第82期名人戦七番勝負第1局(藤井聡太名人VS豊島将之九段)

藤井聡太名人に豊島将之九段が挑戦する 第82期名人戦七番勝負第1局が、4月10・11日(水・木)に東京都文京区「ホテル椿山荘東京」で開幕された。4月11日、熱戦となった名人戦第1局2日目を取材させていただいた。

藤井聡太名人 将棋界の歴史に刻まれる大逆転劇
学生記者が見た、名人戦の重圧

名人戦七番勝負は、一つの対局につき、それぞれが9時間の持ち時間を持ち、2日間かけて行われる。先に4勝した方が名人位を獲得する。

藤井名人は、将棋の全8大タイトルを独占し、前人未到の8冠として将棋界の頂点に立つ。一方の豊島九段は、過去に将棋界で最も権威あるタイトルの竜王と名人を、同時に保持していたこともあるなど、将棋界を代表する棋士の1人だ。藤井名人に対し、ここまで公式戦で11勝しており、最も多く勝っている棋士である。この両者の七番勝負から、どのような棋譜が生み出されるのだろうか。

対局は、豊島九段の趣向を凝らした出だしとなる。定跡形から外れ、21手目にして、前例のない未知の局面に突入した。両者譲らず、互角の形勢で1日目が終了し、2日目に入った。

2日目も熱戦が続き、互角の形勢で夜になった。両者が一歩も引かず、熾烈な大激戦を繰り広げている。この対局の行方を検討している控室の棋士達からは、年間で最も優れている対局に送られる「名局賞」の単語が聞こえてくる。手が進み、豊島九段のカウンターが炸裂する。控室の棋士達の見解は、豊島九段優勢。勝負は大勢がついた。しかし、ドラマはここからだった。

122手目、豊島九段には、藤井名人の王様の逃げ場を塞いで、勝ちに近づく手があった。しかし、豊島九段は異なる手を選択してしまう。途端に、検討室の棋士達から悲鳴が起きる。この手が、敗着となる痛恨のミスだったのだ。一手のミスから勝負がひっくり返ってしまうのが、将棋の怖さだ。藤井名人は豊島九段のミスを逃さず、追い詰める。藤井名人の大逆転となり、豊島九段が投了した。

対局後の取材に対し、先勝した藤井名人は、「内容的には、押されている時間が長い将棋だったと思うので、しっかりと振り返って次局に繋げたい」と語った。敗れた豊島九段は、「少し時間もあったので、もっと考えなくてはいけなかった」と振り返り、敗因となった122手目をノータイムで指してしまったことを悔やんだ。23日、24日に行われる第二局について、「しっかりと準備して挑んでいけたらと思う」と決意を述べた。 8大タイトル全てを独占している藤井名人に対し、名人への復位を目指す豊島九段。藤井名人が名人戦を防衛し、八冠を更に磐石なものとするのか。はたまた、豊島九段が名人を奪取し、藤井八冠の一強時代に風穴を開けるのか。手に汗握る七番勝負から目が離せない。

■取材の感想

今回の取材は、夢のような機会でした。普段から棋書を愛読し、将棋会館や将棋のイベントにも赴くような大の将棋好きな筆者にとって、タイトル戦の対局室での取材は、現実のものとは思えないほど感謝な時間でした。タイトル戦の張り詰めた雰囲気、名人戦の重圧を間近で感じました。一手のミスが勝敗を逆転させてしまうことが将棋の怖さであり、面白さです。藤井名人による、終盤での大逆転が印象的だった本局を通して、最後まで何が起こるか分からない将棋の魅力を、改めて体感しました。

検討室での棋士の先生方による対局の検討も非常に興味深かったです。張り詰めた対局室の雰囲気とは違い、棋士の先生方が、和気藹々と本局を検討されている風景がとても印象的でした。あらゆる角度から、様々な将棋の魅力を感じた取材でした。

取材:中央大学3年 亀井義和喜

写真提供:日本将棋連盟

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