株式会社北海道日本ハムファイターズ チーフ・ベースボール・オフィサー 栗山英樹

一人ひとりの心に寄り添い、世界一愛されるチームへ

株式会社北海道日本ハムファイターズ チーフ・ベースボール・オフィサー 栗山英樹(くりやまひでき)

■プロフィール
1961年、東京都生まれ。創価高校、東京学芸大を経て84年ドラフト外でヤクルトスワローズへ入団。89年にゴールデングラブ賞を獲得し、90年シーズン限りで現役引退。引退後はスポーツキャスター、白鷗大教授などを歴任。2012年に北海道日本ハムファイターズの監督に就任。2021年まで10年間、指揮を執りパ・リーグ優勝2度。2016年には日本一に輝き、正力松太郎賞を受賞。2022年から野球日本代表「侍ジャパン」トップチームの監督を務め、2023年の第5回ワールド・ベースボール・クラシックで3大会ぶりの優勝を果たした。2024年に北海道日本ハムファイターズのチーム編成と運営の最高責任者となるチーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)に就任。

2023年、WBC日本代表監督として侍ジャパンを世界一へと導いた栗山英樹さん。圧倒的な信じる力でチームを一つにした名将は、どのような歩みを経てその信念に辿り着いたのか。プロの世界で味わった挫折、そして指導者として貫く、一人ひとりに寄り添う姿勢。現在はファイターズのCBOである栗山さんに、野球界の未来に対する熱い想いを伺った。

大学時代は、将来に向けて、明確な計画を立てて何かに取り組んでいたわけではありませんでした。しかし、野球が大好きで、学校の先生になりたいというイメージは持っていました。いまとなっては、そんなフワフワした感じが良かったのだと思います。あらゆることを吸収しようとするので、好奇心を持って物事を面白がることができたからです。
ただ、幼い頃から一番好きで大切だったのは野球でした。子供の頃から、プロ野球の世界で野球がしたいという夢がありました。私はそれまで、「やらない後悔」をずっと経験してきたので、大学時代で進路を考えたときは、もう人のせいにせず、自分の責任で決断しようと心に決めました。「やらない後悔より、やる後悔」を選び、プロ野球の入団テストを受けました。できるかできないか、そういうことではなく、自分でやりたいことを自分で決めて、前に進むべきだと思ったからです。プロ野球だけは諦めたくなかったし、諦めようとも思いませんでした。

■周りのために自分に何ができるのかを考える

選手時代は、とにかく良い選手になりたい一心で、ひたすらもがき苦しんでいました。プロの世界で直面した圧倒的な力の差におののき壁にぶつかりましたが、その経験は今の自分に繋がっています。組織が勝つためには自分をどう活かせるかについて考え、工夫を重ねる中で、能力がないからこそのやり方があると気づきました。どのポジションにいても、組織が勝つための形や、周りの人が喜んでくれることを考えることはできます。誰かが喜ぶために、自分ができることは何かを考えると、やるべきことが自ずと見えてくるものです。
誰にでも、自分の特徴を活かせるものは必ずあります。しかし、「自分」が主語になって「こうありたい」と考えすぎてしまうと、かえって道は見えなくなります。相手が喜び、みんなからありがとうと言われる中でこそ、自分の居場所が自然とできてくると思います。
選手時代、自分がうまくいかない時でも寄り添ってくれた監督や、愛情を持ってくれた人たちの存在は、非常に大きな支えでした。人が一番苦しいのは、誰からも相手にされないことだと思います。だからこそ、一人ひとりとしっかり向き合い、寄り添うことが何より重要であると教わってきたので、指導者として今でもその想いは大切にしています。

