株式会社エイチ・アイ・エス 代表取締役社長(CEO) 矢田素史
偶然は自分で作ることができる 大事なのはマインドセット
株式会社エイチ・アイ・エス 代表取締役社長(CEO) 矢田素史(やだ もとし)
■プロフィール
1961年生まれ、広島県出身。陸上自衛隊を経て1993年に株式会社エイチ・アイ・エス入社。社長室長や人事部長、関西営業本部長、グループ会社の九州産業交通ホールディングス株式会社代表取締役社長などを経て、2020年にHIS取締役に。2021年最高財務責任者(CFO)、2022年代表取締役社長(COO)、2023年代表取締役社長(CEO)に就任、現在に至る。
”「心躍る」 を解き放つ”をパーパスに掲げ、国内から海外まで幅広い品揃えで旅行をサポートするHIS。近年は、旅行事業の他にも、ホテルや飲食、通信などの事業にも力を入れるなど、多様な展開を見せている。顧客の視点に立ち課題に寄り添うことで満足度の高い旅行を生み出し続ける、HISの矢田素史社長に話を伺った。
■防衛大学校時代から“空”を夢に見ていた
私が入学したのは、防衛省所管の防衛大学校でした。毎日が厳しい寮生活なので、楽しみといえば長期休暇でした。海外に興味があったので3年生の夏にヨーロッパへ、4年生の夏にアメリカへ語学留学しました。まだインターネットがない時代でしたが、文通を通じてフランスとオーストリアに友達がいたので、ヨーロッパに旅行した際には彼らに会いに行きました。今思えば、文通を始めたのは、その当時から世界に興味があったからなのだと思います。ずっと「空」「世界」「外」に憧れを持っていたので、将来は防衛駐在官になって海外勤務することを夢見ていました。
■大事なのはスキルではなくマインドセット
HISは、パーパス(存在意義)として”「心躍る」を解き放つ”を掲げています。その「心躍る」体験をお客様にお届けするため、自ら手を挙げて挑戦する社員には、たくさんの機会が回ってくる。それが会社の魅力だと思います。創業時より「常に挑戦者である」というアイデンティティにより、自らが手を挙げて挑戦して行く姿勢は、この40年以上続く会社の成長の原動力にもなっていると思います。
また、何事もスピードを持って決断します。コロナ禍中には、旅行事業以外で何か新しい事業を開始しようと、10前後の新規事業が立案されましたが、早いものでは半年で実施にまでこぎつけました。「考えてから行動する」ではなく、「走りながら考える」という姿勢で、新しいことに“スピードを持って”挑戦し壁を乗り越えていくという点も、自社の魅力だと思います。
■多種多様な事業をやっているからこそ、満足度を上げるスピードが速い
自分自身が顧客として、何かモノを買ったり、何かを食べたりするとき、いつも意識するのが「そのサービスを提供する会社が、どれだけ自分のことをわかってくれて、満足させてくれるか」です。私は、少し値段が高くても、自分を満足させてくれるサービスや商品を選ぶようにしています。選ばれるための必須要素は、お客様に合ったものをどれだけご提供できるか、です。A社、B社、HISと比較される場合は、他社より多くの価値をご提供できるか、あるいは多くの選択肢をお見せして、その中から満足度の高いものを選んでいただくこと。それが、弊社と他社を差別化する最たるものだと思います。
旅行商品は、飛行機とホテルの組み合わせだけで考えれば、各社同じ組み合わせで同じように作ることはできます。そこに、いかに付加価値を付けられるかが重要です。接客もそうですが、ルーヴル美術館の貸し切りなど、HISにしか仕入れることができない+αの提案にも力を入れています。
そして、何より大事なのは心の部分でお客様に寄り添うことです。お客様との対話を通じて、「こういうものが流行っている」「こういうものが求められている」といった情報を入手したら、データベースに入れ、既存の商品やサービスを、時代の流れと共に変化させることも重要だと感じています。
■今後はコンセプトのあるホテルで他社と差別化
今後は、旅行事業以外の拡大を考えています。旅行事業と、ホテルなどの旅行関連事業、および飲食などの非旅行事業の利益の割合が、1:1になるようにしていきたいです。注力する事業の中でも、その先頭を切っているのがホテルです。現在、我々はリゾートホテルやビジネスホテル、旅館など8ブランド42ホテルを運営しています。特にIoTを活用した『変なホテル』のように、コンセプトがはっきりしているものは、今後ますますブランディング化を進めていきたいと思います。お客様から選んでいただけるホテル、宿泊自体が目的となるホテルになるよう、他社とのコラボルームにも力を入れております。こういったビジネスモデルは他の事業にも応用していきたいと考えています。
■学生へのメッセージ
就職活動に一生懸命取り組むことは大事ですが、必ずしも思い通りには進まないこともあるでしょう。また、希望する会社に就職できたとしても、自分にその仕事が合っているのか、その会社で成功するのかどうかはわかりません。未来はとても不確実です。このような不確実な未来を生きていくためには、次の二つの心構えが大事だと思っています。
“人生は、何が起こるかわからないから面白い”という楽観性をもつこと。そして、
“人生は、自分でなんとかするのだ”という主体性をもつことです。
スタンフォード大学のクランボルツ博士が提唱する「計画的偶発性理論」(1999年)によれば、個人のキャリアは偶然の出来事の積み重ねによって決定されると考えられています。つまり、偶然をチャンスと捉えて活かすことでキャリアを向上させられるのです。ちなみに、この偶発性は、「好奇心」「持続性」「楽観性」「柔軟性」「冒険心」という 5 個の特性をもっている人に起こりやすいと考えられています。チャンスになる偶然を増やすためにも、ぜひみなさんにもこの資質を大事にしてほしいと思います。
学生新聞オンライン2024年9月2日取材 東洋大学3年 橋本千咲
國學院大學 2 年 寺西詩音 / 国際基督教大学 2 年 若生真衣/ 慶應義塾大学 3 年 山本彩央里 / 上智大学 3 年 吉川みなみ / 立教大学 1 年 松本美沙希 / 文化服装学院 2 年 橋場もも /東洋大学3年 橋本千咲 /國學院大學 1 年 本多剛
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