株式会社トランジットジェネラルオフィス 代表取締役社長 中村貞裕 

“やりたいこと探し”に焦らなくていい。できることが「仕事」になる。

株式会社トランジットジェネラルオフィス 代表取締役社長 中村貞裕 (なかむら さだひろ)

■プロフィール

1971年生まれ。慶應義塾大学卒業後、伊勢丹を経てトランジットジェネラルオフィスを設立。その後外苑前のカフェ「Sign」オープンを皮切りに、飲食店運営や空間プロデュース、ケータリング事業などで話題となる数々のコンテンツを手がける。著書に『中村貞裕式ミーハー仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン / 2012年)。2022年にゴルフブランド「パシフィック ゴルフクラブ」を始動。

カフェブームの先駆けとなった「Sign」やオールデイダイニング「bills」など、数多くの話題の店を手がけてきた株式会社トランジットジェネラルオフィス。学生時代から起業を志していたという創業者の中村貞裕氏は、「ミーハーな性格が仕事の原点」だと語る。そんな中村氏に、興味深い大学生活のエピソードや、事業成功の秘訣について詳しくお伺いした。

子どもの頃から、よく言えば好奇心旺盛、悪く言えば熱しやすく冷めやすい人間でした。今では、そんなミーハーな自分をポジティブに受け入れているのですが、昔はそんな自分があんまり好きではなかったんです。大学受験だけは唯一頑張れたものの、学生時代はバスケ、スケートボード、サーフィン、バンドなど、はじめてはすぐやめてを繰り返す日々。しかし数年経つと、1つのことをずっと継続して努力し続けた人たちが成果を出し始めるんですよね。その姿を見て、何をやっても続かない自分に悶々とする毎日を送っていました。ただ、好きなことは人一倍多かったので、現在の妻である当時の彼女と、レストランガイド本に掲載されているお店を片っ端から周ってみたり、人を集めてカフェやクラブでイベントを主催したりなど、振り返ると充実した大学生活でしたね。

■人脈が次のステップへ進むきっかけに

僕が大学に入学したのは、バブル崩壊の年である1991年でした。そして迎えた就職活動は、就職氷河期真っ只中。ゼミナシ、部活所属ナシおまけに留年ありという学生だったので、それなりに苦労しましたよ(笑)。結果的に、卒業後は伊勢丹に入社することができましたが、きっかけになったのは元々ファッションが好きで、バイヤーの仕事に興味を持ったことでした。
しかし、百貨店という華やかなイメージとは裏腹に、入社後待ち受けていたのはルーティン化したアシスタント業務ばかり。下積みとして必要なことと分かっていても、飽き性な僕には全く向いていませんでした。そして「もう辞めよう」と思っていた2年目のある日、急に憧れだった先輩の元で働けることになりました。憧れの先輩である藤巻幸大さんは、若手デザイナーの発掘や育成を目的としたプロジェクト「解放区」など、当時の百貨店では考えられない革新的なアイディアを生み出して、一躍有名になった方です。そんな藤巻さんのアシスタントとして働けるのは、まさに夢が一つ叶った瞬間でした。以来、藤巻さんが退職されるタイミングまで僕も伊勢丹で働き続け、たくさんのことを学ばせてもらいました。また、絶大な影響力を持つ藤巻さんの周りには、常に人が集まっていたので、部下である僕も、その方たちと名刺交換をする機会をいただき、気付けば膨大な量になっていました。これを活用するしかないと考えた僕は、仕事で名刺交換した方々を中心に声をかけ、毎週金曜日にイベントを開催しました。イベントはたちまち話題となり、結果1万人ほどのリストを手に入れることになりました。このリストを使って何か面白いことができないか、そう考えていたときに、日本では空前のカフェブームが起こっていました。そこで、ちょうど運よく良い物件との縁があったので、カフェを始めることを決意。このお店を皮切りに、飲食店を続々オープンするきっかけとなりました。

■空間づくりなら「何でもやる・何でもできる」

当社はプロデュース、オペレーション、イベントの3つを軸に、いくつかの事業を展開してきました。飲食店ビジネスというとBtoCのイメージが強いと思いますが、僕たちの場合は半分以上がBtoB業務であり、クライアントの多くは大手企業や上場企業などばかりでした。そのためクリエイティブ分野では、クライアントからの案件に対して、1からプロジェクトを立ち上げ進めていきます。ユニークな事例としては、ある大学の学食や大手アパレル企業の社内カフェのプロデュースなど。また近年は、クライアント企業からオペレーション全般を委託されて手掛けるケースも多くあります。ここで大切なのは、クライアントニーズをしっかりと押さえながら、新たな視点で企業の課題解決を支援すること。海外ブランドをはじめ、幅広い業態で経験を培ってきた当社だからこそ、まだ世にない新たな価値創造を生み出すことができるんです。よく人から驚かれるのは、一つひとつのプロジェクトに対し僕らは、すべて“ALL トランジット”で挑戦していること。デザインやプロモーション、マーケティングなど各分野のスペシャリスト集団を抱える当社だからこそ、人々の期待以上に応えることができます。社員目線でいうと、本当に数えきれないほど豊富な業種があるので、社内にいながら多方面でチャレンジできる部分が魅力の一つですね。日本に朝食カルチャーを浸透させた「bills」をはじめ、海外企業とのライセンス契約も、当社だからこそ叶えられる大きな挑戦ですよね。

■「遊び場」づくりのプロフェッショナルとして

お店に来てくれたお客様に、非日常を味わってもらいたいという想いがあります。仕事が終わって帰る家がオフの場だとしたら、お店は入った瞬間にスイッチの入る、オンの場でありたいんです。そのため当社は、音楽やファッション、アート、食をコンテンツに魅力的な遊び場をたくさん提供しています。またオペレーションは、あえて「人に依存する」仕組みを採用。誰でも働けるシステム化された店は、僕らが目指す理想像ではありません。採用・育成コストがかかったとしても、お客様が「またあの人に会いたい」と思ってくれるようなスペシャリストたちを、今後さらに増やしていく予定です。当社が目指す先は、今までになかったカルチャーを日本の街に根付かせ、人々のライフスタイルに影響を与えること。僕らが仕掛けたものが単に一時的なブームとなるのではなく、より多くの人にとって素敵なライフスタイルとなれば嬉しいです。

■大学生へのメッセージ

学生時代、やりたいことが見つからないと悩む人は多いと思います。実際、僕自身もそうでした。でもある日考えたのが、もし成功するために100の知識が必要だとしたら、小さな1を100個持つことで、100のものを1つ持つ人と対等に戦えるということ。1×100も、100×1も、かけ算してしまえば同じなんです。それ以来、僕はやりたいことが見つからない自分を肯定的に捉え、“スーパーミーハー”に徹していくことに決めました。ぜひ学生の皆さんにも、好きなことややってみたいことはとことん突き詰めて、焦らず本能のままに生きていってほしいです。

学生新聞オンライン2024年3月12日取材 慶應義塾大学4年 伊東美優

慶應義塾大学大学院2年 賀彦嘉 / 津田塾大学1年 石松果林 / 慶應義塾大学4年 伊東美優

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