、大切にしているマインドなど、藤江社長にお話を伺った。

大学時代の所属学部は農学部でしたが、「ウィンドサーフィン部」と言った方が良いほどウィンドサーフィンに熱中していました。実際、ロサンゼルスオリンピックの最終予選まで勝ち上がったんですよ。惜しくも夢は叶いませんでしたが、風向きや潮の流れを予測し、臨機応変に判断する経験は、社長として会社の方向性を予測・検討する際にも活きていると思っています。スポーツに全力だった分、就活はのんびりでしたね。先輩から電話で誘われて、味の素の面接に行ったときは、すでに4年生の8月頃でした。面接で「味の素の商品を10個述べよ」と言われたのに、競合他社の商品を言ってしまい、怒られたり(笑)。でも、「面白い学生だ」と思ってもらえたようで、最終的には内定をいただきました。小学生の頃から、お年玉で調理器具を買うほど料理や食べることが好きだったので、今思えば良い縁だったと思います。

■海外赴任の経験が今に活きる

入社後は、人事部で採用や研修の担当としてスタートしました。実は、最初は人事より営業に関心がありました。しかし、会社の紹介やエントリーのアポ取りを電話で行うことでコミュニケーション力を養ったり、人事部として社員700名ほどの顔と名前を覚えたことで信頼関係を築いたりできました。結果的に、若いうちに社会人としての基礎を学べたと思います。社長に就任した今でも人の顔と名前を覚えるのは得意です。社長室を出て、各部署に顔を出したり、エレベーターで一緒になった社員と雑談をしたりしているからですね。顔と名前を覚えるのは信頼を得る第一歩。そこから対話をとおして社員の関心事を聞き、新たなアイデアに発展していくこともあるんですよ。また、中国やフィリピン、ブラジルなどでの長期の海外赴任経験も大きかったですね。42歳で赴任した中国では、広州の支店長になりましたが、現場は大赤字。業績が伸びない影響で給料や研修も不十分な状況でした。結局、完全な黒字化はできませんでしたが、どのように働きかければチームが一丸となれるのかを実践して学ぶ機会になりました。

■アミノ酸愛に溢れたアミノサイエンス

味の素の最大の魅力は、「アミノ酸愛」です。人間の身体の2割を占めるタンパク質は、20種類のアミノ酸からできています。味の素は、これらのアミノ酸が持つ、食べ物をおいしくする機能・栄養機能・生理機能・反応性という4つの特徴を研究する「アミノサイエンス」を行っています。たとえば、血液に含まれるアミノ酸の割合を調べることで、将来の生活習慣病の発病リスクを診断できます。診断後は「高血圧になりやすい人は食物繊維を取りましょう」というように、診断結果を元にした新たな食生活の提案も行います。食品会社はたくさんありますが、「食品× アミノ酸」に総合的に取り組んでいるところは当社が唯一無二ではないでしょうか。今は食品と「アミノサイエンス」から生まれた医薬品や電子材料などの事業利益の比率は7対3くらいですが、今後は1対1になるくらいに成長させたいと考えています。

■一人ひとりの理想を見つけたい

私が大切にしているのは、社員やお客様と「ありたい姿」を共有することです。2011年にフィリピンに海外赴任をしたときに、現場は「1ペソなら売れる」という1ペソ神話を信じて一袋1ペソの味の素を販売していましたが、6カ月間毎月赤字の連続でした。コスト高の中でも1ペソで売るために、一袋の内容量を減らして売っていたようでしたが、「うま味調味料としての味の素の良さを十分に伝えたい」という信念に立ち返り、2ペソに値上げして内容量を増やしました。それがお客様のニーズに合い、満足度が向上し、業績もV字回復。フィリピンの社員が日本で研修する予算も生まれ、社員の意識向上にもつながったのです。このような経験を通して、「ありたい姿」を共有してワンチームで取り組み、得られた利益は分配して新たなアクションにつなげる、という幸せの循環を学びました。これは社長になった今も意識しています。一人ひとりの理想は異なっていても、それらが重なり合う部分は必ずある。つまり、会社として掲げる「アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献する」という志と、社員が持つ個人の志が重なる部分を、共通の志として自発的に見つけてもらいたいんです。そして、それを仕事の動機付けにしてほしいですね。

■大学生へのメッセージ

一度しかない人生で、自分の「ありたい姿」を明確にしてほしいですね。それが見つかったらノートに書くことをおすすめします。言葉にして残しておくと後で見返せますし、きっと面白いと思いますよ。また、何かに打ち込むのも良いです。志に熱を持って、実力を磨く、「志×熱×磨」がモットーです。

学生新聞2024年4月1日発刊号 上智大学2年 吉川みなみ

駒澤大学4年 本多杏衣/日本大学1年 大森雨音/上智大学2年 白坂日葵/上智大学2年 吉川みなみ

集合写真撮影:下田航輔

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