斎藤工  自分の弱さを認めてこそ強くなれる

俳優 斎藤工(さいとうたくみ)

主演作Netflixオリジナルシリーズ『ヒヤマケンタロウの妊娠』が4月21日に配信スタート。齊藤 工名義でFILM MAKERとしても活躍し、「Asian Academy Creative Awards 2020」で最優秀監督賞を日本人として初受賞。監督長編最新作、映画『スイート・マイホーム』(主演・窪田正孝)が2023年公開予定。被災地や途上国の子供たちに映画を届ける移動映画館プロジェクト「cinéma bird」主宰や、俳優主導のミニシアター支援プラットフォーム「Mini Theater Park」の発起人など、活動は多岐にわたる。

高校生の頃からモデルとして活動し始め、2001年の公開映画で俳優デビュー。2012年には監督デビューも果たし、活躍の場を広げている。2022年5月公開の映画、「シン・ウルトラマン」との出会いや映画にかける想い、俳優という職業や学生に伝えたいことなど、等身大の斎藤工さんのお話を伺うことができた。

■俳優という「職人」と向き合う

人間という生物は機能性が一番重要なポイントだと思います。その機能性を発揮して誰かにとって価値あるものを生み出す人が「職人」であり、役者という存在も職人であると考えています。僕はそんな「職人」に対して憧れがあります。ただ、その一方で、その人間の持つ美しさである機能性が自分の中には見当たらないということを20代、30代で感じ、どうしようもない気持ちになりました。自分の作品を見ると、自分の表現の甘さや能力の足りなさに対して打ちのめされます。

当たり前のことですが、俳優は台詞を覚えてカメラの前に立つことを求められます。そんな俳優である僕は、どんなに苦しくてもリアリティのあるものを映像として残すことを常に意識し、試行錯誤しながらより良いものを作り続けていかなくてはなりません。自分の作品を見返して、反省し、何が悪かったのか研究をして、新しく考えたことを実践する。そして、その実践したものを見返してまた反省する。このサイクルを繰り返すことで自分の中にある見えない筋肉を鍛えていきます。それは生まれついた筋肉ではなく、逆境を乗り越えるために生まれた必要な筋肉であり、その筋肉を鍛えることで人間としてはもちろんですが、俳優としても強くなれるのだと思います。

僕は俳優を選択し、下積みを重ねてきた過去の自分は間違っていないと認めながら、未来の見えない何かにどう向き合っていくのかを考えています。今の自分はその「何か」を得るための必要なプロセスの一部であることを常に意識して、演技に励んでいます。その「何か」を得ることは生涯ないのかもしれませんが、それでも人間はもがき、強くなっていくしかないのだと思います。だから僕は弱さや過去と向き合って強くなっていきたいです。

■「シン・ウルトラマン」への想い

この役を頂いたときには、自分の今まで生きてきた人生全てがこの作品につながっていたかのような、今までに感じたことのない不思議な感覚を覚えました。僕は、今まで人間という得体の知れない知的生命体を自分なりに研究してきました。そして、この作品に出会い、自分自身が研究し続けた「人間とは?」と言う問いについて、一つの答えが描かれているような気がしました。だからこそ、この役を頂いたときには見えない何かが伝わったというか、点と点が線でつながった感じがして、緊張や楽しみな気持ちを大きく超えるぐらい興奮しました。それと同時に、学生から今に至るまでやめずに俳優を続けられた理由がこの作品に出演するためだったのかもしれないと思うほど、自分の全てを肯定してくれるかのような出会いでもありました。この「シン・ウルトラマン」との出会いは、今までの人生だけではなく、これからの人生においても特別な出会いであり、また必要だった出会いとして、自分の大きなターニングポイントになったと確信しています。

僕は映画中に神永が言うセリフの「はざまにいるから見えるものがある」という言葉がこの映画のすべてだと考えています。この映画は、誰しもが物心ついたころから存在するキャラクターの「ウルトラマン」を通して、過去と未来、そして現在を同じ目線でつなげることができます。人間についての謎を解き明かす大きな手掛かりとなるような作品です。躍動感とリアリティのある映像を多くの人が楽しんでくれたら幸いです。

■若いということを最大限に生かす

若さは歳を重ねた人からすれば、何億円出しても買いたいものであるということが、歳を重ねていく上でだんだんとわかってきました。若いうちに成功を収めている方や既にスペックの高い方もいるけれど、それはとんでもなく価値のあるものであり、かけがいのないものです。特に日本は、名前の後ろにかっこで年齢をつけるくらいに年齢というものに最高峰の価値を置いているような気がします。この価値観や考え方は、海外に行くと全くないので、僕は違和感を覚えてしまうほどです。そんな日本という「若さ」により価値がある国で生まれたからには、若さがあるという価値を最大限に活かし、それを勇気に変え、どんどんトライしてください。そして、小さな切り傷や擦り傷をつくって、強くなってください。

今の若い方たちは、スマートでスムーズに生きていて、摩擦を未然に回避することに長けているように見えます。それは今の時代を生きる上で必要な能力なのかもしれないです。しかし、それでも避けすぎてしまったが故に見えなくなってしまうという実態はあるのではないかと思います。コロナ禍で対峙することが難しい世の中だからこそ、対峙する人や物から学ぶだけではなく、自分からも学んでほしいです。一番遠いと思っていたものが一番近かったということがあるように、自分という存在としては一番近いがゆえに考えが及ばぬくらい遠い自分に問い、より深く学んでください。

(明治学院大学 令和4年卒業 小嶋櫻子)

『シン・ウルトラマン』

出演:斎藤 工・長澤まさみ・有岡大貴・早見あかり・田中哲司 

/ 西島秀俊・山本耕史・岩松 了・嶋田久作・益岡 徹・長塚圭史・山崎 一・和田聰宏

企画・脚本:庵野秀明/監督:樋口真嗣/音楽:鷺巣詩郎/主題歌:「M八七」米津玄師

2022年5月13日(金)全国東宝系公開中

Ⓒ2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 ©️円谷プロ

関東鍼灸専門学校3年 竹原孔龍/明治学院大学令和4年卒業 小嶋櫻子/中央学院大学4年 田根颯人

撮影協力:カメラマン 広田成太

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