NOSE SHOP株式会社 代表取締役 中森友喜
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NOSE SHOP株式会社 代表取締役 中森友喜(なかもり とものぶ)
■プロフィール
日本初のニッチフレグランス専門店「NOSE SHOP(ノーズショップ)」の代表取締役。取り扱う香水のセレクトと、ストーリーの翻訳を手掛け、その取扱品種の幅広さと翻訳量は日本随一を誇る。ポッドキャスト番組「香りと言葉のラジオ『NOSE knows』」でパーソナリティを務めるなど、日本の香水市場拡大を目指し、多岐にわたって活動する。
「日本における香りの文化を変えたい」。そんな想いから日本ではまだ馴染みのなかったニッチフレグランスを手掛ける「NOSE SHOP」。その代表である中森友喜さんは、“香りを通じて人生を豊かにする”という新たな価値観を提案する。
「何もしてなかった」。これが学生時代の僕のすべてです(笑)。授業にはほとんど出ず、軽音サークルで友達とお酒を飲んだり、バイトをしていただけでした。目標なんてまるでなくて、ただ流されるように生きていましたね。転機が訪れたのは大学3年生のときでした。父が亡くなり、経営していた会社を手放すことになったんです。そのとき初めて「自分自身で生きていかなきゃいけない」と気づいたのですが、正直言って、すぐには行動できませんでした。気持ちばかり焦って、実際にはどうしていいかわからないまま、日々を過ごしていました。ただ、その際、心に引っかかっていたのが、父の言葉でした。父はお酒を飲みながら、よく僕に仕事の話をしてくれました。「仕事って大変だぞ」なんて話は、よく聞きました。でも、愚痴を言いながらも、どこか楽しそうに見えたんです。その姿が、今思うと自分の生き方を考えるきっかけになっていたんだと思います。
■国税局で見た「会社のリアル」
大学を卒業するころには、ようやく「働かなきゃ」と思えるようになりました。でも、普通の民間企業には就職できる気がしなかったんです。それで、試験の点数さえ取れれば入れる国家公務員を選びました。国税局で法人税調査を担当した経験は、今の自分を作る大きな財産になったと思います。いろんな会社の財務状況を実際に見て、どの会社が強いのか、どこがダメなのか、実際の数字で学べる。経営者と直接話をして、「どうしてこうなったんですか?」と突っ込むこともできました。その中で、経営の面白さと難しさを肌で感じることができましたね。
■日本でも可能性を広めたいと思った「香り」という文化
国税局で3年間働いた後は、もっと現場でビジネスを学びたいと思ってベンチャー企業に転職しました。そこでファッションやコスメの世界に触れる機会を得ることができました。その後、会社を設立しアパレルやコスメの事業を手がけている中で気が付いたのは、「香り」が持つ無限の可能性について。香水はただの商品ではなく、香りは人の記憶や感情に深く影響を与える、特別な力を持つものです。香水の文化の中心地ともいえるヨーロッパでは、香りは生活の一部として根づいていて、ニッチフレグランスと呼ばれる、香りやビジュアル、ストーリーにこれまでにない革新性をもつ独創的な香水も、多くの人々に親しまれていました。その一方で、日本では香水に対する文化や市場の成熟度がまだ低く、香りを楽しむという価値観自体が十分に浸透していないことを痛感しました。この「香水砂漠」ともいわれる日本で、香りが持つ可能性をもっと広められないか、そんな挑戦心が芽生えたのです。
■香りを気軽に自由に楽しむ「NOSE SHOP」をオープン
香水の新たな文化を日本に根づかせるため、2017年にNOSE SHOPをオープンしました。最初のステップは、世界中からニッチフレグランスブランドを日本に輸入し、販売することでした。しかし、これはなかなか簡単な道ではありませんでした。まず、海外の香水ブランドからすると、日本は「香水が売れない国」という固定観念が強く、日本の百貨店や商業施設からも「香水は売れないから」と、取引を断られることが多々ありました。それでも諦めず、「ニッチフレグランスの魅力を日本で広めたい」という熱意を伝え、少しずつ信頼を得て、輸入や販売のルートを築いていったのです。また、日本には香水に対する消極的なイメージがあります。「香りが強すぎると迷惑」「香水は特別な日のもの」という考え方が根づいているんですよね。そのため、ただ輸入して販売するだけではなく、香りをもっと身近に楽しむ文化を作るためのアプローチが必要で、店舗のデザインやカジュアルな接客スタイル、さらには香水ガチャ®︎のような遊び心を取り入れたコンテンツなど、あらゆるアイデアを駆使して「香りって楽しいんだ」ということを伝えようと努力しています。日本ではまだ広く知られていないニッチフレグランスを専門に扱うセレクトショップですが、今では全国に12店舗(2025年2月末現在)を展開し、1,150種類以上の香水を取り扱うことができるようになりました。
■香りで人生を豊かに
僕が目指しているのは、香りがもっと日常に根付く社会です。天気の話をするみたいに「今日の香り、いい感じだね」って言い合えるようになったら素敵だと思いませんか? 香りには、記憶や感情を豊かにしてくれる力があります。だからこそ、香りを通じて人生をより豊かに、面白くする提案をしていきたいですね。
■大学生へのメッセージ
学生時代は、自由に動ける貴重な時間だと思います。僕自身、だらだら過ごしていた期間が長かったですが、それも結果的には自分を見つめる時間になりました。やりたいことが見つからなくても、焦らなくて大丈夫です。いろいろ試しているうちに、きっと道が見えてきます。そして、学生という肩書を存分に活かしてください。僕も今大学院に通い直していて改めて思いますが、「学生です」というだけで、いろんな人に会いやすくなります。人生に無駄な時間なんてないので、ぜひ自分のペースで楽しみながら進んでみてください!
学生新聞オンライン2024年12月18日 法政大学4年 島田大輝

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