株式会社湖池屋 代表取締役社長 佐藤章
自ら考え時代を拓け。失敗こそが最強の財産になる。
.jpg)
株式会社湖池屋 代表取締役社長 佐藤章 (さとうあきら)
■プロフィール
1959年東京生まれ。82年早稲田大法学部卒業後、キリンビールに入社。97年キリンビバレッジ商品企画部に出向後、キリンビール営業本部マーケティング部部長、九州統括本部長、キリンビバレッジ社長などを歴任。2016年フレンテ(現・湖池屋)執行役員兼日清食品ホールディングス執行役員に転じ、同年9月より現職。
「FIRE」や「生茶」を生んだキリンの伝説のヒットメーカーが、赤字だった湖池屋をどう蘇らせたのか。安売りを拒否し、プレミアムという新たな価値で市場を塗り替えた逆転の舞台裏に迫る。挫折を経験しながらも常に挑戦を続け、ゼロからイチを創り続ける変革者が語る、未来を担う若者に託す思いとは。
私は現在湖池屋で代表取締役社長を務めていますが、かつてはキリンビールやキリンビバレッジで、長く商品企画や広告戦略に携わってきました。皆さんがよく知る「一番搾り」のリニューアルや、缶コーヒーの「FIRE」、お茶の「生茶」などの立ち上げを経験し、現在は湖池屋でポテトチップスの価値を再定義する仕事に取り組んでいます。
早稲田大学在籍時は「マイルストーン」という学生雑誌の創刊に携わり、自ら表紙を描いたり、芥川賞作家の三田誠広さんのもとへ突撃取材に行ったりと、とにかく「自分が生きている証」を作りたい一心で活動していました。当時、法学部で学んでいたこともあり、司法試験の受験も考えましたが、判例や慣習に従う法の世界よりも、ゼロから新しいものを生み出す「ものづくり」に強く惹かれている自分に気づき、メーカーへの道を選んだのです。
■競争心が挑戦の原動力
キリンビールに入社した当初、私は営業職として配属されました。成績も良く、自分はこの仕事に向いていると自信を持っていました。しかし、そんな時に登場したのが「アサヒスーパードライ」でした。それまで売れていた自社の商品が、突然売れなくなる。圧倒的な勢いで市場を塗り替えるライバルの出現に、「これを超えたい、自分もこんな商品を作ってみたい」と強く思い、商品企画部への異動を志願しました。
携わってきた商品で特に思い入れが強いのは、缶コーヒーの「FIRE」です。当時のコーヒー市場は「ジョージア」や「BOSS」といった王者が君臨するレッドオーシャンでした。 「普通の新商品では勝てない」と考え、私は既存の枠にとらわれない新たなコンセプトを打ち立てました。社長から「FIREなんて名前はガソリンみたいだ」と猛反対されましたが、自分の信念を曲げず、従来の中年層向けの缶コーヒーとは異なる、若者に響く商品を追求し続けました。最終的に「コマーシャルのための曲づくりはしない」と断られていたスティーヴィー・ワンダー氏の広告出演を取り付けるなど、泥臭い努力を重ねてヒットに結びつけた経験は、今の私の基盤となっています。
■「湖池屋」へ名乗り直し、付加価値を与える
2016年の終わりに、私は湖池屋(当時のフレンテ)に入社しました。当時の会社は創業以来初めての赤字を経験し、売上も低迷している状態でした。そこで私が最初に取り組んだのは、社名を誰もが知る「湖池屋」に戻し、ブランドの核となるロゴマーク(CI)を一新することでした。亀甲の形である六角形のなかに「湖」を配したロゴは、日本らしさと品質への誇りを象徴しています。
当時のスナック市場を分析すると、定番的、男性向け、女性・お子様向けの市場では既存の商品と差別化できないと考え、当時まだ開拓されていなかった付加価値の高い「プレミアムゾーン」を創造する戦略を立てました。
それが形になったのが「湖池屋プライドポテト」です。単なるおやつではなく、少し贅沢かつ本格的な品質と美しさを備えた商品を目指しました。湖池屋のファンの方々は、王道をあえて選ばない、どちらかというとこだわりの強いオタク気質で、極端な商品を作っても、ユーザーはついてきてくれると確信していました。皆様のおかげで爆発的なヒットをたたき出し、それまで停滞していたスナック市場に「プレミアム」という新しいカテゴリーが生まれ、現在では市場全体を牽引する存在となっています。
■既存の概念を覆し、新たな意味を
これからの時代に求められるのは、機能の向上ではなく「意味のイノベーション」です。例えば、吸引力など掃除機としての性能を上げるのではなく「掃除を自分でする必要がない」という概念を生んだロボット掃除機のように、新しい価値を創造することです。
現在、ライフスタイルの変化により食生活が多様化しています。湖池屋もポテトチップスの枠を超え、腹持ちが良く健康的な、より「食」そのものに近い商品を提供する挑戦も始めます。お菓子というカテゴリーをより豊かで生活に欠かせないものへ進化させることが私の夢です。
こうした挑戦を共にする仲間として、心に「夢」を持つ人を求めています。自分が何に悩み、何に興味があるのかを自律的に考えられる人です。その夢が湖池屋の目指す方向と重なるなら、これほど嬉しいことはありません。当社は家族的な社風ながら、若手に大きな権限を与え「失敗を恐れず好きなことをやれ」と背中を押す会社です。自ら考え動ける人こそが、この激動の時代を切り拓けると信じています。
■大切なのは、迷いながらも進み続けること
学生の皆さんには、目的地まで最短距離で行こうとせず、ぜひ「回り道」をしてほしいです。効率だけが正解ではありません。寄り道や失敗の中で拾い上げた経験こそが、将来自分を助ける財産になります。
そしてもう一つ大切なのが「遠い人との掛け算」です。似た価値観の人とだけ話していては、小さな革新しか生まれません。あえて自分とは異なる感性を持つ人と対話し、一つのテーマに向き合ってみてください。その「遠さ」が大きいほど、生まれるブレイクスルーは劇的なものになります。
周りの評価を気にする必要はありません。迷いながらでも牛歩のように一歩ずつ進んでください。考え続けていれば必ず好機は訪れ、あなたたちにしか作れない「新しい意味」を世界に提示できるはずです。皆さんの若々しい感性が未来をどう変えていくのか、私は心から楽しみにしています。
学生新聞オンライン2026年4月20日取材 青山学院大学2年 松山絢美/早稲田大学3年 中澤京平

城西国際大学3年 渡部優理絵/早稲田大学3年 中澤京平/青山学院大学2年 松山絢美/情報経営イノベーション専門職大学2年 山田千遥


この記事へのコメントはありません。