松坂桃李 過去にとらわれ過ぎず、常に〝ネクストワン〞

俳優 松坂桃李(まつざか とおり)

■プロフィール
2008年、男性ファッション誌『FINEBOYS』の専属モデルオーディションでグランプリを獲得し、モデルとしてデビュー。2009年10月、テレビ朝日系特撮『侍戦隊シンケンジャー』で俳優デビュー。2018年『孤狼の血』シリーズで第42回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞をはじめ、各映画賞を受賞。現在、映画『スオミの話をしよう』が公開中。来年1月24日に時代劇映画『雪の花-ともに在りて-』の公開を控えている。

デビュー以来、話題作に出演し続けている松坂桃李さん。さわやかな見た目や謙虚な姿勢とは裏腹に、主要映画賞を数々受賞されているその演技力と存在感は、見るものを圧倒させる迫力がある。そんな松坂さんに、俳優になろうとしたきっかけや仕事に対する向き合い方、大切にしている考え方や日々心掛けていることなど、真摯にお話いただいた。

■芝居を続ける覚悟を決めた大学時代

学生時代、将来の夢やなりたいものはありませんでした。この仕事を始めたきっかけは、大学2年生のときに応募した雑誌、『FINE BOYS』のモデルオーディションです。当時は、ノリや応援してくれた友人たちの勢いに身を任せて行動しただけで、将来のことを深く意識していなかったように思います。運よくグランプリを頂いてモデルデビューしましたが、活動は月2回と少なかったので、正直に言うとアルバイト感覚でした。ところが、グランプリ特典として所属していた事務所に勧められて『侍戦隊シンケンジャー』のオーディションを受けたら、合格してしまったのです。演技経験も知識も一切ない状態で挑んだので、本当に運がよかったなと思います(笑)。

撮影が始まってから大学に通う頻度が減ってしまい、一旦は休学という形を取りました。俳優業と向き合う中でお芝居の楽しさを知り、この仕事でやっていきたいという決意が固まりました。大学中退を親に伝えたときはかなり反対されましたが、迷いはありませんでした。何か一つのことを長く続けるという覚悟を持ったのは、このときが初めてだったように思います。この撮影は、今では考えられないような叱咤激励をされる厳しい現場でした。自分を奮い立たせたいときには、いつもこの現場を思い返すくらい大切な経験です。もう一つ、この仕事に魅力を感じたきっかけとして印象的な作品が『僕たちは世界を変えることができない。』という映画です。カンボジアで現地の子どもたちと行った撮影は衝撃的でしたし、初の海外ロケということもあって多くのことを学びました。役を演じる中で、世界を知ることができました。この映画への出演を機に、さらに俳優業への期待感が増しました。

■自分の人生を豊かにするための〝仕事〞

仕事のために生きているのではなく、自分の人生のために仕事があると考えています。最初は仕事に全てを捧げるくらいの気持ちでしたが、今はあえて俯瞰的にとらえるようにしています。いい意味で肩の力が抜けるので、これまで気が付かなかったところにまで目が向いたり、当たり前のことに対しても感謝できるようになりました。俳優業の魅力は、いろいろなことを疑似体験できるところです。どの役を演じていても、自分にもこういう一面があるかもしれないと思うときがあり、役を通して新しい自分を発見することもあります。自分の人生を豊かにするためのものとして仕事を捉えているからこそ、うまく切り替えられている側面もあるのかもしれません。役作りも人それぞれいろんな方法がありますが、僕の場合はとにかく台本を読み込みます。平均100回前後は読むのですが、読むことで台本に書かれていない部分まで見えてきます。想像しながら役を自分の中に落とし込んでいく作業は、結構楽しいです。

仕事で一番楽しいのは、作品が終わった瞬間です。撮影期間中は楽しいことよりもつらいこと、大変なことの方が多いので、完成したときの達成感や充実感は格別です。監督やカメラマンなど関わってくれたすべての人たちと、共に走り抜けられた喜びも大きいです。一度終わった作品は大事な思い出として取っておくので、見返して反省したりすることはあまりないです。自分を見るのがちょっと恥ずかしいというのもあります(笑)。

昔、ある人がチャップリンに次のような質問をしたそうです。「あなたのベストの作品はなんですか」と。すると「ネクストワン」と答えたそうです。自分のベストは常に次。すごくいい言葉ですよね。僕もそう言えるくらい、毎回自分の力を出し切りたいです。過去にとらわれすぎず、次に進んでいくというマインドは自分の中で大切にしている考え方の一つです。

■自分の出番に向けて力を蓄える

僕は性格的に飽きっぽいところがあるので、毎回少しずつハードルを上げるように心がけています。ハードルを越えていくためにより頑張れるし、長く続けられると思っています。届きそうで届かない小さな目標をいくつも作ることも大切です。今後は脚本を書くことにも挑戦してみたいと思っていて、表現という意味ではどちらも同じだと考えているので、裏方での表現にも興味があります。もともと妄想好きで、雑誌の連載をさせていただいていた経験もあるので、書きたい内容のストックはたくさんあります。実現のために、常にアンテナを張ることを意識しています。

俳優としては、ジャンルを問わずに出られるようになりたいです。どんな役でも呼んでもらえれば経験にも学びにもなります。そのためには、今頂いている仕事にひたむきに取り組むことが大事です。常に自分のバランスシートの円を満遍なく大きくすることをイメージしています。

学生新聞2024年10月1日号 上智大学3年 池濱百花

映画『スオミの話をしよう
出演:長澤まさみ 
 西島秀俊 松坂桃李 瀬戸康史 遠藤憲一 
 小林隆 坂東彌十郎
脚本と監督:三谷幸喜
2024年9月13日(金)より公開中
ⓒ2024「スオミの話をしよう」製作委員会

上智大学3年 吉川みなみ/国際基督教大学2年 渡邊和花/上智大学3年 池濱百花/上智大学3年 白坂日葵

撮影:下田航輔

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