■ファイターズに関わる一人ひとりの幸せが何よりも大切

現在は、チーム・ベースボール・オフィサーとして、ドラフトの戦略会議やチーム編成など、チームの全体像を見る立場にあります。私が人に何かを伝える際に意識しているのは、「一人ひとりを活かすことが全て」だということです。頑張ろうと思えたり、感謝の気持ちが芽生えたりするのは、自分の心を大切にされた時だと考えています。心の感じ方は人それぞれですから、相手の立場に立って考え、どれだけ自分ごととして寄り添えるかが重要です。常にそうした意識を持ち、相手を信じ切ること。その心は必ず相手に伝わり、本人の自信にもつながります。自分が本当に感じていることを伝え、一人ひとりと向き合って話すことを大切にしています。
やりがいを感じるのは、選手たちの笑顔を見たときです。彼らが活躍したり、成長を感じていたりする嬉しそうな表情を見ると、そのお手伝いができてよかったと思います。その笑顔が、全てのファイターズ関係者の笑顔に繋がっていくので、携わってよかったと思う瞬間です。
北海道日本ハムファイターズは、世界一愛されるチームを目指しています。働く人がここで働いてよかったと思い、その家族も誇りに感じ、応援してくれる方々もファンでよかったと思えるような、人を大切にするチームでありたいと考えています。
また、チームの都合だけでなく、選手一人ひとりの立場にも寄り添うことを意識しています。例えば、成長できる若いうちに海外へ挑戦することが選手のためになるのなら、たとえチームが勝ちにくくなったとしても、背中を押して送り出します。それも、ファイターズに関わる一人ひとりの幸せが、何よりも一番大事だからです。

■野球は、「人」が点を取るスポーツ

日本の野球界に対しては、メジャーリーグのように大きくなってほしいという願いを持っています。メジャーに行くとお給料が日本でもらっていたものの何倍にもなるという現状は、やはり悔しいものです。子供たちが「ああなりたい!」と憧れるような夢を持てるようにしていきたいです。
野球は、個人戦でありながらチーム戦でもあるという、両方の要素を併せ持っているところが魅力です。だからこそ、自分が責任を負うことを感じつつ、誰かのために動くことが大切です。また、球技の中で唯一「ボール」ではなく「人」が点を取るスポーツであり、そこに野球の本質があると考えています。人が最後にホームに帰ってくることで点が入る。その点にも「人が大事」だという、野球の素晴らしさを感じます。野球には道徳やマナーが息づいているので、子供たちを教育するためのツールとしての大きく活用してほしいです。
日本の球界を大きくするため、まずは、日本のプロ野球チームを増やしたいです。経済的に限界だという声もありますが、やってみなければわかりません。人が育ち、競技レベルが上がっていけば、日本は本当の意味で世界と勝負できるはずです。これから日本を背負う子供たちが、ワクワクするような夢を持てる環境を作っていきたいです。

■大学生へのメッセージ

学生時代は、多くのことを吸収して深く考えることができる時期です。これまで多くの人を見てきて実感しているのは、決して能力が高い人が成功するわけではないということです。大切なのは、自分が持っている能力をどう活かすか、そしてそのためにどのような努力を積み重ねるかです。自分のことは、自分自身が一番わからないものです。しかし、誰もが素晴らしい能力を秘めている。重要なのは、それをいかに引き出すかです。できるかできないかで悩むのではなく、やるかやらないかだけだと思ってください。できないと思った瞬間に、できなくなってしまいます。あなたの体の中には、自分では気づいていない能力がたくさん眠っています。まずはそれを信じてください。限界は誰が決めるものではありません。自分で思っているよりも、天井はもっと高い。だから、限界という発想を持つのはやめましょう。
また、失敗の数が多い人ほど成長できます。物事が上手くいっているときほど、人間はあまり考えないからです。しかし、失敗からは多くのことを学べます。失敗したら、成長できるからラッキーだと思えるくらい、失敗を大切にする認識を持ってほしいと思います。

学生新聞オンライン2026年5月11日取材 東京都立大学4年 坂倉彩月

東京薬科大学4年 庄司春菜/武蔵野美術大学2年 石井生成/東京都立大学4年 坂倉彩月/武蔵野大学4年 吉松明優奈/獨協大学2年 増田乙花

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