Club_A所属 大森歩 誰がどんな感想を言っているのか、それを見るのが映画を作る面白み

Club_A所属 大森歩 (おおもり あゆみ)

■プロフィール

1985年10月24日生まれ。
東京生まれ。愛知県の大森牧場で育ち、実家は骨董屋を経営。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。Club_A所属、CMディレクター。ダイワハウス「かぞくの群像」、ミルボン「美容室の帰り道」、ケアリーヴ「僕は、ばんそうこう」、ラインクリスマス、など。本作『春』が映画初監督作となる。2021年公開作に【SSFF & ASIA 2020 クリエイターズ支援プロジェクト】の短編映画『卵と彩子』(出演:剛力彩芽、岡山天音)がある。

実家が愛知県の大森牧場で骨董屋、という美術や自然に囲まれて育った大森歩監督。古川琴音さん主演の『春』では初の映画監督を務めた。自分自身を貫く強さを持つそのルーツや、自分自身の経験を重ねた祖父との物語や、リアルな感情を正面から捉えた今回の作品について、想いを伺った。

■ビートルズの『イエロー・サブマリン』で上京を決めた

私は、もともと運動ができるタイプではありませんでした。地元が田舎なので、部活の選択肢が少なく、なんとなく美術を始めたという気持ちです。でも、骨董屋を営んでいた父の影響で、映画には多く触れてきましたし、両親ともに絵を描いていたので、自分にとって絵を描くことは日常の延長線上にあるものでした。その中で、ビートルズのアニメ映画『イエロー・サブマリン』を観たことから、「自分もこういうものを作りたい」と思い、アートアニメの監督を多く輩出している多摩美術大学に進学を決め、上京しました。
当時はアニメーターになりたい思いがあり、グラフィックデザイン科のアニメーションを専攻していました。そのため、広告にはあまり興味がありませんでしたが、就活でCM制作をするAOI Pro.に内定をいただき、広告に携わることになりました。そこから8年ほどCM制作に携わり、3年前に、自分自身で1から物語を作りだすことをやりたいと思い、幼い頃から好きだった映画に、自主制作で挑みました。

■自分と祖父の物語

今回の映画は、自分自身や自分の周りにいた友人をモデルに制作しました。自分のやりたいことが決まっている人や、好きなことで就活をしたいと考えて悩む人、自分の将来を決めずに就活をする人など多くの迷いを書き起こしました。また、撮影の2年前に、私の祖父が亡くなったことは、この映画を撮る大きなきっかけとなりました。祖父とは、予備校時代と大学時代の間、一緒に暮らしていたこともあったので、亡くなったときはすごくショックを受けました。
初めて、一緒に住んでいた人が目の前で亡くなって、魂が抜けるのを見て「おじいちゃんは入れ物になった」と感じました。このときに、「人は死んでしまうんだ」と思いましたね。ちょうどその時、仕事がすごく忙しくて、鬱々とした自分の気持ちを形にしたいと考えることも多くて。実際に祖父の死を目の当たりにして、自分のやりたいことと照らし合わせたときに、自分とおじいちゃんの話を描きたいと思ったんです。そこから、当時の私と祖父の暮らしを綴った、当時のmixiを見直して、脚本を書きました。

■とことんこだわった脚本と題名 

私は、映画やドラマを見るとき、脚本が一番気になります。だから、今回の映画制作でも脚本にはこだわり、100回以上脚本を直して人に見せました。自分にとって嫌な部分がないか、というのを何回も確認しました。今回の物語では美大生の孫と祖父が二人で暮らしています。最初はその二人の関係性も映画の中で説明しようとしました。
でも、短編ということもあって、説明をなくした方が、二人がどういう関係なのか、手掛かりや答えを探しながら、集中して見てくれるんじゃないかと思ったんです。
設定でなく心情にフォーカスすることで、よりドキュメンタリー的に、リアルに二人を見てもらえるとも思いました。
最初は作品タイトルは「家」にしようと思っていました。でも、祖父と孫の関係性を見ていく中で、これは祖父と孫の家族という関係に縛り付けていいのか?と思ったんです。家族で暮らしているとそれぞれがお互いの役割を「演じている」ので、祖父と孫も祖父と孫の関係そのままです。でも、実際に二人で暮らしているとその役割がなくなって、家族ではなく人として一緒に暮らす「同棲」の感覚に近くなったんですよね。だからこそ、おじいちゃんは私に自分のトイレを見せたくないというプライドがあったりする。「家」という役割がある言葉より、アミとジィちゃんの一対一の心の機微を感じて欲しいと思いました。だから題名の「春」は、生命が育ち出したり、思春期だったり、色々な意味があって…これからの希望が見える作品になって欲しいと思って付けました。

