ノイルイミューン・バイオテック株式会社 代表取締役社長 玉田 耕治

いまだに治療法のないがん患者さんを助けるために新しい薬を開発したい

ノイルイミューン・バイオテック株式会社 代表取締役社長 玉田 耕治(たまだこうじ)

■プロフィール
1992年九州大学医学部卒業。1998年から米国で10 年以上にわたってがん免疫研究に取り組み、ジョンズホプキンス大学医学部、メリーランド州立大学医学部にて Principal Investigator(主任研究者)として研究室を主宰。
2011年に帰国し、山口大学医学部免疫学教授として就任。
2015年にノイルイミューン・バイオテック株式会社を創業。
2020年に同社代表取締役社長に就任。

最新のがん免疫療法を介して、これまで有効な治療効果を示すことのできなかった固形がんに対する治療薬を開発する事業に取り組む大学発ベンチャー企業であるノイルイミューン・バイオテック株式会社。同社代表の玉田耕治社長は、安全かつ有効な治療法をすべてのがん患者さんに届けるため、長年に渡り最先端の技術を研究してきた。玉田社長にこれまでの軌跡を聞いた。

大学では医学部に入学しました。入学当初は学業だけでなく、テニスなどで友人との楽しい時間を過ごし、家庭教師や単発のイベント運営のアルバイトも経験しました。ただ、医学部では基礎医学や臨床医学に関する多くの授業や試験があり、卒業時には医師国家試験もあるため、学年が上がるにつれて勉強に打ち込むようになりました。

■現実の医療現場を見て、新たながんの治療法をめざす

医学部を卒業して医師国家試験に合格し、医師の肩書を得ても、すぐに患者さんを診れるようになるわけではありません。車の免許を取得したばかりのペーパードライバーと同じように、医師としての技術はまだ不十分であり、一人前の医師になるにはたくさんの臨床経験が必要になります。最初の2年間は研修医として診療に従事し、医師としての一般的な知識や技術を学びました。その際、多くの患者さんを診察する中で、当時の最先端の医療方法を駆使しても治療することができず、亡くなっていくがん患者さんを何例も目の当たりにしました。そのような経験から、もっと治療効果の高いがん治療法を自分で創り出したいという想いが高まっていきました。そこで免疫の力を利用してがんを治す方法の研究に注力するため、大学院への進学を決めました。

■渡米後は、ノーベル賞に関係する研究にも取り組む

大学院在学中には、努力の甲斐もあり、新しい治療法につながるようなアイディアをたくさん出すことができました。ところが、アメリカやヨーロッパなどの世界のトップレベルのがん研究に目を向けると、日本の大学に在籍しながらできることには限界を感じました。私はなんとしても、トップレベルのがん免疫研究に携わり、1人でも多くのがん患者さんに提供できる治療法を創り出したいと思い、大学院を3月に卒業した後すぐに渡米し、博士研究員として現地の大学へ留学しました。
その後、アメリカでの私の研究は13年に及びました。渡米して数年後には自らが主体となって研究室をマネジメントし、がんにおける免疫チェックポイント機構やその阻害薬に関する研究に深くかかわるようになりました。当時の研究内容について少し説明しますと、私たちの体の中にある免疫システムは、自分たちの身体を危険にさらすような細胞を排除する力を備えています。しかし、がん細胞は免疫チェックポイント機構という力を利用して、免疫からの攻撃を無効にする術をもっていて、そのために治療が難しいのです。そこで、免疫チェックポイント機構を阻害する薬剤(=免疫チェックポイント阻害薬)を開発し、免疫のがん細胞への攻撃を強化するための研究を行っておりました。世界中の研究者がそのような研究に取り組んでおり、2018年には京都大学特別教授であった本庶佑先生が免疫チェックポイント機構の発見や免疫チェックポイント阻害薬の開発にてノーベル医学生理学賞を受賞されました。

■人類をがんから救う可能性となる新たな治療法を見つけたことが、起業のきっかけ

2011年に日本へ帰国してからは、アメリカで研究していた時とは別のメカニズムによるがん免疫療法について研究を始めました。遺伝子組み換え技術によって攻撃力を高めたT細胞の一種にCAR-T細胞と呼ばれるものがあります。CAR-T細胞の技術自体は既に開発されていて、血液がんと言われるがんには非常に効果が高い一方、がんの大部分を占める固形がんに対しては効果が不十分であることが知られていました。そこで、私の研究チームはCAR-T細胞を改良してその攻撃力をさらに増強させ、固形がんに対しても効果を発揮できるようにするための新たな技術を創り出しました。こうした新たな技術に基づく治療法を薬として実用化するためには大学だけでは不十分であると考え、当社を起業いたしました。当社は世界的な最先端技術をベースに、大手製薬会社とも連携しつつ、実際に治療薬として有効かどうか確認するための臨床試験を進めています。

■ほしい人材は、失敗してもチャレンジを継続できる人

管理部門においては、応募書類が丁寧な方は非常に印象が良く、「この人は仕事においても丁寧に対応頂けるのでは」と思います。もちろん、書類だけで採用を決めることはなく、面接での受け答えなどを拝見しながら採用を判断します。
一方で研究者の採用については、天才肌の人も多いので一概には言えないのですが、譲れない条件を上げるのであれば、人がやらない研究に積極的に挑戦し、失敗しても新たなチャレンジを継続できる人がいいですね。
また、部門に関わらず、私たちの使命である「効果の高いがんの治療法を一刻も早くがん患者の方へ届けること」を目標に、常に熱意を持って業務に取り組んでいただける方と是非一緒に働きたいと思っています。

■夢は、一人でも多くのがん患者さんを治すこと

私が目指しているのは、大学卒業後に研修医としてスタートした時から変わらず、1人でも多くのがん患者さんに治療を提供することです。そのために会社として、研究と技術開発に焦点をあてて邁進し、その結果として創薬を行い、収益を得ながらそれをもとに新たな研究を進めて、さらに新しい薬を創るというサイクルを回していくことを目指しています。日本の大学には、新しい薬の種になるアイディアがたくさんあります。私たちがそれらを実用化し、日本の医療における開発力や創薬力を世界へ誇れるようにしたいですね。また、研究開発の成果を出し、この会社ならしっかり事業に取り組んでいるから信頼できると、皆さまから認知していただけるように、日々の研究に励んでいきたいと思います。

■大学生へのメッセージ

私はこの仕事を30年以上やっていますが、できることはまだまだあると感じていますし、挑戦し足りないことばかりだと考えています。このように思えるのは、紛れもなくこの仕事に魅力を感じているからです。そして、研究開発が自分の好きなことであり、その仕事ができる環境に身を置くことができているから、同じ仕事を継続できるのだと確信しています。
そんな仕事を選ぶためにも、大学生の皆さんにアドバイスしたいのは「一見、大変なことに思えても、自分にとっての価値を自分の頭でよく考えてみることが大事」ということです。そして、何事にも自分の意思をもって積極的に挑戦すること、その積み重ねこそが豊かな人生を作ってくれるのではないかと私は思います。  

学生新聞オンライン2023年10月20日取材 日本大学1年 大森雨音

武蔵野大学4年 西山流生/日本大学1年 大森雨音/立教大学4年 須藤覚斗

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