独立行政法人都市再生機構(UR都市機構) 理事長 石田優
まちを変え、人の暮らしと未来を創る

独立行政法人都市再生機構(UR都市機構) 理事長 石田優 (いしだまさる)
■プロフィール
昭和37年 5月2日生 京都府出身 62歳
昭和61年3月 東京大学法学部 卒業
昭和61年4月 建設省 入省
平成30年7月 国土交通省住宅局長
令和4年6月 復興庁事務次官
令和5年11月 東京海上日動火災保険株式会社顧問
令和6年4月 独立行政法人都市再生機構理事長(現在)
賃貸住宅や都市再生、復興を担い「街に、ルネッサンス」を理念とするUR都市機構。理事長・石田優氏は「社会課題を、超えていく」の視点で、文化や人のつながりを活かした都市づくりを推進する。昭和40年代の住宅ストック活用や無印良品とのコラボなど、新たな住まいの価値を創出する彼に、まちづくりへの想いと未来のビジョンを聞いた。
大学1、2年生の頃は、けっこう自由に活動していましたね。東京大学に入学し、生協の理事として活動していたのですが、特に思い出深いのが、4大学共催で行ったスケートフェスティバルの企画・運営です。氷上ディスコやフィギュアスケートの実演、肉まんやカイロの販売など、幅広く企画を手掛け、イベントは大盛況でした。当時はSNSがない時代だったため、広報のビラ配りや立て看板、立て看板への手書きの告知なども自ら作成しました。「やりたいことをやろう」という精神で、仲間と共に試行錯誤しながら取り組んだ経験は、今でも心に残っています。
■形に残る仕事がしたい
3年生からは進路を考え始めました。父が京都で中小企業を経営していたので、家業を継ぐ選択肢もありました。でも、「形に残る仕事がしたい」という想いが強く、国家公務員の道を選びました。そして建設省(現・国土交通省)に入省し、住宅や都市開発、復興といったまちづくりに携わることになりました。国土交通省の仕事は、制度を作ることが中心です。自分が直接建物を建てるわけではありませんが、社会の仕組みを整えることで、多くの人の暮らしを支えることができます。
URに入ったきっかけは、国土交通省を退官後、東京海上日動に在籍していた時に、UR前理事長の退任に伴う公募の話が出ていたので、URに応募させていただきました。
URはまちの基盤や構想を考えることから携わります。自分がまちづくりに直接携わっているという実感を持つことができ、「形に残る仕事」という、当初自分が抱いていた想いは、今のURにも繋がっています。
■まち全体から考える
現在、URでは賃貸住宅、都市再生、復興の3つの事業を柱としています。特に特徴的なのは、「準公共の団体でありながら独立採算制」という点です。URは自分たちで経営を成立させる仕組みになっています。だからこそ、民間企業のような柔軟な経営が求められますし、同時に社会的な責任も負っています。賃貸住宅事業では、約70万戸の住宅ストックを活用し、高齢者や外国人など多様な住民が安心して暮らせる環境を整備しています。団地内に福祉施設を誘致したり、コミュニティ維持のためのイベントを企画したりなど、「住む」だけではない価値を提供しています。また、都市再生の分野では、単にビルを建てるのではなく、「まち全体の構想から関わる」ことを重視しています。大阪市うめきた地区では、大阪府・市・民間企業と連携し、コンセプト作りから携わってきたプロジェクトもが概成しました。復興に関しても、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの被災地の再生に取り組んできました。復興は、ただ建物を再建すれば終わりではありません。住民が戻り、活気が生まれるためには、地域の産業や文化をどう守るかが重要です。
■街にルネッサンス――今後のまちづくりは
URのロゴには「街にルネッサンス」という言葉が刻まれています。
これは、単なる再開発ではなく、社会問題を超えて新たな価値を創造するという理念を表しています。たとえば、日本のオフィスビルは、情報化に伴うハードや多様な働き方への対応についてもまだまだ改善の余地があります。AIが発展する一方で、人と人がリアルに交流できる空間が求められています。ビル街の外部動線を公園で繋いだり、オフィスに緑を取り入れたりすることで、新しいアイデアが生まれやすくなるなど、自然とコミュニケーションが生まれる場づくりが重要だと考えています。それはビル単体で完結するのではなく、まち全体で考える必要があります。
さらに、賃貸住宅のストック活用も重要な課題です。新築の供給が減る中、昭和40年代からの住宅ストックをいかに活用するかが問われています。無印良品とコラボし、ふすまや畳の部屋を現代のライフスタイルに合わせてリノベーションするプロジェクトも進めています。また、大学とも連携して、学生から新しい住まい方のアイデアを募る取り組みも行っています。たとえば、UR賃貸住宅をフィールドに九州工業大学の学生による「住戸リノベーションコンペ」や、ペットと暮らせる住宅やドッグランのある団地など、実際のニーズに即したアイデアを形にしています。URが目指すのは、地域の特性に応じた持続可能なまちづくりです。その実現のために求められるのは、「自分の考えを持ちつつ、他者と協力できる人材」です。自分の情熱を持ちつつも、人の意見を理解する力が重要です。社会課題は複雑で、正解は一つではありません。だからこそ、多彩な視点を持ち、横のつながりを大切にできる人と一緒に働きたいですね。
■大学生へのメッセージ
今の時代に求められるスキルは変わってきていると伝えたいです。社会情勢が混沌として、正解がない問題に向き合う力が求められるようになっています。そのためには、情熱を持ちつつも、相手の意見を理解するエンパシーが大事です。人と人とのつながりを大切にしながら、社会課題の解決に挑んで欲しいですね。まちづくりにかける情熱を持ちながら、未来を担う若者の活躍を心から期待しています。
学生新聞オンライン2025年1月21日取材 日本大学4年 鈴木準希

日本大学4年 鈴木準希
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