日本郵政株式会社 取締役 兼 代表執行役社長 増田寬也

全国に張り巡らされた郵便局ネットワークで地方創生へ

日本郵政株式会社 取締役 兼 代表執行役社長 増田寬也(ますだひろや)

プロフィール
1977年建設省入省。95年岩手県知事(3期12年)を務めたのち、07年安倍・福田内閣で総務大臣・内閣府特命担当大臣を歴任。09年野村総合研究所顧問、東京大学公共政策大学院客員教授。20年より日本郵政株式会社社長に就任。令和国民会議(令和臨調)共同代表、人口戦略会議副議長。趣味はラグビーなどのスポーツ観戦、乗馬、スキー、カヌー、サイクリングなど。

中央省庁勤務や岩手県知事、総務大臣、大学客員教授や民間企業のトップを務める。官・政・学・産、それぞれの分野での経歴をもつのが、日本郵政株式会社の増田寬也社長だ。メールやSNSの普及によって郵便事業が大幅に縮小する中、地域社会に密着した日本郵政グループの事業転換が話題を呼んでいる。人口減少をテーマとする中で、国と企業という両視点から、今後の事業の可能性についてお話を伺った。

大学時代は、省庁で仕事をするとは思ってもいませんでした。真面目に授業を受けるというよりは、旅行で国内を飛び回ったり、よく本を読んでいたりした学生時代でしたね。今と比べて就職活動の時期も遅かったこともあり、国家公務員試験を受けたのは大学4年生の10月でした。具体的な夢があったわけではありませんでしたが、元公務員の父親の背中を追いかけて、入省を決断しました。

■ライフワークとなった人口減少問題

建設省では主に街づくりを担当しておりました。都市計画を策定するにはその都市の人口推計が必要です。当時はまだ日本全体が人口増加の傾向にあり、また、日本はベッドタウン型の都市が多く、快適な生活圏を維持するうえでの人口のキャパシティなども予測していました。人口推計は都市の性格によって大きく変わるという面白さがあり、自然と日ごろから考える癖がつくようになりましたね。のちに「人口減少問題」が私のライフワークとなったのは、1995年に岩手県知事に就任した時、ここで地方の現実を目の当たりにしたからです。日本全体の人口が減少し始めるのは2008年からですが、知事就任時の岩手県ではすでに人口減少は始まっておりました。そこで、地方小都市に分散されていたインフラや交通などの機能を都市部に集中させる「ダウンサイジング」が必要であることを痛感しました。当時はその必要性をなかなか理解してもらえませんでしたが、地方消滅を公表して10年が経過した今、重要な論点となっております。また、総務大臣在任中、3000ほどあった市町村が合併し1700ほどにまで基礎自治体の数が減少しました。賛否両論はありましたが、市町村の財政基盤が強化され、少子高齢化等の問題に対してより効率的に対処できるようになったと思います。私が長年ライフワークとして取り組んできた「人口減少問題」は、大学生の皆さんもいずれ社会人として働くようになったら、どんな仕事であっても避けては通れない問題だと思います。そして、人口減少問題は、現在、日本郵政においても対処すべき喫緊の課題である一方、グループの強みを活かせる分野となっています。

■ネットワークを生かして地域の物流を支える

日本郵政グループには154年の歴史があり、主に郵便事業において近代日本の郵便・物流を支えてきました。現在はグループ全体で約35万人もの社員がおり、人材を地方に派遣するなどより地域に密着した事業(ローカル共創イニシアティブ)にも力を入れています。グループの魅力は、全国におよそ24,000局張り巡らされている郵便局ネットワークです。現代はメールやSNSが発達し、年賀状などの郵便物は大幅に減少していますが、このネットワークがあることで、より地域に密着したサービスを提供できると考えています。例えば、他社と協力してスーパー等の購入品を自宅まで届けたり、地域で採れた作物を畑から市場に運んだりといった、地域間での運送はその一例です。人口減少や少子高齢化が叫ばれる中、地方の行政や生活をどのように維持していくかは重要な課題です。現代は、インターネットで注文すれば、早くて当日・翌日には届きますよね。ですが、人口の少ない地域では、より一人ひとりのお困りごとに応えられる仕組みがなくてはなりません。「今からちょっとだけ荷物を届けてほしい」。そんなちょっとした配送をお手伝いしています。例えば、採れた野菜を飲食店に卸している生産者さんがいるとしましょう。収穫などで生産者さんが忙しい時期には、彼らに代わって野菜を飲食店などに届けることで、彼らの手間を省くことができるのです。地方の物流を維持するための運送に特化し、幅広い地域に配送ネットワークを持つ日本郵政グループだからこそ、地方創生に目を向けることができると考えています。

■地方行政の役割を担う

近年は物流だけではなく、日本郵政グループが地方行政の役割を担う可能性も見えてきました。人口減少に伴って役場に勤める職員が不足しているため、業務を代替する必要があるためです。役場に限らず、例えば、郵便局と駅を併合することで、局員が駅員として切符の売買や発着案内をする取り組みも行われています。人口が減少し、横のつながりが希薄化している中、郵便局や駅は、地域の人たちが集まる拠点としても大切です。また、医師の少ない地域では、郵便局内でオンライン診療を実施し、地域の暮らしや健康を守っています。現在はオンライン診療技術の向上もあり、MRI画像や写真を送れば、どれだけ遠くに離れていても診療できるようになりました。さらには、現地でしかできなかった手術も遠隔操作でできるようになりましたよね。こうした手術をもできる診療場所として、さらには処方箋の集荷や配送、お支払いも兼ねて郵便局内を使用していただけるように整えているところです。人口減少が加速する中、地域に密着した視点を大切にしながら、リアル拠点の強みを活かし、地域行政の仕事を代替することなどにより、郵便局を地域拠点の1つとして成り立たせていくことを目指しています。

大学生へのメッセージ

人口減少が叫ばれる現代、若い世代の皆さんは多くの負担を感じているかもしれません。ですが、今は一人ひとりの存在や個性が見えやすい時代だと思います。以前と比べて挑戦する機会も増えていると思うので、ぜひマルチタスクで様々なことに挑戦して、成功のチャンスを掴んでほしいです。失敗することもたくさんあると思いますが、成功者はたくさん失敗をしているものです。失敗したからこそ得られる学びを大切にしてください。

学生新聞オンライン2025年4月3日取材 上智大学4年 白坂日葵

上智大学4年 白坂日葵 / 城西国際大学2年 渡部優理絵 / N高等学校3年 服部将昌

関連記事一覧

  1. No comments yet.