株式会社薬王堂ホールディングス 代表取締役社長 西郷孝一
大切にしているのは、「前向きで、素直で、いい人になる」

株式会社薬王堂ホールディングス 代表取締役社長 西郷孝一(さいごうたかひと)
■プロフィール
1978年、岩手県矢巾町出身。大学卒業後、花王株式会社で5年間勤務。2012年に株式会社薬王堂入社。営業企画部長、商品部長、経営企画室長などを歴任後、2019年より株式会社薬王堂ホールディングスにて経営戦略を担う。2024年、株式会社薬王堂の代表取締役社長執行役員に就任。2026年5月より株式会社薬王堂ホールディングス代表取締役社長を兼務。
東北地方を中心にドラッグストアを展開している株式会社薬王堂ホールディングス。両親から会社を継ぐ前に、自身の留学経験や花王で学んだ経営観や組織づくりを徹底し経営改革を行っている。AIを積極的に取り入れながら小売業の常識を覆す経営を実践している西郷社長にお話を伺った。
私は日本の大学を卒業後、アメリカ・ボストンにあるノースイースタン大学へ留学し、起業家精神やビジネスについて学びました。振り返ってみると、一番大きな学びは、学問ではなく人間として強くなれたことだったと思います。留学当初は英語が話せず、それだけで人間扱いされないような悔しい思いも経験しました。しかし、英語を話せるようになると周囲の反応は一変します。その経験から、やれば評価されるということを実感しました。一度大きく落ち込んだからこそ、失敗を恐れなくなり、挑戦することへの抵抗もなくなりました。
また、寮で一緒に暮らしていた韓国系アメリカ人のルームメイトとの出会いも忘れられません。とてもお話が好きな方だったので毎日のように会話を重ね、支えてもらったことで、英語だけでなく、自分自身も大きく成長することができました。人生は、一緒に頑張ってくれる人との出会いによって大きく変わるものだと感じています。
■花王で学んだロケットスタートの大切さ
帰国後は、家業を継ぐ前に5年間花王株式会社で働きました。花王は私が知る限り、日本でもトップクラスの素晴らしい会社です。全員が同じ方向を向き、共通のルールのもとで仕事を進める文化が根付いていました。アメリカで培った経験は、花王入社直後から生きました。初日の全体会議で質問をしたり、初対面の人にも積極的に話しかけたりと、私は最初の一歩をためらわずにスタートを切れたと思います。
社会人は第一印象で覚えられることが多く、最初の行動がその後の評価にも影響します。だからこそ、新しい環境では失敗を恐れず、一歩踏み出すことが大切だと考えています。現在の会社でも、新しいプロジェクトでは20代後半から30代前半の社員が率先して挑戦しています。分からないことを恐れず、まず動く姿勢が周囲を巻き込み、大きな成果につながっています。
■頑張らせない経営への改革
家業へ戻ってからは、これまで当社が当たり前としてきたやり方を変えることに挑戦しました。かつての当社は、売場を頻繁に変更し、販促を増やし、接客を強化することで売上を伸ばそうとしていました。おそらく、業界全体としても同じような傾向があったのではないかと思います。
しかし、その裏側では従業員が長時間働き、大きな負担を抱えています。私は、従業員の仕事を減らすことが経営者の仕事だと考えています。売場をできるだけ変えない、価格も頻繁に変えない、過剰な販促や接客もしないなど、余計な仕事を減らすことで、店舗はきれいになり、従業員にも余裕が生まれます。その結果、お客様にとっても買い物しやすい店になり、売上も毎年着実に伸び続けています。経営改革で一番苦労したのは、社員ではなく、創業者である両親とのやりとりでした。創業者として長年築いてきた経営のやり方を変えていくことに対して、すぐには理解してもらえないこともありました。それでも数字で結果を示し、社員の働きやすさが改善されたことで、改革を進めることができました。
■AIとコミュニケーションツール活用で新しい働き方
現在、私たちはAI活用にも力を入れており、自社専用のAIエージェントの開発を進めています。
売上分析や在庫、人件費、各種データの分析までAIが行い、社員は必要な情報を会話するだけで取得できる環境を目指しています。
また、Slackを中心に社内コミュニケーションを行い、私はメールをほとんど使いません。現場へ頻繁に足を運ぶよりも、リアルタイムで共有される情報やデータをもとに経営の意思決定を行っています。
今後はAIによって年間数百時間もの業務削減を見込んでおり、人が本来取り組むべき仕事へ時間を使えるようにしていきます。これからの時代はAIを使うことが特別ではなく、当たり前になります。だからこそ、学生の皆さんには早いうちからAIを使いこなせる人材になってほしいと思います。
■前向きで、素直で、いい人になる
私が大切にしている言葉は、「前向きで、素直で、いい人になる」です。
素直な人とは変化を受け入れられる人のこと、そしていい人とは、単に優しい人ではなく、周囲から応援される人のことです。仕事は一人ではできません。困ったときに自然と助けてもらえる人は、普段から周囲を助け、信頼を積み重ねています。そうした人は長く活躍できますし、新しい挑戦にも仲間が集まります。
■大学生へのメッセージ
大学生の皆さんには、ぜひインターンシップへ挑戦してほしいと思います。アルバイトでは得られない実務経験や、多様な人とのコミュニケーションを経験できます。それは社会人になったとき、大きなアドバンテージになるはずです。
また、AIはぜひ使いこなせるようになってください。これからの社会では、AIを活用できるかどうかで成長スピードが大きく変わってくると思います。
一方で、AIだけでは価値は生まれません。コミュニケーション力や行動力、挑戦する姿勢といったソフトスキルも同じくらい重要です。今の時代、学歴だけで人生が決まる時代ではありません。変化を恐れず、新しいことへ挑戦し、応援される人になることや、その積み重ねが自分だけの強みとなり、未来を切り拓く力になると私は信じています。
学生新聞オンライン2026年7月15日取材 京都芸術大学1年 猪本玲菜

城西国際大学3年 渡部優理絵/京都芸術大学1年 猪本玲菜/東京女子大学3年 浮田梨紗


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