俳優 鈴鹿央士 「何とかなる」と自分が言えるところまで頑張る

俳優 鈴鹿央士(すずかおうじ)

■プロフィール
2000年1月11日生まれ、岡山県出身。2018年のファッション誌『メンズノンノ』のオーディションでグランプリを獲得し、専属モデルを務める。映画『蜜蜂と遠雷』(2019)で『第43回日本アカデミー賞』新人俳優賞を受賞。

映画『藁にもすがる獣たち』で大学生の弱小YouTuber役を演じた俳優・鈴鹿央士さんに、作品の魅力やご自身の価値観について話を伺った。かつては明確な夢を持てず、進路を模索していたという鈴鹿さん。そんな彼がどのようにして俳優という道を選び、今どんな思いで仕事と向き合っているのか、その変化の軌跡を語っていただいた。

■気負いなくで踏み出した芸能の世界

学生時代の私は、「これがやりたい」と胸を張って言える将来の夢がありませんでした。宿題を何となくこなし、高校受験も「家から近くて兄も通っているから」という理由で学校を選んだほどです。自分で大きな決断をした経験がほとんどなかったため、高校生になって進路選択が現実味を帯びてきたとき、急に不安が押し寄せました。
学校で将来の夢を紙に書く場面があっても、「書いたら絶対にその道を目指さなければならない」と思い込んでしまい、どうしても書けませんでした。確固たる目標がないまま迷っていた私は、得意だった英語を活かしてまずは海外へ行き、さまざまな世界に触れながら本当にやりたいことを見つけようと気楽に考えていました。
そんな中、高校2年生の秋に芸能界にスカウトされ、親からは「大学進学を条件に挑戦してみては」と提案されました。そこで、まずは大学へ進学し、同級生たちが就職活動を始めるタイミングで自分の進路を決めようと考えたのです。芸能の仕事が楽しいと感じたらそのまま続ける。逆に、楽しめなかったり限界を感じたりしたら潔く就職活動に切り替える。「まずはやってみよう」と飛び込んだのが俳優の世界でした。

■俳優の仕事は誰かの日常を支える力になれる

現在は俳優を仕事にしていますが、俳優業の魅力は自分の出演した作品を見てくださる方が少しずつ増え、その方たちの心を動かせることです。ドラマ出演時には、「この1時間を心から楽しみにしています」「来週の放送があるから学校や仕事を頑張れます」といった温かいメッセージをいただくことがあります。
そんな言葉に触れるたび、自分の芝居が誰かの日常の活力になれているのだと実感します。誰かの人生に少しでも良い影響を与え、豊かな時間を届けられていると思ったときに、幸せな気持ちになります。

■作品の見どころはマネーサバイバルの緊迫感

『藁にもすがる獣たち』の魅力は、何と言っても大金を巡るマネーサバイバルの緊迫感です。アクションシーンの迫力は圧倒的で、大金を前に人間の欲望がむき出しになる姿は、どこか滑稽にすら感じます。また、映画館を派手に破壊するシーンなど、建て替えが決まった銀座の映画館(丸の内TOEI)を本当に壊して撮影するなど、驚くような映像体験ができる点も見どころの一つです。
テンポよく進む脚本と緻密な構成で物語が進み、バラバラに見えた登場人物の時間軸が巧みに交差していく面白さもあります。刺激の強い描写も含まれますが、間違いなく極上のエンターテインメント作品です。スクリーンならではの音響と映像の圧倒的な迫力を含め、映画館で観るという楽しさを感じられる作品だと思います。
私が演じた佐藤寛治は、強烈なキャラクターが並ぶ中で唯一と言っていいほど「普通の青年」です。祖母と2人で暮らす、大学生の弱小YouTuber。悪事に手を染めたこともなく、周囲の欲望にまみれた人物たちとは対照的な温かさが祖母とのシーンに色濃く表れています。祖母のために懸命に行動する姿に見える優しさは、彼の大きな魅力だと思います。
監督からは、「寛治は普通の大学生でおばあちゃんに対する優しさを持っている。しかし、それを重く受け止めすぎないように」と言われていました。物語の鍵となる1億円を見つけたときも、自分の私利私欲のためだけでなく、「大切な人のために」という思いが彼を突き動かします。その優しさを丁寧に表現しつつ、作品全体のスリリングなテンポを損なわないよう、感情を重く受け止めすぎない演技を心がけるようにしました。

