株式会社テレビ東京 「シナぷしゅ」統括プロデューサー 飯田佳奈子

赤ちゃんに寄り添い続け、社会のデザインを変えていく

株式会社テレビ東京 「シナぷしゅ」統括プロデューサー 飯田佳奈子(いいだかなこ)

■プロフィール

飯田佳奈子
1988年生まれ、群馬県出身。
東京大学文学部フランス文学科を卒業後、2011年テレビ東京に入社。
2018年に第一子を出産し、2019年に職場復帰してすぐに「シナぷしゅ」の企画書を提出。
以降、「シナぷしゅ」の制作面の総合演出だけでなく、ビジネス展開も含めたコンテンツ統括プロデューサーを務める。
2022年第二子を出産。二児の母。

赤ちゃんが泣き止むと話題の民放初の赤ちゃん番組「シナぷしゅ」(毎週月曜~金曜 あさ7時30分~8時00分 テレビ東京系列6局ネット)。“幼児向け番組と言えばEテレ”の独壇場?だった現代に、「シナぷしゅ」はなぜ生まれたのか。生みの親である統括プロデューサーの飯田さんが、子育ての中で見直したテレビの在り方とは。番組に込めた想いや、仕事と育児の両立について考えを伺った。

学生時代は、アルバイトをとにかく沢山経験しました。家庭教師、ファミレスのウェイトレス、新幹線乗車前のお菓子販売員など、色々取り組む中で自分の特性を知ることができました。例えば、新幹線乗車前は急いでいる方が多いので「提供の速さ」が求められます。ファミレスは毎日来ている方もいるので「居心地の良さ」が求められます。お客様によって異なるアプローチを通し、自分に合った働き方やコミュニケーションの取り方を知ることができました。

就職活動は、ESや面接で会社から選ばれる仕組みに疑問をもっていました。自分が働く場所は自分で選びたいのに、なぜ人に決められるのだろうと。「ここなら働いてやってもいいぞ!」と、今思えばかなり上から目線で活動していましたね(笑)。大学院進学も視野に入れて3社だけ受けて、内定をいただいたテレビ東京に入社しました。

■赤ちゃん向け動画コンテンツに新たな選択肢を

「シナぷしゅ」を思いついたのは一人目の子どもの産休・育休中です。子育てを始めて、自分自身赤ちゃんに対してなぜか「テレビを遠ざける傾向」があることに気がつきました。私だけでなく周りの母親もテレビは子どもの発達に悪いというイメージをなんとなく抱いている。地域の子育て支援センターでは母親たちが眉をひそめながら、「昨日、子どもに1時間もテレビ見せちゃった・・・」と後ろめたそうに話していました。

そこで初めて、自分の仕事に疑問を抱いたのです。子育て世代においてテレビは”害悪”なのだろうかと。しかし、共働き世帯が多く祖父母の支えも少ない現代の子育てに、動画コンテンツは欠かせません。母親はとても孤独で、一日の中で動画頼みの時間が多くあります。加えて、妙に感じたのは「Eテレ一強」の状態です。大人向けのコンテンツはたくさんの選択肢があるのに、乳幼児向けは民放各局のタイムテーブルになく、Eテレしか選択肢がない状態が長く続いていました。”赤ちゃん”と一括りに言っても色んな個性があるのだから、選択肢が一つしかないのはとても不自由です。

また一方で、YouTubeではEテレやアンパンマンを模倣した手作りの動画が何十万回も再生されていました。親心としては、どうせ見せるなら、模倣の動画でなく良質なコンテンツを見せたいはず。赤ちゃん向けの番組をつくり、選択肢を増やして、公式に配信もしよう。この想いから、育休復帰後すぐに「シナぷしゅ」の企画を提出、番組制作を始めました。

Eテレが変わらない伝統的スタイルであれば、「シナぷしゅ」は“変わり続けるアップデートスタイル”です。「シナぷしゅ」は去年と今年でも全く違います。1回の放送でに約1~2分のショートコンテンツが10コーナーあるため、トライ&エラーの精神で新しいコンテンツにどんどんチャレンジしています。

■赤ちゃんが自由で生きやすい社会へ

番組制作にあたり大事にしていることは、「赤ちゃんへの感覚的アプローチ」です。コンテンツが難しくならぬよう、低月齢の子が五感で咀嚼できる表現を心掛けています。例えば、3か月の子は寝転がって見るので、縦の動画を横から見ます。新コーナーを作る時は横からの見え方も気にします。また、キャラクターの「ぷしゅぷしゅ」には、“自由に生きてほしい“という願いが込められています。一般的に、赤ちゃん向けのキャラクターは原色が多く目が大きめです。そこで我々は、赤ちゃんの頭の中の真っさらな状態に近い“自由な存在”を表現しました。白黒の「ぷしゅぷしゅ」を好きな色に塗っていいよと、色や模様は見る側の赤ちゃんに委ねています。自由自在に姿形を変えられるとは、いわば“枠にはまらない“こと。ここから先の時代を生きていく子どもたちに自由にクリエイティブに生きてほしいですね。大きな野望としては、「シナぷしゅ」で社会のデザインをじわじわと変えていきたいと考えています。先日は一歩踏み込み、映画を公開しました。今時の赤ちゃんは映画も見るのか、と普段子どもと接点がない方の頭に”赤ちゃん“というワードがチラッと浮かぶ。これだけでも社会がじわじわと変わっていく一歩になります。赤ちゃんがより生きやすく、今後の日本に希望が持てる社会づくりに「シナぷしゅ」が役に立てばいいなと思います。

■自分の人生は自分でデザイン

今は毎日記憶がないくらい必死で働いています。(笑) 男女平等を目指していても、女性がキャリアを描くことはとても難しいです。たとえ、旦那さんが協力的でもなかなか5対5にはなり得ません。

ただ、私はもはや仕事と育児において「両立」という言葉自体が苦しいと思っています。両立という単語は、両方ちゃんと立てている状態を意味しますが、その日によってどちらかがバタンと倒れることもあります。私も、2人目の子どもを出産した時、自分が手掛けたシナぷしゅ映画の制作中でした。子どもを育てたい気持ちはもちろんありましたが、自分が手掛けた仕事から離脱したくない気持ちが勝りました。最終的に、必要不可欠な産休をいただいて、育休0日で仕事に復帰。とにかく大変でしたが、自分がやりたいことは追求できました。これが正解かどうかはわかりませんが、自分らしい働き方を模索することはできたと自負しています。仕事は楽しく、子どもがいることも幸せです。これからも、自分の人生の歩み方は自分でデザインしていきたいですね。

学生新聞オンライン2023年8月23日取材 専修大学 4年 竹村結

赤ちゃんとかつて赤ちゃんだったみんなへ。
「シナぷしゅ」がおくる、 0 歳から楽しめるはじめての体験。
「シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド」DVD 2023年9月27日(水)発売!


商品名:シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド
価格:税込み2,750円(税別2,500円)
収録時間:本編約50分+特典映像
特典映像:さつえいのうらがわ、「エンドロールぷしゅ」フルアニメーション、予告編集
商品サイト:https://columbia.jp/synapusyu/
発売元:『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺにゅうワールド』製作委員会
販売元:日本コロムビア株式会社 ©SPMOVIE2023

上智大学短期大学部 2年 大野詩織 /専修大学 4年 竹村結 / 津田塾大学 4年 大川知 /國學院大學 3年 島田大輝/ 上智大学 3年 川端百桃 / 国際基督教大学 1年 若生真衣 /立教大学 4年 須藤覚斗

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