東急不動産株式会社 代表取締役社長 社長執行役員 星野浩明
「やってみる」から、都市は動き出す。

東急不動産株式会社 代表取締役社長 社長執行役員 星野浩明 (ほしのひろあき)
■プロフィール
1965年9月生まれ埼玉県出身。慶應義塾大学経済学部卒業。1989年4月、東急不動産株式会社に入社。オフィス・商業施設事業などに従事。執行役員、取締役などを経て2023年4月に東急不動産株式会社代表取締役社長。「100年に一度」と言われる東京・渋谷の再開発などをけん引する。
「この公園、いいな」という学生時代の気づきから東急不動産の星野浩明氏は、不動産業界に関心を持ち、入社後は都市に緑を届け、人が集まる理由をつくり続けてきた。バブルもリーマンもコロナも乗り越えてきたその原動力は、「逃げない・諦めない・へこたれない」。その言葉には、不安を抱える学生にも響く、リアルな情熱と覚悟が詰まっている。
私は1985年から1989年にかけて大学に通っていました。当時はバブル経済の真っ只中で、株価は毎日のように上昇していましたし、学生でも資産運用に関心を持っていた時代でした。学生の頃の私は、とにかく人と集まるのが大好きで、勉強よりも、サークル仲間と一緒に過ごす時間を大切にしていましたね。毎日のように大学で顔を合わせては、そのまま街へ繰り出して、よく語り合っていました。特に打ち込んでいたのは「シーズンスポーツ」です。当時流行していたインカレサークルに所属して、テニスを中心に、その季節ごとにいろんなスポーツを楽しんでいました。「まずはやってみよう」というスタンスが基本で、仲間とのつながりが何よりの原動力でした。
■「この公園、いいな」から始まった不動産への関心
そんな私が不動産業界に興味を持ったのは、何気ない瞬間がきっかけでした。ふと街を歩いているときに「この公園、気持ちがいいな」と感じて、じゃあこれは誰がつくっているんだろうと調べ始めたんです。土地や建物がどう動くのか、どう価値を生んでいくのかを追いかけていくうちに、「建てる側」に回れば、街そのものの形づくりに関われると気づきました。3年生の頃には不動産業界への志望を固めて、東急不動産への入社を決めました。
入社後に最初に担当したのは、蒲田駅前にある、屋上観覧車で有名な「東急プラザ蒲田」(所在地・東京都大田区)のリニューアルでした。駅前の一等地とはいえ、私もまだ駆け出しで、建物などの制約も多くて、なかなか私の当初の想定通りにはリニューアル計画は組み立てられませんでした。実際にやってみないと分からないことばかりでした。だからこそ、挑戦し続けるしかない、そう感じた仕事でした。
その後、2008年にはリーマンショックが起きて、業界全体が大きな打撃を受けました。建設途中のプロジェクトも、資金繰りが難しくなって、融資が止まるという事態にも直面しました。そのあと処理を通じ、「自分は何のためにこの仕事をやっていたんだろう」と、自問自答した時期もありました。それでも私は、「完成した建物には必ず意味がある」と信じて、仕事に向き合い続けました。「途中で投げ出さない。答えが出るまで立ち止まらない。」それが、私の仕事観です。
■渋谷再開発。「来たくなる街」をもう一度
現在、私が主に携わっているのが、渋谷の再開発です。東急グループ全体で長年取り組んできた、鉄道と都市が一体となったまちづくりの集大成ともいえるプロジェクトです。ただ、コロナ禍を経て、人の流れは明らかに変わりました。在宅勤務が普及して、「わざわざオフィスに来たくなる理由」が求められるようになりました。だからこそ、「また行きたくなる街」をもう一度つくり直す必要があると感じています。渋谷のような街は、ファッション、音楽、動画といったカルチャーの発信地でもあるんです。そういう街においては、「雰囲気」や「空気感」こそが、街の価値を決める要素になるんですよね。私はいつも、見た目は軽やかに、でも中にはしっかりと想いを込めるようにしています。そんな都市のあり方を、これからも追い続けたいと思っています。
私たちのオフィスが入っている「渋谷ソラスタ」でも、そうした思想を反映した空間づくりをしています。各部署が自由にレイアウトを考え、緑を多く取り入れた空間にしたフロアもあります。これらの多くは従業員の皆さんの発案。ボトムアップの風土が、ここにはしっかりと根づいていると思います。
また、私が都市開発をするうえで大事にしているキーワードのひとつが、「緑のネットワーク」作りです。たとえば、明治神宮から外苑、青山、表参道といった我々が「広域渋谷圏」と呼んでいる都心のエリアを、ビル屋上などに点在する緑でつないでいく緑のネットワークという構想を描いています。一見するとそれぞれの緑がバラバラに見えるけれども、上空から俯瞰すればちゃんとつながっています。それは生態系にも良い影響を与えますし、都市に“やすらぎ”をもたらしてくれるものだと思っています。
■エネルギー事業、地方連携…進化するディベロッパー像
東急不動産は、近年、再生可能エネルギー分野にも力を入れています。太陽光パネルなどの発電施設を設置するために地元関係者と協議しながら土地を開発するなど、都市インフラの視点で、不動産とエネルギーとを融合させた新しい事業を行うこともしています。さらに、神奈川県相模原市や北海道松前町など地方自治体との協業なども進めています。多様な暮らしの形を支えるのも、まちづくりの一部と言えると思います。
「自分が本当に暮らしたい街って、どんな街だろう?」の問いを胸に、人と自然が共に生きる都市を目指して、これからも歩みを止めずに進んでいきたいと思います。
■「まずやってみる」姿勢を、若い人に伝えたい
知らないことがあるとすぐに諦めてしまうこともあるもしれません。でも、大事なのは「まずやってみる」こと。やってみて、自分の言葉で語ってみる。そこからすべてが始まる、と私は思います。そして、できるだけ多くの人と会って、語り合ってほしいと思います。ネットの情報だけでは得られない「人の温度感」って、すごく大事なんです。
■学生へのメッセージ
今は景況感が比較的良い環境が続いていますが、今後、社会に出て働いているうちに景気変動の波がどこかで訪れ、苦労することもあるでしょう。そういう時にも心持ちを強くしておくことが重要ですね。長い社会人生活、必ず凸凹を体験するときが来ます。凹んだときもそれを跳ね返せるよう、心身共に常に備えておくことが重要だと思います。文系理系関係なく、諦めない胆力のある学生に期待しています。
学生新聞オンライン2025年7月30日取材 國學院大學3年 寺西詩音

学習院女子大学 3年 岩井美穂 / 東京理科大学 1年 金丸颯人 / 國學院大學 3年 寺西詩音
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