アニメーション監督 大塚隆史

作品を見てくれる人々に楽しい時間を提供したい

アニメーション監督 大塚 隆史 (おおつか たかし)

プロフィール
1981年、大阪府出身。東映アニメーションにて『ふたりはプリキュアMax Heart』で演出家デビュー。『映画 プリキュアオール スターズDX1 ~ 3』『スマイルプリキュア!』を監督として手掛けた後フリーランスとなり、2019年に『劇場版 ONE PIECE STAMPEDE』、2021年にテレビアニメシリーズ『三代目 JSB キッズアニメ KICK&SLIDE』を脚本・監督。2022年には映画『ハケンアニメ』内の劇中アニメ『運命戦線リデルライト』の監督を務めた。

『ふたりはプリキュアMax Heart』や『劇場版ONE PIECE STAMPEDE』など日本を代表する数々のアニメの制作に携わってきた大塚隆史監督。今回、ディズニープラスが手掛けるファンタジーアドベンチャー超大作『ワンダーハッチ‐空飛ぶ竜の島‐』のアニメーションパートを監督した。<実写>と<アニメ>で一つの物語を描くという映像表現を用いる本作は監督にとっても新たな試みだ。作品への想い・見どころや仕事のやりがいについてお話を伺った。

幼い頃からアニメーション監督を目指していたわけではなく、ただ絵を描くことが好きという程度でした。現在に繋がる専門学校への進学を決めたのは高校3年生の時です。周りの人がみな当たり前に大学進学を選択する環境の中で、自分にはピンとくるものがなかった。そんな時、スタジオジブリ・宮崎駿監督の『もののけ姫』の誕生秘話に着目するドキュメンタリー作品に出会ったんです。それまで考えたこともなかったアニメにまつわるお仕事を知り、興味を持ちました。その後、専門学校の見学で自分の絵をアニメーションする体験をした時、非常に感銘を受けました。とても衝撃を受けて面白いなと思ったので、その専門学校に進学することにしました。
卒業後、ご縁があって入社した東映アニメーションで様々な作品に関わっていく中で、その都度、目標を見つけていきました。その時々の目標に向かって進んでいくうちに、気づいたらアニメーション監督になっていたという感じです。

■自分たちの生み出したものを楽しんでくれている人たちがいる

『プリキュア』シリーズの成功は、自分の中で非常に印象的な経験です。今でこそ定番化しているプリキュアですが、開始当初は世間にどう思われるか、いちスタッフとしてとても不安でした。原作もない、まっさらな状態からの制作だったからです。しかし、放送開始後、すぐに続編や映画上映が決定するなど、思っていた以上の良い評価に驚きました。街中でもコラボお菓子やグッズを身に着けた子どもたちを目にするようになって、「誰も見ていないと思っていた僕らの仕事が世間に注目されている」と実感して、素直に嬉しかったです。自分がプリキュアの映画を監督した際には、自ら映画館に行って一番前か後ろの席に座って、観客席全体を眺めては、観てくれている方々の反応を観察したりもしましたね。
自分たちの生み出したものを楽しんでくれる、喜んでくれる人がいることが目に見えて分かったとき、改めてこの仕事にやりがいを感じました。常に放送や公開などの絶対的な締め切りがある仕事なので大変なときもありますが、好きでやっていることなので、仕事とプライベートの境界線が曖昧で、ずっと仕事と言うかアニメ作りに没頭していました。それが全部楽しいんですよね。そういう意味で、この仕事に自分は適性があったんだなと思います。

■アニメと実写の2つの世界『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』を通しての挑戦

『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』のお話を頂いたとき、単純に面白そうだなと思いました。アニメのキャラクターが実写にやってきたという設定はありそうでなかったからです。僕自身、20年ほどこの仕事を続けてきてルーティン化してしまっていた部分もあり、いつもとは違う今回の企画にぜひ挑戦してみたいと思いました。
実写の監督と1つの作品を作り上げていく今回の制作は新鮮でしたね。アニメの世界を作る際には、実写の監督、萩原さんの世界観を忠実に再現することを特に重要視しました。すでに練り込まれた世界観が存在していたので、アニメとしてもそうありたいという想いが強くあったんです。そのために実写チームと円滑なコミュニケーションを心がけました。本作では、空を飛ぶシーンやドラゴン、異世界の言語が登場します。こういった“異世界の常識”について、他のスタッフたちがどういったイメージで作り上げているのかを念入りに確認しました。さらに、作り上げられた世界観にコミットして、自分にできる+αを提案したりなどもしましたね。完成した作品を観て、素直に「面白いな」と思いました。普段は「もっとこうすればよかった」と思う部分にばかり目が行ってしまうのですが、今回はすごくフラットに観ることができたと思います。
本作を御覧になる方には、今回の大きな挑戦である実写とアニメの融合感はもちろん、アニメの画にも着目してほしいです。ドラゴンのアクションシーンなども見応えがあると思います。最後までわくわくしながら観てもらえたら嬉しいですね。

■反応をもとにブラッシュアップしていく

日頃は、「もらったフィードバックを活かす」ことを大切にしています。自分の特性としても、反応をその後に活かすことを日常的に行っているような気がします。自分では「いいな」と思った部分が意外とうけないことも多々あります。そんな時はなぜこのようなギャップが生まれてしまったのか、研究して次回に活かしてやろうという気持ちになります。
実際、プリキュアの映画も3回連続で監督をするとその積み重ねで良くなっていったと実感していました。作品を作るにあたって、自己表現に完結しない、独りよがりにならないようにということを強く意識しています。なぜなら、人々に楽しんでもらえる作品でないと僕にとってはあまり意味がないからです。その意味で、今回の『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』では世界中の人々の反応が見られるのではないかという点でも、非常に期待しています。もしまたこういった作品に関わる機会があれば、今回の経験を活かしてよりよいものを作りたいですね。今後も見てくれる人に楽しんでもらうことを目標に据えた作品作りを行っていきたいと思います。

■大学生へのメッセージ

目標や夢が定まっていない人へ。僕もまさか自分がアニメーション監督になるとは思っていませんでした。想定していたものと違う未来になることは全く悪いことではありません。今、興味があることに積極的にチャレンジしてほしいです。他人のことは気にせず、紆余曲折してもいいと思います。そうして進んでいく中で自分の適性ややりたいことが見つけられると思います。一生懸命動いていれば、きっとその先に良いご縁や出会いに巡り合えると思います。

学生新聞オンライン2023年11月15日取材 上智大学2年 池濱百花 / 日本大学4年 和田真帆

『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』
■配信:ディズニープラス「スター」で12月20日(水)独占配信 
■監督:萩原健太郎
■アニメーション監督:大塚隆史
■脚本:藤本匡太、大江崇允、川原杏奈
■原案: solo、日月舎
■キャラクター原案・コンセプトアート:出水ぽすか
■プロデューサー:山本晃久、伊藤整、涌田秀幸
■制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
■アニメーション制作:Production I.G
■キャスト:
中島セナ、奥平大兼、エマニエル由人、SUMIRE
津田健次郎、武内駿輔、嶋村侑、三宅健太、福山潤、土屋神葉、潘めぐみ、宮寺智子、大塚芳忠
田中麗奈、三浦誠己、成海璃子/新田真剣佑(友情出演)、森田剛
■話数:全8話
■© 2023 Disney

日本大学4年 和田真帆 / 上智大学2年 池濱百花 / 上智大学短期大学部2年 大野詩織 / 日本大学1年 大森雨音 / 国際基督教大学1年 若生真衣

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。