株式会社吉野家ホールディングス 代表取締役社長 河村泰貴 

「#外食はチカラになる」プロジェクトの背景と目的

株式会社吉野家ホールディングス 代表取締役社長 河村泰貴(かわむらやすたか)

■プロフィール

1968年大阪出身。1987年広島の高校を卒業後、アルバイトを経て1993年吉野家ディー・アンド・シーに入社。2001年吉野家ディー・アンド・シー企画室グループ企画室に着任。2004年はなまるへ出向、経営再建に貢献し、2007年同社代表取締役社長に就任。2012年吉野家HD社長就任、2014年には吉野家の社長を兼務。長期経営ビジョンNEW-BEGINNINGS2025を掲げ、「飲食業の再定義」を進めている。

新型コロナウイルスの打撃を受けた飲食業界が「#外食はチカラになる」プロジェクトにより一致団結し、再び盛り上がりを見せ始めている。株式会社吉野家ホールディングスの代表取締役社長 河村泰貴氏に、プロジェクトを行うに至った経緯や目的、これだけ多くのお店を巻き込むことに成功した理由についてお話を伺った。

■食業界の魅力は、お客様の反応がダイレクトなところ

コロナウイルスの拡大で、街に人がいない状況が続きました。これまでも東日本大震災やリーマンショックなど経営に大きな影響を与える出来事はありましたが、復興に向けてみんなで一致団結して頑張ろうという盛り上がりを見せていました。しかし、今回のコロナウイルスの拡大は人とのが接触できないため、その動きも起こらないことが今までとの大きな違いです。
その一方で、さまざま変化を後押したという面もあります。例えば、接触を避けるためタッチパネルやセルフレジなど導入のスピードを速めることになりました。また、はなまるうどんに関しては、今までテイクアウト比率がほぼゼロに近い状態でしたが、今では大きく売り上げを伸ばしています。
このような状況の中で、より大きな影響を受けたのが大きな箱で営業しているお店です。お店の大小にかかわらず助成金は一律なので小規模のお店は潤いますが、大きなお店は立ち直れない程の打撃を受けています。
また、エンタメ業界やスポーツ業界はいまだに厳しい状況が続いています。こうした変化が起こっているため、コロナ前と全く同じ状況に戻るとは思っていません。次に、飲食店の魅力としては、料理を作って、その場で提供しているため、お客様の反応をダイレクトに感じ取れるということです。良い反応も悪い反応もその場で見ることができるため、やりがいにつながると思います。

■「#外食はチカラになる」プロジェクト設立の背景と目的

「街に人がいない」という状況で、吉野家一社の力ではどうすることもできませんでした。しかし、2021年の6月ごろから職域接種が始まり、想像以上の勢いでワクチン接種が進んでいきました。このペースで新規陽性者が減れば「外食しても良いのでは?」という雰囲気になると考えました。そのときに背中を押せるようなムーブメントを起こせないかと思ったことが、「#外食はチカラになる」プロジェクト設立のきっかけです。このプロジェクトは、外食企業と外⾷をサポートする企業らが一丸となって取り組む外食横断プロジェクトです。日本人は空気で動くところがあるため、まずはその空気を変えようと思いました。飲食店も商業施設に入っていることが多いため、人を呼び戻すことを優先に捉えました。

■コロナ禍だからこそ実現できた、一大ムーブメント

ただ、これこそ一社の努力ではどうしようもないため、まずはムーブメントを起こすために他の会社にもお声をかけました。このプロジェクトでは、外食をより一層お客様に楽しんでもらうため、それぞれの店が独自の特典を設定しています。吉野家自体は店内10%オフというキャンペーンを行い、来店者が増えた結果、利益もプラスになりました。しかし、コロナ前の2019年の数値にはまだ戻っていない状態です。その他のお店では笑顔でお出迎えやSNS投稿でドリンク無料など、自由にキャンペーン内容を設定でき、かつ大きな縛りをしなかったため、参加へのハードルが下がり、賛同してくれる企業が増えていきました。
また、プロジェクトの内容も非常にシンプルだったため、他の企業に門前払いにされることもありませんでした。その結果、初めは9,800店だった参加店数が今では18,000店ほどに増えています。
難しかったのは、プロジェクトの発表のタイミングです。ムーブメントを起こすことが目的でもあったため、タイミングが早すぎると批判を受ける可能性が高い。でも、遅くても「今更か」と人々の関心を引けません。さらに、選挙などの他のイベントや出来事が被ってしまうと、それこそ話題に上がらなくなってしますので、毎月各社の社長のスケジュールを押さえたり、調整をしたりという作業が大変でした。しかし、これを機に大きなネットワークができたため、これから共に何かを始めたいという話は上がっています。
こうした取り組みは、コロナ過で飲食業界が逼迫している状況だから成り立ったことで、平時に呼びかけても成り立たなかったことだと思います。そしてなにより、今回のプロジェクトの発起人となって取り組めたことは嬉しく思いますし、従業員が自社に誇りを持てたことは良かったと思っています。

■外食産業は、今後二極化していくはず

今後の外食産業は二極化すると思います。一つはどんどん無人化する店舗でもう一つは人が介在することに価値を置く店舗です。吉野家は後者を目指しています。「機械ができないことを人がやって本当に楽しいのか。それは、本当に人間らしい仕事なのか?」という疑問があります。みなさんは「やりがい」がない仕事を本当にやりたいと思いますか? そういった考えから、吉野家は人が介在することで生まれる価値を大事にしていきたいと思っています。その点でも、「接客も含めて、『ロボットで代用できるよね』と言われるようになったら終わりだよ」と社員には伝えています。

■未来に希望を持ってください

大学生の皆さんは、ぜひ将来雇用を生む立場になってください。また、未来に希望を持ってください。そして今しかできないことをやってください。迷ったらとにかく今しかできないことを優先させた方が良いと思います。また、いろいろなことに興味をもち、やりたいことを絞れない人はたくさんいると思います。そのときは興味を持ったものに対して、もう一歩進んでみる、もう一つ扉を開けてみることに取り組むことをおすすめします。また、就職後3年は頑張ってみてほしいです。自分探しをいつまでも続けていたら何者にもなれません。どの会社に入っても最初にやることは同じです。まずは社会人としての当たり前のマナーを学ぶことが重要になると思います。また、自分の親と学校の先生以外のいろいろな大人に会って、いろいろな考え方を身に付けてほしいです。

学生新聞オンライン2021年12月23日取材 日本大学2年 石田耕司

日本大学2年 石田耕司 /明治大学3年 酒井躍 / 日本大学4年 辻内海成 / 日本体育大学2年 大内貴稀

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。