株式会社JTB 代表取締役社長執行役員 山北 栄二郎

人は旅を通して学ぶ。私達はその「感動の瞬間」に寄り添い続ける。

株式会社JTB 代表取締役社長執行役員 山北 栄二郎(やまきた えいじろう)

■プロフィール

1963年生まれ、福岡県出身。1987年、早稲田大学卒業後、日本交通公社に入社。本社経営企画室等を経て、旅行事業本部グローバル戦略担当部長、JTB欧州代表、常務執行役員などを歴任。ツムラーレ・コーポレーション社長、トラベルプラザ・ヨーロッパ社長、クオニイ・トラベル・インベストメント会長など経営のトップを務め、海外戦略推進に携わる。2020年6月より現職。

旅を起点とした「交流創造事業」を事業ドメインとして、地域の観光地開発や企業のコミュニケーション課題解決にも取り組むツーリズム業界のリーディングカンパニー、株式会社JTB。同業界が大きな打撃を受けた2020年のパンデミック拡大時、社長に就任したのが山北栄二郎さんだ。「事業の9割が消滅した」というコロナ禍で、山北さんは何を考え、ピンチをどう乗り越えたのだろうか。また、会社を支えた取り組みや求める人財像についても伺った。

※JTBグループでは、”人材”は「企業や組織の成長を支える財産となる大切なリソース」であるという意思を込め、”人財“と表記している。

小さい頃から、海外への憧れを持っていました。父親の影響で、幼少期からクラシック音楽や海外のレコードが身近だったことも大きいのかもしれません。当時、父に言われた「これからの時代はボーダレスだ。国境のない時代になるぞ」という言葉は、今でも強く印象に残っています。

大学では、国際交流に興味を持ち、英語のディベートを行うクラブに入りました。厳しい部活だったので、徹夜で調べ物をしたり、留学生と交流したりと、忙しく過ごしていましたね。就職活動では、「国際交流を通じて、世界で活躍したい」との観点から、幅広い業界の面接を受けました。その中で、興味を持ったのが、現在のJTBである日本交通公社です。初めて就職試験でオフィスに入った瞬間の衝撃は、今でも覚えています。まだ国際電話も高く、メールもない時代。タイプライターでTelex(※1)を打つ音、英語での会話も聞こえてくる、世界へ通じる仕事だと、こんな職場で働きたいという強いあこがれを抱き、入社を決意しました。そして幸運なことに、入社後は、国際交流に一番近い部署で働くことが出来ました。その後、法人営業、海外旅行のマーケティング、人事、経営企画など様々な業務を経験。ハンガリーやオランダ、デンマークなどヨーロッパ各国でも長く駐在し、文字通りグローバルなキャリアを歩んできました。

コロナ禍で社長に!考えて行き着いた旅行の「原点」とは

社長に就任したのは2020年6月。世界はコロナ禍で、人の移動がほとんど止まり、ツーリズム業界は大きな被害を受けました。私達の事業の9割が消滅してしまったという憂き目にあいました。当時は、「このピンチをどう乗り切るか」を日々真剣に考え続けたことをよく覚えています。

いろいろと悩んだ末、行き着いたのが「原点に戻ろう」という結論でした。この頃、世間では「旅行は無くなるだろう」「旅はGoogleマップで十分だ」という声も聞かれ、旅の存在価値自体が見失われつつありました。その中で、私たちは「そもそもなぜ人は旅をするのか」という原点に立ち返ったのです。歴史を振り返ってみると、人類は移動し、違う環境に身をおくことで進化してきました。過去にもパンデミックは存在しましたが、人類はそれを乗り越えて旅を続け、成長してきた。旅をしたいという欲求は人間の本能であり、需要は必ずいつか元に戻る。その時のために今できることをしようと決意しました。

人の移動が止まっても、「心」の交流は止まらない

コロナ禍で進化していくために、見つめ直したものは、やはり「交流」の持つ力です。私たちの経営理念は、「地球を舞台に、人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献する」というものであり、「交流」が原点なのです。旅で重要なのは、ワクワク感ですが、この感情は、「人」の力なくしては成立しません。人の流れが止まっても、心の交流は止まりません。むしろ増幅していく。ならば、交流を通して人と何かがつながりあうしくみ作りこそ、求められるものではないかと考え、「交流創造事業」の輪郭を際立たせることに注力しました。

交流創造事業では、「ツーリズム」「エリアソリューション」「ビジネスソリューション」という3つの柱の中で、お客様や目的に応じて、さまざまな取り組みを進めています。「ツーリズム」では、個人や法人問わず、旅行者に、旅マエ・旅ナカ・旅アトといったあらゆるシーンにおいて満足をいただけるように、スタッフによるおもてなしに加えて、デジタルも活用した取り組みを進めています。また「エリアソリューション」では、観光地のDX化や観光地開発など、さまざまな事業者との共創によって地域のタカラを磨き、地域のチカラにつなげる取り組みに注力しています。「ビジネスソリューション」では、ミーティング&イベントなどのコミュニケーションを通じて、企業の抱える経営課題を解決するために、お客様に伴走しています。

このように交流創造の視点から、「人、もの、交流」のしくみを整え、解決策を提案したことが、パンデミックを乗り越えられた大きな要因だと考えています。

■112年の歴史が紡いだ「つながり」を大事に

JTBの強みは、112年の歴史の中で、たくさんの人と生み出してきた「つながり」です。強い「つながり」があるからこそ、旅の形が変わっても柔軟に対応できる。そして、この「つながり」を支えるのが、社員たちの存在です。

JTBで働く人には二つの特徴があります。ひとつは、人の喜びを自分の喜びとして感じられること。「感動のそばに、いつも。」というブランドスローガンのように、感動や喜びに共感し自分事としてとらえられる人ならば、きっと当社で活躍できるはずです。もうひとつの特徴は、「真面目さ」です。目の前の課題に対して一緒に考え、最後までやりきることができるのだと思います。今後もお客様自身に旅を起点とした交流の価値を実感していただけるよう、社員一丸となって徹底的に挑戦を続けていきたいです。

学生へのメッセージ

とにかく世界に目を向けて欲しいです。日本のパスポート所持率は、約17%と他国と比べてとても低い。台湾の所持率60%に比べると、どれだけ少ないのかがよくわかります。グローバルに活躍するためには、まずは自分が世界を知ることが重要です。これからの時代を生きるためには、グローバルな視点は間違いなく必要です。旅をすることは、学びの絶好の機会です。旅を通して、様々なことを吸収してください。

学生新聞オンライン2024年4月10日取材 立教大学4年 緒方成菜

立教大学4年 須藤覚斗 / 慶應義塾大学3年 塚紗里依 / 立教大学4年 緒方成菜

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