独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) 理事長 石黒憲彦
世界各地を舞台に幅広い事業展開 未来の日本経済のために
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独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) 理事長 石黒憲彦 (いしぐろ のりひこ)
■プロフィール
1957年生まれ。1980年に経済産業省(旧・通商産業省)に入省。以来35年間にわたり、通商、産業、エネルギーなどの政策分野に従事。スタートアップ支援、企業再生・産業再生、成長戦略の策定を中心とした産業政策のキャリアの中で、2011年から経済産業政策局長、2013年から2015年にかけて経済産業審議官を担った。2016年から2023年までは、日本電気株式会社(NEC)の執行役員副社長を担い、2023年から現職。
学生時代から世界をまたにかけて仕事をしたいと志し、経済産業省やNECでキャリアを積んだ後、ジェトロの理事長に就任した石黒憲彦氏。世界56カ国に拠点を置くジェトロは対日投資や協業連携、スタートアップの海外展開支援といった幅広い事業を取り組み続けている。自分の子どもや孫の世代に成長する日本経済と繁栄を残していきたいと語る石黒理事長にお話を伺った。
■学生時代から経済の未来を見据えて
東京大学入学後、漠然とではありますが「世界を股にかけた仕事をしたい」と考えていました。家庭教師のアルバイト、アメフトのクラブチームでの活動、学業に打ち込みながら、当初は銀行や商社、メーカーなどへの就職を考えていました。そんな中で経済産業省に就職を決めた理由は、とても活気を感じたから。同時に、この組織は自分に合っているような気がしたためです。経済産業省で35年間勤めた後、NECで7年のキャリアを積みました。その後、現在のジェトロの理事長に就任しました。経済産業省は政策を企画立案するところですが、ジェトロは現場で任務を遂行していく組織です。公の機関であるため、公の志をもって日本経済に貢献できることが、両者の共通の魅力です。また、仕事をする上で大切にしているのが、自分の子供や孫の世代に成長する日本経済と繁栄を残していきたいという想いです。たとえば、役人時代、予算を確保する際にしても、「長期的に見て、日本の成長につながるはずだ」という確固たる意志と責任感をもって仕事をしてきました。
■ジェトロでの挑戦とビジョン
現在はジェトロ理事長ですが、1990年代にジェトロの産業調査員としてニューヨークに勤務をしていたことがあります。アメリカの政治経済の動きは世界中に影響を及ぼします。当時は現場の調査員として現地の変化をいち早く日本側にレポートしていました。ニューヨークに限らず、現在ジェトロは世界56カ国に事務所を構えています。グローバルなネットワークを活かし、スタートアップ支援や農林水産物の輸出促進、中小企業の海外進出など、多岐にわたる活動を展開しています。
組織運営を担う理事長としては、ジェトロが持つ3つの資産を最大限に活かして日本経済の成長に貢献したいと考えています。3つの資産とは、1つ目に人材です。ジェトロは世界を股にかけていますから語学が堪能な人材が多くいます。2つ目に国内外のネットワークです。国内50カ所、海外76カ所の拠点があるという強みがあります。3つ目は、長い年月を通じて築き上げた信頼、「のれん」を作ってきたという自負があります。
これら3つの資産を携えて、ジェトロは4つの柱を基に活動しています。1つ目は対日直接投資や国際協業連携、スタートアップの海外展開支援、高度外国人材の活躍推進等を通じ、イノベーションの創出を支援しています。2つ目は日本の農林水産物・食品輸出を支援しています。3つ目は中堅・中小企業など我が国企業の海外展開を支援しています。4つ目は調査や研究を通じ、我が国企業の活動や通商政策等に貢献しています。また、ジェトロはグローバル時代に即した地域経済に貢献しています。例えば「日本酒を売りたい」といった地方からのニーズがあれば、海外の展示会に出展する機会を設けることで、日本の地方企業と海外を結ぶこともできます。公の機関として企業や地域から感謝され、仕事にやりがいを感じています。
■日本経済の未来を担うグローバル展開
今後力を入れたいのは、海外のスタートアップやエコシステムとの連携を深め、日本企業の海外展開を支えることです。我が国における人口減少による経済力低下への危機感に対して、海外市場の成長を取り込むことで持続可能な発展を目指していきます。特に、優れた技術を持つ日本のスタートアップを世界に広め、新たなビジネスチャンスを創出することが重要です。ジェトロが掲げたビジョン・ミッション・バリューズ(VMVs)に共感し、コミュニケーション能力を備えた職員とともに、日本経済の成長を次世代に引き継ぎたいと願っています。
■大学生へのメッセージ
語学力やコミュニケーション能力は重要ですが、最初から完璧である必要はありません。意欲があれば、実際に現地で鍛えながら成長していけると思います。私は環境が変わることを楽しみ、新しい挑戦を喜べる人と一緒に働きたいです。私たちの仕事では、企業の要望を受けて、どの自治体や州政府につなぐべきか、あるいは海外のどの市場を開拓するかなど、多くの場面で人と人をつなぐ役割が求められます。その際には、現地のトレンドを把握し、適切なアプローチを提案することが重要です。場合によってはバイヤーを招待したり、新しい販路を開拓したりと、多様な手法を駆使します。また、日本企業には「もっと高く売れるのに安く売ってしまう」という課題も見られます。私たちは、日本商品の海外での価値を再認識してもらい、ブランド化の支援も行っています。最近では、日本のスタートアップが技術力を武器に世界で活躍しています。特に理系の優秀な学生が、就職せずに起業するケースが増えており、その成長をサポートするアクセラレータやインキュベーターの役割も広がっています。こうしたダイナミックな環境の中、新しい仕事に怯まず挑戦できる姿勢が求められます。世界を舞台に活躍するためにグローバルな感覚を養ってください。ヨーロッパのようなきれいな街並みの国に旅行に行くのもいいですが、新興国にも行ってみてください。現地でしか味わえない、まるで大地が動いているようなエネルギッシュな感覚を味わってほしいです。
学生新聞オンライン2024年11月22日取材 東洋大学2年 小熊美玖
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武蔵野大学4年 西山流生 / 立教大学4年 緒方成菜 / 東洋大学2年 越山凛乃 / 東洋大学2年 小熊美玖 / 国際基督教大学2年 若生真衣 / 立教大学4年 須藤覚斗
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