東京海上ホールディングス株式会社 専務執行役員グループCDO 生田目雅史

金融×テクノロジーで未来を拓く、異色の挑戦者。

東京海上ホールディングス株式会社 専務執行役員グループCDO 生田目雅史(なまため まさし)

■プロフィール

37年以上にわたり、金融とテクノロジーの最前線で活躍してきた東京海上ホールディングスのCDO(Chief Digital Officer/最高デジタル責任者)である生田目雅史氏。日本長期信用銀行、金融庁、外資系投資銀行、VISA、ブラックロックという華々しい経歴を経て、現在東京海上グループで新たな挑戦に挑む生田目さんが語る、学生時代に学んだ「信頼の大切さ」とは。また、「デジタル技術×保険」の舞台裏も探ります。

学生時代に力を入れていたのはマジック

大学時代は東京大学法学部に在籍し、司法試験に挑戦しましたが、失敗。ここから早く社会に出て、自分の力で稼ぎたいという思いが生まれ、就職活動をすることになりました。勉強以外で特に熱中していたのはマジックです。ステージマジックを披露するサークルで会長を務めましたが、メンバーが少なかったので、募集や宣伝に力を入れて、30人だったメンバーを150人規模まで増やしました。規模が大きくなると皆からの会費などをもとに大きなスケールのステージができるようになり、成長することの大切さに気づきました。
また、人体切断のマジックやイリュージョンを成功させるには、3分のステージに対して、300時間もの練習量が必要です。途中でめげてしまわないように、お互いを励ましあうことが大事ですし、信頼は助け合いから生まれることを学びました。そして、仲間は自身の発言や行動を見ているので、信頼を失わないためにも「嘘をつかないこと」が大切だなと痛感しました。支え合い、舞台も成功させる中で、今の仕事にも通じるリーダーシップと責任感が育まれていったように思います。

数多の金融機関で、多様な経験を積む

大学を卒業した1988年に、日本長期信用銀行に就職しました。主に金融工学やデリバティブを担当し、留学の機会にも恵まれました。しかし、経営悪化を機に「このままでは世の中の役に立てない」と感じ、入社10年で退職を決断しました。転職後は、金融庁の外部職員として2年間勤務し、日本の金融行政の一端を担いました。
その後は、ドイツ銀行やモルガンスタンレー証券などで13年間、金融機関チームと民営化チームの責任者として投資銀行業務に携わります。東京海上グループは当時の顧客の一つで、海外M&Aをサポートした経験もあります。さらに、VISAでは日本の経営陣として決済の分野に関わり、資産運用世界最大手ブラックロックでは日本法人の取締役を歴任しました。東京海上への転職を意識したのは、外資系金融機関で働くうちに東京海上グループが主に海外での成長のために積極的な投資を行うのを見て、今までの外資系投資銀行での仕事の経験を活かしてより大きな仕事に携わることができるのではないかと思ったからです。また、銀行の経営危機があった若手時代には果たせなかった、日本の金融機関の一員として、世界の多くのお客様の役に立つ仕事がしたいという気持ちもありました。

保険とは、社会の発展や挑戦を後押しする仕事

東京海上グループは、保険を中心とした事業を国内外で展開しています。保険とは、万一の事故や災害から人々の生活を守るだけでなく、社会の発展や挑戦を後押しする仕組みです。保険は事故や災害の「補償」だけではなく、その保険の枠組みがあることによって社会全体の安全と安心を支えるインフラとしての役割を果たしています。たとえば、いまでは当たり前となったクレジットカードや自動車にしても、保険による補償がなかったら、ここまで普及しなかったかもしれません。保険があるからこそ、新しい技術や文化を社会が受け入れることができるのだと感じます。

災害リスクの予測などにも使われる保険業界のデジタル技術

保険業とは、様々なデータを活用する、デジタル技術との親和性が極めて高い産業です。保険料の算出の際も、どれほどの確率で該当する事故が起こり得るのか、という統計的なデータが必要です。一例ですが人工衛星やドライブレコーダーなどから収集される膨大なデータを活用・分析し、災害リスクの予測や事故原因の分析を行っています。
人工衛星からミリ波レーダーで撮る画像は、雲を突き抜けて地上も撮影することができます。写真の解像度も極めて高く、台風時でも港や道路、工場の様子をリアルタイムで把握できます。2024年の能登半島大震災の際には、車の通行量が極端に減っていた道路の情報をもとに、どこで土砂崩れが起きているかを迅速に分析・察知し、自治体と連携して対応を進めました。また、保険契約に付帯する当社独自のドライブレコーダー搭載の車は全国で100万台を超え、加速度データと映像をもとに事故の状況を正確に再現できるようになっています。最近では台風や水害で土砂崩れが起きそうな地形をセンサーとレーダーで把握する会社を買収、提携し、災害への備えも踏まえたデータ収集も行っています。このように先進的なデジタル技術は、保険制度だけでなく人々の安全を守る社会基盤の構築体制にも貢献しています。

大学生へのメッセージ

就職活動では、期待と不安が入り混じると思います。私自身、業界を金融のみに絞らず一業種一社受けるようにしましたし、一時はアナウンサーすら考えていました。その中で、ある銀行の方から「金融は未来の社会を創る存在だ」と聞いた時、働く意味が一気に広がったのを覚えています。
仕事にはそれぞれやりがいがあります。特に、「苦手なものに挑戦する」「無理かもと思った仕事に立ち向かう」その一歩こそが、本当のやりがいや成長を生みます。私は転職などで様々な仕事を経験しましたし、苦労もしましたが、やりがいのある仕事を見つけることができました。皆さんも社会の中で皆さんそれぞれの人生の目標が見つかるはずです。ぜひ、みなさんのエネルギーを積極性と挑戦する力に向けていただきたいです。そして、不安な時にこそ、自分を信じ、自分の可能性に制限をかけてしまうことなく、どんなことでも行動して良い結果を出そうと努力し、結果を積み重ねていけば、視野はどんどん広がりますよ。

学生新聞オンライン2025年6月30日取材 東京理科大学1年 金丸颯人

情報経営イノベーション専門職大学​1年 ​徳原拳聖 / 東京理科大学​1年 ​金丸颯人
津田塾大学3年 ​石松果林 / 駒澤大学​2年 ​前田康介

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