CBcloud株式会社 代表取締役CEO 松本隆一

「ドライバーの価値を上げる」というぶれない軸

CBcloud株式会社 代表取締役CEO 松本隆一(まつもとりゅういち)

■プロフィール
1988年生まれ、沖縄県出身。高校時代に独学でプログラミングを修得。高校卒業後、航空保安大学校を経て国土交通省に入省。航空管制官として羽田空港に勤務。2013年に退省、他界した義父の運送業を継ぎ、配送ドライバーを経験。同年CBcloud株式会社を設立。

2024年問題を筆頭に、物流業界には多くの課題がある。それらの課題をテクノロジーを駆使して解決しているのがCBcloud株式会社だ。同社はピックゴーやスマリューというサービスを提供しており、登録する個人事業主のドライバー数は6万人と日本一の登録数を誇る。今回は同社を率いる松本隆一氏に学生時代の話や社長になるまでの経緯、大学生へのメッセージをお伺いした。

高校時代はゲームが好きすぎて、夜中までゲームをし、授業中は寝て、放課後に野球をするという生活を送っていました。そんな中、塾の恩師から「ゲームを“やらされている”うちはまだまだだ。自分でゲームを作って人を幸せにするくらいになりなさい」と言われ、衝撃を受けました。それまで「作る」という発想がなかったのですが、この言葉をきっかけにエンジニアリングに興味を持ち始めました。

 ちょうどその頃、実家が塾を起業していて、オンデマンド授業システムを作ることになりました。座席についてIDとパスワードを入力すると、受講している授業を受けられる仕組みです。これは恩師の一言で始めたエンジニアリングで、人に価値提供できたいい経験になりました。

 その後、大学受験のタイミングでエンジニアリングの道に進むことも少し考えましたが、最終的には小さい頃から持っている航空への興味が強く、航空管制官を目指して航空保安大学校へ進学しました。

■義父の思いを引き継いで

航空管制官時代に現在の妻と出会いました。付き合っていく中で、妻の父が運送業をやっていることを知りました。彼の営んでいた運送業が、いまのCBcloudの前身に当たります。

 義父はもともと国道沿いの新古車販売業をしていました。多店舗展開していない車屋は、基本的には地域密着型のビジネスのため、売上の上限がすぐに見えてしまいます。そこでアイデアマンだった義父は、冷凍軽貨物車を開発・販売し始めました。20~30年前はどこのメーカーも冷凍軽貨物車を作っていなかったため、この車は飛ぶように売れました。

しかし、次第に義父は物流業界の闇に直面します。彼は定期点検で戻ってくるドライバーたちの話を聞くうちに、その裏側にある厳しい実情を知るようになりました。物流業界は多重下請け構造になっており、最終的に仕事を請け負うのは個人事業主のドライバーたちです。仕事の依頼を一度断ると次の仕事が回ってこなくなるなど、彼らの社会的地位は決して高くありませんでした。そんな話を聞くうちに、義父は「冷凍軽貨物車を売ることで、結果的に人を不幸にしてしまったのではないか」と考えるようになったのです。

 普通の車屋さんであれば車を売って儲かれば終わりですが、義父が違ったのは、困っているドライバーたちと向き合い始めたことです。具体的には、自社の車を買ってくれた人に対して、仕事を確保し、割り振るという、運送事業を始めたのです。これを聞いた時に私はただただ感動しました。誰かの困り事を解決して、さらにそれをビジネスにしていることがかっこいいなと思ったのです。そこに共感し、航空管制官を辞めて義父の事業を手伝うことを決めました。

 私が手伝い始めた当初、運送業界は本当にアナログな世界でした。義父のもとには、配送依頼の電話が朝夜問わず電話でかかってきて、受けた依頼を、自分がつながっている個人事業主のドライバーに電話で依頼する形で対応していました。これだと義父が24時間対応しなければならず、事業も拡大しません。そこで私たちは、お客さんから来た依頼が全部自動でドライバーさんに流れるような仕組みを作ることにしました。しかし、この仕組みづくりを始めたタイミングに、義父が亡くなってしまいました。その後、彼の想いを引き継いで私が社長になり、今のCBcloudが立ち上がったのです。

■ぶれない軸があれば、失敗しても成功できる

創業以来、大切にしてきたのが「ドライバーさんの価値を上げる」という軸です。

 たとえば、以前某EC事業者さんが日本で物流事業を始める時、弊社に声がかかりました。当時、社員が10名のときに100億円もの案件のオファーをもらい、非常に魅力的ではありました。しかし、この案件を受けるとドライバーさんをただ派遣するだけになってしまい、彼らの価値向上につながらないと感じたため、お断りしました。

 普通の会社は、お金を落としてくれる人のために何をするかを考えます。しかし、弊社はドライバーの皆さんの支援を最優先に考え、彼らのために何ができるかを一貫して追求してきました。ピックゴーではドライバーさんに仕事を正当な対価で提供できる仕組みを、スマリューでは仕事を遂行する上で生産性を上げられるシステムを提供してきました。これが結果的に個人事業主のドライバーさん6万人の登録につながり、紹介できるドライバーが多いという弊社の強みにつながっているのだと感じています。

 「軸をちゃんと持つ」ということは、一緒に働く人に求める条件でもあります。ぶれない軸さえ持っていれば、たとえ失敗をしても最終的に成功できると考えています。これは仕事でも人生でも大事なことです。

 弊社では、今後もドライバーさんの価値を高めつづけ社会的地位向上に努めていきたいです。今は「自分はドライバーだ」と胸を張って言える人は少ないです。私たちの仕事にゴールがあるとしたら、ドライバーさんたちの親友や子供が「自分もドライバーという職業を目指す」と言い出したときに、自信を持って背中を押せることです。また、物流業界に限定せず、地方人材などのポテンシャル発掘にも力を入れていきたいと考えています。

■大学生へのメッセージ

興味があることだけでなく、興味がないことにも積極的に挑戦してほしいと思います。

 僕自身の例を挙げると、飲み会に誘われたら基本的に全部行きます。なぜかというと、どんな場でも新しい出会いや気づきがあるからです。大人になると、つい「あの人がいると楽しくなさそう」「この話題になりそうだから面白くない」と決めつけがちですが、実際にそうなるかどうかはやってみないとわかりません。結局のところ、場の面白さは自分次第。自分が楽しもうとすれば、どんな環境でも価値ある時間に変えられます。

 人は、自分の過去の経験をもとに判断しがちです。しかし、それでは新たに得られる経験の幅も連鎖的に狭くなってしまいます。僕自身も、37年間生きてきましたが、自身の経験のみで判断してはいけないなと感じています。

 ぜひ、与えられた機会にすべてトライしてください。興味の有無に関係なく、一歩踏み出してみることで、新しい世界が広がります。経験は、あなたの未来を形作る大きな財産です。

学生新聞オンライン2025年2月21日取材 法政大学4年    鈴木悠介

法政大学4年    鈴木悠介/東洋大学2年 越山凛乃

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