レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役 会長兼社長 最高投資責任者 藤野英人

一つのブランドを大切にし続けることが、信用と信頼に繋がる。

レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役 会長兼社長 最高投資責任者 藤野英人 (ふじの ひでと)

■プロフィール

国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。「ひふみ」シリーズ最高投資責任者(CIO)。投資啓発活動にも注力し、東京理科大学上席特任教授、叡啓大学客員教授、淑徳大学地域創生学部客員教授を務める。
一般社団法人投資信託協会理事。近著に『プロ投資家の先の先を読む思考法』(クロスメディア・パブリッシング)、『投資家がパパとママに伝えたい たいせつなお金のはなし』(星海社新書)。

効率的に資産運用ができていない現預金を、少しでも投資に向けること。それにより、将来の国民資産を増やし、日本および世界の明るい未来を作ることを目指すのが、資産運用会社であるレオス・キャピタルワークス。代表を務める藤野英人さんの価値観・考え方の変化、投資信託としての信用と信頼をどのように得たのか伺った。

大学2年生までは志望大学に合格できなかったショックで引きこもり気味になっていて、自宅でピアノをよく弾いていました。引きこもっている時は、「このままで良いのかな」と考えていました。
久しぶりに学校に行った時、掲示板に「日中学生会議」という案内を見つけました。「訪中無料!」と書いてあって、参加すれば人生やり直せる良い機会になると参加を決意しました。実際はとても気合が入った団体で、「これから営業に行くぞ」と言われ、驚きました。中国への渡航費無料と書いてあるのに、営業に行くのはなぜだろうと思っていたのですが、訪中したい学生が企業に営業してスポンサーになってもらうことで成り立っているようでした。僕は営業なんてしたことがなかったので、営業周りをしても1件も契約が取れなかったのですが、別の学生はたくさんの契約を取ってきて、実際に無料で中国へ渡航することができました。学生が「契約を取った」と聞いた時、「頭を下げて営業して、プロジェクトを成功させることが大事だったんだ」と気がつきました。

■価値観が変わる経験をして、人生への捉え方も大きく変わりました。

その後、僕自身も中国に訪問する機会があったのですが、清華大学の数学科の先生との出会いは、私の人生における大きな財産といえます。こ数学教諭なのに筋肉ムキムキの先生でした。あまりにも立派な体格だったので、「なぜそんなに筋肉があるのですか?」と質問をしました。すると、先生は高校時代の写真を僕に見せてくれたのですが、そこには身体がガリガリの人が写っていました。その先生は数学オリンピックで金メダルを取ったものの、文化大革命の時代に西洋資本主義に染まっているとレッテルを貼られ、新疆ウイグル自治区で強制労働に10年間従事することになったそうです。放下期間は数学に触れることを一切禁止され、牛や馬と一緒に荒野を耕し、思想教育を受けたと言います。10年後、解放されてからようやく、数学の研究を再開すことができたそうです。
悲惨な経験をしているのに、先生はずっとニコニコ笑顔でいるんですよね。なんでそんなに過酷な経験をしているのに、笑顔でいられるのですかと聞いたら、「君たちが日本から来てくれたことが嬉しいから幸せ」と言ったのです。これを聞いた時、「君が来たから幸せだ」と言えるような人になることが大事だと感じましたね。学生時代のこの経験で、自分の価値観が激変しました。
僕は裁判官や検察官になりたくて法学部に進学したのですが、結果として、在学中に司法試験には合格できませんでした。でも、就活浪人はできないと感じていたので、どこかで働かねばならないと思いました。当時は金融業界の景気が良かったので、お金を稼ぐのにはちょうど良いと考えて、一旦、野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)に就職しました。
大学を卒業して、また司法試験を受ける予定で就職したんですけど、配属された部署が面白くて、結果、腰掛けで働いていることを忘れていましたね。配属された部署の仕事内容は、中堅中小企業の上場前の社長の調査だったのですが、サラリーマンのような人ばかりではなく、海千山千の粗暴な人が多かったのです。検事を目指していたので、こういう人たちを法で裁いてやろうと考えていた時期もありましたね。
でも、その仕事を通して、画期的なアイデアを持った会社や世界のトップクラスの会社、上場して資産家になった人達と出会い、世の中にはいろんな会社があるのだと学ぶことができました。知名度は低い会社でもみんなが日常的に使っている製品を作る会社もあるのだと知るうちに、企業の面白さを感じるようになりました。最初は粗暴だと感じていた上場前の社長も、次第にヒーローのように見えてきたのです。
商品は、必ず誰かが企画して作って生まれるもので、情熱や愛なくして存在しません。今、目につくもの全てに創業者がいて、その人が工場を作り、資金調達をし、勝負したから生まれている。多くの人はこれに気がつくことができないんですよね。
僕は全ての商品には一つ一つ命が宿っているのだと気がつくことができ、世の中がカラフルに見えるようになりました。そこで、自分も起業に興味を持ちました。でも起業するにはお金も経験も足りないので、外資系の会社を2社経て、36歳で創業しました。

■商品ブランドを大事にすることが会社を強くする。

起業には信用と信頼が大切なので、創業当初はコンサルティングをやって、次第に、運用事業にシフトしました。現在は、日本で最大級のアクティブ投資信託「ひふみ」シリーズの運用・販売を行っています。お客様は全国でのべ約100万人を超え、日本株のアクティブファンドでは最大級となり、世界株のファンドとしても日本有数の規模になっています。
現在のような規模に成長できたのは、一つのブランドを大切に育ててきたからだと思っています。会社のブランドはあるけど、投資信託には商品ブランドがない。だからこそ僕たちは商品ブランドを作ることに注力し、そして「ひふみ」というブランドをずっと伝え続けてきました。最初は「一つのブランドに注力するなんて、藤野くんは分かっていない」と言われ続けたのですが、それは誰も手をつけていないからこそ。逆にチャンスだと思ったんですよね。だからこそ僕たちの会社では商品ブランドとして、「ひふみ」を大切にして事業展開をしてきました。
今後の展望として、日本を資産運用立国にしたいのと、成長企業を見出し、長期で支援していくことの面白さを伝えていきたいです。投資はものづくりに関わることでもあるので、そのような投資の魅力を日本の隅々まで行きわたらせたいです。

■大学生へのメッセージ

いろんなことに挑戦してほしいです。「勝つか負けるか」ではなく、「勝つか学ぶか」という考え方が大事です。失敗は学ぶチャンス、失敗を気にして挑戦しないのはもったいないです!あなたの失敗はあなたしか味わうことができないのですから。成功している人は失敗もしています。失敗という投資の先に成功というリターンが隠れていますよ!

学生新聞オンライン2023年10月23日取材 國學院大學1年 寺西詩音

法政大学3年 島田大輝 / 駒澤大学4年 三上山明里 / 立教大学4年 須藤覚斗 / 成蹊大学3年 角田迅斗 /武蔵野大学4年 西山流生

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