e-dash 株式会社 代表取締役社長 山崎冬馬
AIの台頭と変化が著しい時代だからこそ、「高い志」で社会への本質的な価値提供を追い求める

e-dash 株式会社 代表取締役社長 山崎 冬馬(やまさき とうま)
■プロフィール
三井物産株式会社に入社後、主に電力等のインフラ事業の新規案件開発及びM&Aを担当。
2015年に米シリコンバレーに駐在し、エネルギーやモビリティ等のクリーンテック分野でのベンチャー投資・事業開発を担当。帰国後、e-dashの事業を企画・立案し、2022年のe-dash株式会社の設立と同時に代表取締役社長に就任。
2050年のカーボンニュートラル実現を目指す企業・e-dashは、220以上のパートナーと連携し、数千社におよぶ企業の脱炭素経営を総合支援している。代表の山崎冬馬氏に、現在の経営方針が生まれた背景やそのキャリア、会社の魅力、仕事への情熱、今後の展望について話を聞いた。
思い返してみれば、大学生の頃は苦しかった記憶が一番に思い浮かびます。というのも、当時在籍していた早稲田大学の理工学部建築学科は厳しいことで有名で、設計や課題に追われることが日常茶飯事でした。アルバイトも本腰を入れるほどの時間は到底確保できず、隙間時間に家庭教師を少しやっていたくらいです。とはいえ、友達と麻雀をしたり、旅行に行ったりと、遊びはほどほどに楽しんでいました。
でも、この時代に取り組んだ課題を通じて、「物事に対して色々な角度から考える」や「作っては壊し、作っては壊して考え尽くす」というプロセスが身に付き、現在の私の仕事の仕方に生きていると感じています。
学生時代はエネルギーや環境に対しての関心が、常に高かったわけではありませんでした。ただ、中学から高校にかけてフランスに住んでいたので、美しい街並みや都市計画に興味がありました。大学で建築史を専攻しカンボジアに長期滞在し、インフラの整備されていない状況を目の当たりにし、エネルギーに対する関心が芽生え始めました。
■研究の道からビジネスの世界へ
卒業時、研究者としての道も考えましたが、「研究で自分が社会の役に立てるのか」という葛藤を抱き、就職を選び、三井物産に入社しました。キャリアの初期においては、羽田空港の国際貨物ターミナルや、中東やアフリカの大型発電所の開発・建設事業を担当しました。
■数千億円の巨大プロジェクト
当時のキャリアの中で、今でも一番印象に残っているのが、モロッコでの発電所建設プロジェクトです。これは総事業費が数千億円という巨大プロジェクトで、文字通り「ゼロからインフラを作り上げる」という壮大な挑戦でした。現地の政府や様々なステークホルダーとのタフな交渉を繰り返し、課題を一つひとつクリアしながら、担当してから3年の月日をかけた末に、ついに契約締結に至りました。あの時のパーティーで、チーム全員と分かち合った感動と達成感は今でも忘れられません。
■シリコンバレーでの熱量とエネルギー領域における課題意識
モロッコでのプロジェクトを経て、新天地となるアメリカのシリコンバレーへと渡ることになりました。そこでのミッションは、現地でのクリーンテック(環境技術)関連の最先端のスタートアップたちと深く関わり、協業や事業開発を進めることでした。水素エネルギーやEV(電気自動車)といった次世代のクリーンエネルギー領域に身を置く中で、私は世界の大きなうねりを肌で感じることになります。
シリコンバレーには、アントレプレナーや切れ者のベンチャーキャピタリストたちの「自分たちが世界を変える」という気概と熱量が満ち溢れていました。日本では感じることのできない現地での熱気に触れ、多くのスタートアップと関わる中で再生可能エネルギーの活用拡大等のエネルギートランスフォーメーションへの自身の考えや想いを築いていきました。テクノロジーの進化を武器に、自分たちの手でエネルギーを生み出し、効率的に貯め、賢く使うことが可能になる。そう感じたシリコンバレーでの5年間こそが、のちに「e-dash」を立ち上げる最大のきっかけとなりました。
■「e-dash」立ち上げと本質的な価値の追求
帰国後、三井物産の新規事業として立ち上げ、2022年に会社化したのがe-dashです。日本政府が2020年10月に「2050年、カーボンニュートラル」を掲げて以降、企業が脱炭素経営へ舵を切っていかないといけない不可逆な流れが少しずつ社会に浸透していこうとしていた時期で、e-dashはそのような取り組みを進める企業を支援することを通じて「脱炭素を加速する」ことを目指して日々活動しています。もちろん、事業として軌道に乗せることや起業することに対しての不安はありました。大変なことも多かったのですが、原動力となっていたのは「自分がどうにかしてこの社会課題を解決する仕組みを作らなければならない」という強い使命感でした。
e-dashと同業となる企業もいますが、他社との最大の違いはテクノロジーだけに頼らない支援の姿勢にあります。今やAIを含む技術進化が著しく、経営のあり方そのものが、テクノロジーに比例して更新され続けています。しかし、脱炭素という正解のない複雑な課題に対して寄り添い、共に悩みながら進み続ける「プロフェッショナル人材による伴走」こそが、多くの企業が必要としている支援の在り方であり、私たちの強みだと感じています。
AIの躍進著しい中ではこうした「人による伴走」は非効率に見えるかもしれません。しかし、正解がなく制度設計も並行して整備や発展が進んでいく中で、お客様と一緒に汗をかくこと。そして、単に目先の売上を立てることだけを目的としないで、社会やお客様に対して「いかに本質的な価値を提供できるか」を常に求め続けていきたいと考えています。
■今の大学生に伝えたいこと
私自身、これまでのキャリアを振り返って「苦労」と呼ぶべきものは、あるようでないような気がしています。なぜなら、その時々は大変であっても、すべてが今に繋がる必要な経験だったと思えるからです。
現在、ビジネスの世界は明確に新時代に突入しています。これまでのような「稼げればそれでいい」という株主資本主義の時代は終わりを迎え、クライアントから従業員、地域社会、そして地球環境そのものを含めた、あらゆるステークホルダー(利害関係者)に対して価値を還元していく「ステークホルダー資本主義」へと世の中が大きく変化しています。そこで資格や肩書き以上に大切なのは、高い「志」を持って自ら動き出すこと。そして、自分の「本音」と「本気」を周囲にぶつけ、人を巻き込んでいく熱量です。
これから社会に出る皆さんにぜひ意識してほしいのは、「ダブルボトムライン(経済的利益と社会的リターンの両立)」という考え方です。これまでは「ビジネスの利益」と「社会貢献」は、どちらか一方しか選べないトレードオフのものとして語られがちでした。しかし、これからの時代は、その両方を高い次元で両立させる「ステークホルダー資本主義」を成していくことこそが企業の存在意義になります。
正解のない時代だからこそ、皆さんも自分の志を信じ、熱意をもって社会にポジティブな変革をもたらす存在へとなっていってほしいと思います。
学生新聞オンライン2026年5月26日取材 武蔵野美術大学2年 山畑惺南

武蔵野美術大学2年 山畑惺南/情報経営イノベーション専門職大学2年 山田千遥/武蔵野美術大学2年 石井生成/武蔵野大学4年 吉松明優奈


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