映画『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』

かず子(宮本茉由)、上原(安藤政信)

太宰治「斜陽」執筆75周年記念作品
鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽

1947年に出版され“斜陽族”と流行語にもなり、大ベストセラーとなった太宰治の名著「斜陽」執筆75周年を記念する『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』が完成しました。ヒロインのかず子を宮本茉由、彼女が想いを寄せる売れっ子作家を安藤政信が演じ、戦後の日本を舞台に“恋と革命の物語”が綴られます。山日 YBS グループ創業 150 周年記念作品として、太宰治が新婚時代を過ごした山梨県内でも撮影された『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』は、10月28日(金) よりTOHOシネマズ甲府、シアターセントラルBe館にて先行公開、11月4日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開。

学生新聞インターンが鑑賞した感想をご紹介します。みなさんもぜひ劇場へ!

私は以前に書籍を読んだことがあり、どのように映像化されるのか非常にわくわくした気持ちで観覧しました。この物語は、全体として戦後、時代の変化によって次第に没落していく家族の悲劇が描かれていますが、私はこの映画を観終わった時の気持ちはどこか清々しく、人生の選択における勇気をもらった気持ちになりました。テーマとなる鳩のごとく蛇のごとく―、そして太宰治の世界観が演出並びに役者の方々の素晴らしい演技で忠実に再現されていました。特に、主人公のかず子、母、弟の直治、作家の上原二郎、登場人物それぞれの選択に心を動かされました。観る人によって登場人物への共感や想いがかなり変わると思うので、1人でじっくり観るのも良いですが、誰かと観に行って感想を話し合うのもきっと新たな見方が増えて面白いのではと思います。

東洋大学 4年 伊佐茜音

原作を読んでいたのですが、それが映像になっても全く違和感がなく、むしろきれいな映像と音楽も相まって映画に深く入り込むことができました。また主人公のかず子が自らナレーションをすることでより臨場感がありました。
今作品は伊豆の別荘と東京を行き来しながら話は展開されるのですが、その電車の背景が戦後の荒廃した世界を象徴的に表していました。没落貴族の家庭をモデルに、それぞれが違った生き様を見せますが、その中でも身近な人の死を乗り越え、「恋と革命のため」に強く生き抜くかず子がとても印象的でした。この登場人物のまっすぐに自分の生き様を貫く姿勢は、私たちに今この現代で何のために生きるのかを問いただしているようでした。そして、見終わったときには、こころがスッキリしないもやもやした感覚に陥り、一つの文学を何日もかけて読み終えたような、そんな気持ちになりました。

日本大学 3年 石田耕司

主人公かず子の人柄は、誰も恨まず誰にも迷惑をかけずに美しく亡くなり、貴族らしいとされた母親から譲り受けたものが多いと感じた。特に肩書きなど目に見えるものだけを信じるのではなく、いつでも人の本質を見つめようとする純真さだ。かず子が詐欺師のように見せかけのいい人よりも、札付きの悪名ではあるが嘘偽りのない作家 上原のような正直者を好んでいたことからも言える。貴族に生まれたことを悔やみ、上原のように俗世間と馴染むことを夢見た弟や、貴族に対する歪んだ考えを持つ上原との比較対象としても描かれていると感じた。また自分が上原を思うが故に、上原の妻子に迷惑がかかるようなことなどあってはならないとする姿勢からは、かず子の強い意志や信念を感じた。
こうも、かず子が強く逞しく生きてこれたのは人間の醜く汚い部分も認めているからではないか。人は世間からの評判や肩書きなど目に見えるものに左右され、本質を見失いやすい生き物だと思う。しかしそうした綺麗なものだけではなく醜さも含めて自他のことを認め、まっすぐ見つめられる、そんなかず子のような心の美しさが、いつの時代も必要なのだと思った。

津田塾大学 4年 宮田紋子

斜陽は主演の宮本茉由演じる島崎かず子が戦後没落貴族として母の都貴子と共に東京の豪邸から伊豆の山にある家で暮らすことになり、これまでとは大きく違う生活を強いられる物語です。没落後の人生はとても辛いもので終始感情が揺さぶられ、「人間らしさ」がよく表現されていました。辛い戦場から帰ってきたかず子の弟の直治の生活、不器用で愛の感情すら分からなくなってしまう作家 上原、上原のだらしない生活を知っても尚恋心を寄せるかず子。それぞれの生き方に共通しているのは後悔。そんな曖昧で自分勝手な感情の動きが忠実に映画化されていて、まるで自分も映画の中にいるかのような世界観でした。さらには、その複雑に絡まり合った感情の描写を上手く実写化する近藤明男監督の斬新で素直な解釈もまた観る人の心を斜陽の世界へと連れて行ってくれると思います。一見、現実とは離れたストーリーですが、よく考えるととても深い作品です。是非ご覧ください。

立教大学 4年 須藤覚斗

太宰治「斜陽」執筆75周年記念作品『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』

宮本茉由 / 安藤政信 水野真紀 奥野壮
田中健 細川直美 白須慶子 三上寛 柏原収史 / 萬田久子 / 柄本明
尾崎右宗 菅田俊 岡部尚 中谷太郎 緒方美穂 三木秀甫 
岡元あつこ 栗原沙也加 今泉朋子 白石恭子 薗田正美 光藤えり 
山村友乃 野崎小三郎 ジョナゴールド / 春風亭昇太

原作:太宰治 監督:近藤明男 脚本:白坂依志夫 増村保造 近藤明男 製作:野口英一
プロデューサー:足立喜之 石戸谷洋治、市川武 今泉朋子 上村正樹 小浜圭太郎 栗原隆一 野崎小五郎 山村隆昭
音楽:海沼正利 主題歌:小椋佳「ラピスラズリの涙」(作詞・作曲・歌)
撮影支援協力:青森県 山梨県 五所川原市 つがる市 弘前市 甲府市 山梨市 都留市 三鷹市

2022年/日本/日本語/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/109分/配給:彩プロ 映倫G
©2022 『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』製作委員会(オフィス近藤 アップサイド 実正寺 スペースT ぱあとなあ ハーモニー ライジングシネマ 山梨日日新聞社 山梨放送)

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