■自分のペースで歩み続けていくことが大切

人生で大切にしているのは、「何とかなる」と思いながら、自分が心の底から納得できるまでは頑張ってみるという姿勢です。もちろん、どうしても辛いときや自分に合わないと感じたときは、思いきって環境を変えたり、諦めたりすることも大切な選択肢です。誰かに相談をして「確かに」と思えば、別の道を行くことももちろんあり得ると思います。
しかし、目の前の壁にぶつかり、「うまくいかない」「この役は難しすぎる」と弱気になっても、がむしゃらに挑戦し続けたことで結果がついてきたり、道が開けたりした経験が何度もありました。「どんなに苦しくても今日を乗り切れば、明日は何かが変わるかもしれない」。そんな考え方を支えにしています。
10代や20代の時期は、1日があっという間に過ぎていくように感じると思います。たとえ落ち込む日があっても、明日もう1日だけ頑張ってみようと歩み続けていれば、気づけば良い結果に辿り着いていたり、想像もしなかった場所へ到達していたりするものです。途中で立ち止まることがあっても、自分のペースで続けていくことは、とても大切な姿勢だと思っています。

小学生新聞2026年10月号 東京都立大学4年 坂倉彩月

映画『藁にもすがる獣たち』

全国公開中
出演:鈴鹿央士 成宮寛貴 森七菜 
MEGUMI 前田旺志郎 二ノ宮隆太郎 青木マッチョ 岩松 了 小手伸也 風吹ジュン
Ⓒ曽根圭介/講談社 
Ⓒ2026「藁にもすがる獣たち」製作委員会

https://warakemo-movie.com

学生新聞2026年10月号

◆俳優になったきっかけを教えてください

高校2年生のときにスカウトされたのですが、それまではこれといった将来の夢はありませんでした。親に相談すると「大学に進学して、就職活動のタイミングで芸能の仕事が楽しいと思えたら続ければいいし、難しいと感じたら就職すればいい」と言われ、その言葉に納得しました。

◆本作品の見どころをお聞かせください

『藁にもすがる獣たち』で演じた佐藤寛治は、他の登場人物とは少し違う、ごく普通の大学生です。1億円の入ったバッグを持ち逃げしてしまうものの、ある意味“面白みのなさ”が彼の魅力でもあります。おばあちゃんとの二人暮らしの中にある優しさや温かさも、寛治という人物を形づくる大切な要素です。
監督からは「おばあちゃんの存在を重たく受け止めすぎず、作品全体のテンポを大切に」と言われました。映画自体は、大金を前にした人間の欲望を描きながら、アクションや新しい映像表現が詰まったエンターテインメント作品です。

◆学生へのメッセージをお願いします

僕が大切にしているのは「何とかなる」という考え方です。ただし、何もしなくても何とかなるという意味ではなく、“何とかなると言えるまで頑張る”ということです。最近は環境を変えたり、諦めたりすることも一つの選択肢だと思っています。でも、できないと思ったことでもまずはやってみることで、想像すらできなかった場所にたどり着くことができたのです。

学生新聞2026年10月号 城西国際大学3年 渡部優理絵

■取材を終えて 
自然体で寄り添ってくださるその人柄に、学生全員が包みこまれるような安心感がありました。言葉を一つひとつ丁寧に選びながら語られる姿には、謙虚さがにじみ出ていて、聞いているだけで心が温かくなるような優しさを感じました。
(日本女子大学1年 大池絵万里)

日本女子大学1年 大池絵万里/東京薬科大学4年 庄司春菜/東京都立大学4年 坂倉彩月/武蔵野大学4年 吉松明優奈/城西国際大学3年 渡部優理絵/慶應義塾大学1年 古賀夏音

撮影:下田航輔

関連記事一覧

  1. No comments yet.