株式会社アサヒコ 代表取締役社長 池田未央
「とにかく一生懸命」。「進化する豆腐」で未来を救う

株式会社アサヒコ 代表取締役社長 池田未央 (いけだみお)
■プロフィール
1972年生まれ。愛知県出身。
2018年に菓子業界から老舗豆腐メーカー(株)アサヒコにマーケティング部長として入社。豆腐を「植物性たんぱく源」と定義した「豆腐バー」を2020年に発売し、累計1億本超えの大ヒットへ導く。「価格訴求」ではなく「価値創造」による共創を豆腐業界に提唱。
2023年5月より同社代表取締役に就任。
アサヒコと言えば、2020年の発売以来、累計1億本超の売上を記録する「豆腐バー」。世界的にタンパク質不足が叫ばれる今、豆腐に何ができるのか。固定観念を覆す製品を発案し、2023年より代表取締役社長を務める池田未央さんに、これまでの歩みと未来への目標を語っていただきました。
私は、学生時代を東京農業大学農学部林学科で過ごしました。「日本人が使っているノートは世界一白い」と聞き、紙の勉強に興味を持ったことが入学のきっかけです。在学中はキノコ研究に打ち込み、そこから食にも興味を持つようになりました。ヒメマツタケが持つ体に良い成分などを研究したほか、学園祭で食品の展示も行いました。アルバイトもしていましたが、基本的には白衣を着て研究に没頭する毎日でした。試験管を振り、その日の研究が終わるとアルバイトに向かうという生活を送っていました。
当時考えてみると少し変わった学生だったかもしれませんが、私は就職活動をしていませんでした。とにかく研究に熱中しており、卒業時も就職先は決めていませんでした。卒業後の1年間は大学に残り、実験の手伝いをし、その後、アルバイト雑誌を見て、就職先を決めたのです。
最初に入社したのはキャンディーの会社です。「研究開発」という文字を見て、「ここなら白衣を着て試験管を振れるかもしれない」と期待して入社しましたが、実際に配属されたのは商品企画の部署でした。経験もないまま、コンセプトシートに商品案を書き出す日々が始まりました。
その中で、大きな転機となったのが「マスカットのど飴」です。当時ののど飴は苦いものが主流で、春や夏には販売されていませんでした。「のど飴は苦い薬で、秋冬の商品」というのが常識だったのです。私は「もっとライトなのど飴が欲しい」という思いから、「マスカットのど飴」の企画書を提出しました。時期もコンセプトも常識から外れていたため、事前の評判は決して良くありませんでしたが、結果的に商品化され、売ることができました。ここから私の商品開発の人生がスタートしました。
自分自身がファーストユーザーとなり、「自分だったらどんな商品が欲しいか」を考えること。世の中にある小さな不便や不満、「もう少しこうなったらいいな」という気持ちを見過ごさないことを、今も大切にしています。
■一転して豆腐市場へ 「発想力」で社長就任
お菓子業界で約20年働き、商品開発をやり尽くしたと感じた頃、8年前にアサヒコへ入社しました。これまでとは異なるカテゴリーである豆腐市場への挑戦でした。入社後すぐに市場分析を行い、どのような商品が並び、どのような競合がいて、どのような立ち位置にあるのかを調べました。当時の豆腐の平均売価は100円以下で、大規模設備を持つ企業が有利な価格競争の世界でした。アサヒコは設備面で劣勢にあるということを、入社から1〜2か月で把握しました。
そして3か月目、アメリカへ出張する機会がありました。現地のスーパーには「TOFU」が並んでおり、その姿がとてもクールに見えました。先入観のない市場で、豆腐は肉の代替となる植物性タンパク源として活用されていました。サステナビリティや健康志向の観点から、「第3のタンパク質」として受け入れられていたのです。焼いたり揚げたりして、ステーキやナゲットの代わりとして食べられていました。
日本の豆腐市場が縮小する一方で、アメリカ市場は拡大していました。その光景からヒントを得て、「豆腐バー」の開発を思いつきました。のど飴の時と同じように社内を説得し、開発に着手しました。そして2年後の2020年冬に発売し、最初の約1年で1000万本以上を売り上げる商品へと成長させることができたのです。入社5年目の2023年、「これからも新しい発想で会社を盛り上げてほしい」と言っていただき、社長に就任しました。
■未来に挑戦 アサヒコの「進化する豆腐」
アサヒコは、伝統的な豆腐や油揚げを作る会社です。プライドと技術を持つ職人たちが、その技術力を活かしながら未来に向けて挑戦を続けています。2050年には世界で12億人分のタンパク質が不足すると言われています。いわゆる「タンパク質クライシス」です。現在の日本人のたんぱく質消費は植物性と動物性が1:2の割合ですが、たんぱく質が不足する将来には動物性に偏った消費では皆が平等にたんぱく質を摂取することが難しくなります。そのため、豆腐を進化させたいと考えています。
現在は、若い世代にも受け入れられる植物性タンパク質食品として、豆腐のひき肉や大豆ミートなどの商品を展開しています。さらに、野菜やデザート感覚で栄養を摂取できる商品も考案中です。仕事や読書などなにかを「しながら」でも栄養が取れる食品を目指しています。現在は要冷蔵ですが、将来的には常温で持ち運べる商品開発にも取り組んでいます。
企画は机上で生まれるものではありません。電車の中や会話中、テレビを見ているときなど、日常生活の中で感じる小さな不便や違和感がヒントになります。それらを蓄積し、組み合わせることでアイデアが生まれます。アサヒコは、1000年続く大豆文化を担ってきた会社です。その伝統を活かしながら、未来に向けて革新と継承を両立させることが私たちの使命だと考えています。
■大学生へのメッセージ
現在は新卒採用を行っていませんが、求めるのはスキルよりも「挑戦したい」という気持ちです。ですので、今できることよりも、新しいことに挑みたいという思いを持っている人と働きたいです。自ら学び、失敗しても諦めず、挑戦を続ける覚悟のある人は必ず成長します。
私は就職活動もしていませんでしたが、目の前のことを一生懸命続けてきました。その結果、社長という立場に立つことができました。最初から明確なゴールがなくても構いません。大切なのは「やめないこと」です。何があっても続けること。それが道を切り開く最大の要因だと思います。煩わしいことや面倒なことこそ、前向きに取り組む姿勢を大切にしてみてくださいね。
学生新聞オンライン2026年2月9日取材 青山学院大学2年 米田麗美

東京女子大学2年 浮田梨紗/城西国際大学2年 渡部優理絵 /青山学院大学2年 米田麗美/昭和女子大学2年 阿部瑠璃香/武蔵野大学3年 吉松明優奈


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