映画監督 永井和男 決定権を持つこと。それは、プレッシャーでもあり、やりがいでもある。
■プロフィール
1990年9月22日生まれ。大阪府出身。
テレビ制作会社を経てフリーに。初監督作『くさいけど「愛してる」』は、国内外20以上の映画祭にて上映され、したまちコメディ大賞2015勝手にサポーター&観客賞、京都国際映画祭2015クリエイターズファクトリー劇映画部門優秀賞等を受賞。2018年、『霞立つ』が第1回滋賀国際映画祭グランプリ等を受賞。磯部鉄平監督作品では『予定は未定』『ミは未来のミ』等で脚本を担当している。
3月4日より公開される映画『この街と私』。同作の監督を務めたのが、テレビ制作会社を経て、フリーの映像作家になった永井和男さんだ。23歳のADを主人公にした今作は、ご自身の会社員時代の経験が大きく反映されているという。AD時代の苦労や学生時代から今に至る経緯、そして作品の背景や見どころについてお話を伺った。
■学生時代の大きな決断
高校時代から物理に興味を持って、大学では物理学科に進学しました。しかし、卒業後に物理に関する仕事をしたいという気持ちはなく、「お笑い番組が好きだから、テレビ制作会社でディレクターになりたい」という漠然とした気持ちを持っていました。
大学では、1個だけ単位が足りず、留年をしました。それをきっかけに、脚本スクールに週1回ぐらいのペースで通い始めました。翌年度、前期に卒業に必要な単位を取り、残りの半年は休学することに。その間に、脚本の勉強をしたり、イベントのお手伝いをしたりするなかで、脚本を書くことが楽しくなって、脚本家を目指すようになりました。しかし、いきなり脚本家にはなれないので、お笑い番組を作っているテレビ局や制作会社を受け、内定をもらえた会社へ入社しました。しかし、いざ入社すると、雑用に追われ、自分のやりたいことがどんどん見えなくなりました。「脚本をやりたい」という気持ちが捨てきれず、ADをやめ、脚本スクールに通っていたメンバーと一緒に映画を作り始めました。
ADを辞めることについては、あまり怖いとは思いませんでした。それよりは、大学卒業時、物理を勉強したくせに、1人だけ物理と関係ないテレビの制作会社に就職するほうが大きな決断だったからです。むしろ、制作会社にいる当時は「このままADを続けていて大丈夫か?」という不安のほうが大きかったので、そこから脱却できるという気持ちが強かったです。
■影響力を持つということ
監督という仕事の一番のやりがいは、決定権があることだと感じています。ADは仕事を与えられる役回りが多いですが、監督は自分が指示を仰がれる立場になります。自分がひとつひとつを判断し、どう決定していくかで、作品の内容が大きく変わります。そこに、監督としてやりがいを感じます。
ただ、監督業は、自分で決める作業だからこそ責任も伴いますし、作品の評価がそのまま自分の評価へと反映されます。プレッシャーはもちろんありますが、その部分がやりがいにもつながっています。脚本を作ることも楽しいです。個人的に面白いと思うのは、実際に役者さんに演じてもらうことで、内容が変わっていく点です。もちろん失敗もありますが、現場で新たなアイデアが生まれるところも、映像作品を作る面白味だと思います。
■『この街と私』は、自分の葛藤の物語でもある
『この街と私』を撮影することになったのは、前作の映画が映画祭で入選して、その映画祭に来ていた映画のプロデューサーさんに「吉本興業の葛飾の地域発信映画の企画で、監督ができる人を探しているからやらないか」とお誘いを受けたことがきっかけです。打ち合わせの際は、「監督の自由にやっていいですよ」と言われたので、もともと自分が温めていた企画を出してみました。すると、先方から「もう少し葛飾や吉本の要素を取り入れられないか」という声があってはじめて、それまで、自分が吉本興業や葛飾区でやる意味をまったく考えていなかったという事実に気づきました。企画を練り直すため、もう一度葛飾区を巡り歩きながら、吉本らしさを考えたなかで、当時のAD時代の思い出が蘇ってきました。当時の葛藤と、いま目の前に与えられた企画を形にしないといけないという葛藤がリンクした末に生まれたのが、『この街と私』という作品です。
■見どころは、リアルに描かれたテレビの世界
撮影で、特に記憶に残っているのは、クライマックスシーンの撮影です。撮影前日に、登場人物の感情の流れを考え直したら、まだまだ全然人物描写を客観視できていないことに気がつき、感情の流れを全部書き出して、整理しました。そして、撮影当日、スタッフが撤収している時間やつかの間の休憩時間を使って、そのメモをもとに新たにセリフを書き上げました。この間はほとんど眠れず、体力的にはきつかったです。でも、番組が続くAD時代の終わりの見えない日々とは違い、終わりが見えている撮影だからこそ頑張れた気がします。
この作品を観た方々からは、いろんな声をもらいました。特にテレビ業界関係の方からは、「すごく嫌な記憶を思い出しました」と言われたり、「主演の人は本物のADですか?」などと驚かれたりしました。それくらいリアルに描けたのだと思っています。
また、葛飾の切り取り方にも着目してほしいです。単なる地域のPR映画とは違って、自分なりの葛飾が撮れたと思っています。自分としては「この作品は、なぜ葛飾であるべきなのか」を深く追求したつもりなので、それが結果的にPRになればうれしいです。
■ゼロから自分発信の映画を作りたい
これまでに今作と、今回併映される2本の自主映画を作りました。友達とその彼女の話(『くさいけど「愛してる」』)、YouTuberの話(『霞立つ』)、そして、既に「吉本興業の葛飾の地域発信映画」と決まっていた今作です。これまでは、すべて話の元ネタがあったので、次は長編映画で、ゼロから自分発信の映画を作ってみたいと思っています。自分が抱える葛藤や想いを、初めて作る長編映画の中で表現したいです。また、映画や映像の仕事に関わりつつ、やはり軸となる仕事は監督をメインにしていきたいと思っています。
■大学生へのメッセージ
大学時代は物理を勉強しながらADになりたいと思っていて、周囲からの視線が痛い……と思うことばかりでした。自分がやりたいことと自分がいる環境が違うというような状況にある人は、ほかにもたくさんいると思います。しかし、大切なのは、自分がやりたいことを貫くこと。悩んだら、自分が思ったように一歩を踏み出してほしいです。そして踏み出せなかったときには、ぜひ『この街と私』を見てほしいです。
学生新聞オンライン2022年1月24日取材 日本大学2年 石田耕司
映画「この街と私」
キャスト:上原実矩 佐野弘樹 宮田佳典 伊藤慶徳 LiLiCo 川原克己(天竺鼠) ですよ。 大西ライオン 大溝清人(バッドボーイズ)
監督・脚本・編集:永井和男
制作:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
配給:アルミード
公式サイト:http://konomachitowatashi.com/
Twitter:https://twitter.com/thiscityandme
Facebook:https://www.facebook.com/thiscityandme
3月4日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開
(c)2019地域発信型映画「この街と私」製作委員会
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