■他人の意見を聞きたいから、映画を撮っているのかもしれない

他人が見てどう思うのか、という部分はすごく気にして作りました。感想もすごく見ます。自分が作ったものに対して引け目はないので、純粋にどう思ったのかが気になるんですよね。悪いコメントを見て、その人は普段どんなことをつぶやいているのかとか、アイコンでどういう人なのか想像するのもすごく楽しいです。もともと人に何を言われても気にしない性格なので。
幼少期の頃、父の骨董屋を見て近所の人から「呪いの館」などとバカにされることもあったのですが、それもユーモアの一つと思って特に気にしていませんでした。「なにか面白さがあるから言っているんだろう」くらいにしか感じていなかったですね。
映画でも、まず見てくれたことに対して嬉しさがありますし、人がどう思っているのか、良いと思ったシーンや、なぜそう思ったのか、その感想からその人自身を知りたい、話してみたいなと思います。酷評の中にも図星だなと思うことはありますし。むしろそういうコメントをみたいがために映画を撮ったかもしれませんね(笑)。
この仕事は、撮影が本当に楽しいです。いつも自分の想像を超える演技を、俳優さんたちが繰り広げてくれます。今回の映画も、デビューしたての古川琴音さんの演技をぜひ堪能していただきたいなと思います。今作が初主演とは思えないくらい、オーラがすごかったのを覚えています。主人公のアミは、周りの空気に合わせるけど、優しく、迷っていることも人に言えないような子です。そんな、感受性豊かで、噛み砕きながら話すアミを見事に演じていただきました。その演技をぜひスクリーンで見ていただければと思います。

■大学生へのメッセージ

今、コロナのニュースを聞くたびに本当に胸が痛みます。大学生という、人生で一番青春を楽しめて、ワクワクできる時期に、なんでマスクなんかしなくてはいけないのかと。本当に辛いだろうと思います。だからこそ、きたる数年後のために、本や映画をたくさん見たり感性を磨いて欲しいです。今は近い人間関係の人にしか会えないかもしれませんが、自分の中の「悪魔」だったり面白い部分を育てて、多くの人に出会う準備をしてほしいと思います。今以上に楽しいことはたくさんあります。そして、たくさん恋をしてほしいです!

□学生新聞オンライン2021年8月30日取材 津田塾大学 4年 川浪亜紀

青山学院大学 3年 鈴木理梨子 / 津田塾大学 2年 佐藤心咲 / 津田塾大学 4年 川浪亜紀

■インフォメーション

祖父の家に居候をする、美大生のアミ。
大人になるアミとは反対に、どんどんボケていき子供返りするおじいさん。
やがて、二人の感受性が重なる。

認知症の祖父と二人暮らしをする美大生の、1年間の物語。

京都国際映画祭2018クリエイターズ・ファクトリーほか9つの映画祭にてグランプリを受賞した他、文化庁メディア芸術祭2019 新人賞(大森歩)、TAMA NEW WAVE ベスト女優賞(古川琴音)も受賞した短編映画『春』が、大森歩監督の新作『リッちゃん、健ちゃんの夏。』と同時上映されることが決定した。

『春』は、3年間祖父と二人暮らしをし、美術大学を卒業し、現在CMなどのディレクターとして活躍する大森監督自身の経験を元に、祖父を介護する美大生の心情を繊細に描いた秀作。認知症が進む祖父に、イライラが募った主人公が思わずしてしまう行動など、監督が過去に抱いたであろう、他人には見せたくないような汚い感情も逃げずに描いたリアリティが、観る者に突き刺さる。

主人公・アミを演じ、初主演を飾ったのは、NHK連続テレビ小説「エール」の主人公夫婦の一人娘役、「コントが始まる」の有村架純の妹役や『泣く子はいねぇが』、『街の上で』などで注目を集める古川琴音。

20年間劇団東京ヴォードヴィルショーの中心メンバーとして活躍し、舞台を中心に活動をしている花王おさむが祖父を、『海辺の映画館-キネマの玉手箱』(監督:大林宣彦)で被曝ピアノを演奏した加藤才紀子がアミのアニメオタクの同級生・橋本を演じている。

(c)AOI Pro.

『春』
[キャスト]
古川琴音 
花王おさむ 加藤才紀子 

監督・脚本:大森歩

製作:AOI Pro. × 第8回きりゅう映画祭制作作品
配給:アルミード
AOI Pro.  2018/ 日本/ カラー/ 16:9/ DCP/ 27min
公式サイト:http://haru-natsu-movie.jp/haru

10月1日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開

(c)渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保2019 AOI Pro. 

『リッちゃん、健ちゃんの夏。』
[キャスト]
武イリヤ 笈川健太
大國千緒奈 藤原隆介

[スタッフ]
脚本・監督:大森歩
主題歌:「あの日」寺尾紗穂 P-VINE RECORDS

(c)渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保2019 AOI Pro.

渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保 オリジナル短編映画 第3弾
渋谷センター商店街・させぼ四ヶ町商店街プロジェクト 長崎県若者アート「LOVE♡ながさき」創造プロジェクト 

配給:アルミード
2019/ 日本/ カラー/ 2Kビスタ/ DCP/ 30min

公式サイト:http://haru-natsu-movie.jp/natsu
Twitter:https://twitter.com/natsuharujyouei
Facebook:https://www.facebook.com/natsuharujyouei
Instagram:http://instagram.com/haru_natsu_jyouei

10月1日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開

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