株式会社雨風太陽 代表取締役 高橋博之

都市と地方をかきまぜて、持続可能な社会をめざす

株式会社雨風太陽 代表取締役 高橋博之(たかはしひろゆき)

■プロフィール

1974年、岩手県花巻市生まれ。青山学院大卒。 代議士秘書等を経て、2006年岩手県議会議員に初当選。翌年の選挙では2期連続のトップ当選。震災後、復興の最前線に立つため岩手県知事選に出馬するも次点で落選、政界引退。2013年NPO法人東北開墾を立ち上げ、地方の生産者と都市の消費者をつなぐ、世界初の食べもの付き情報誌「東北食べる通信」を創刊し、編集長に就任。2015年当社設立、代表取締役に就任。

誰もが毎日向き合う“食”。食材を調達する時、生産者の顔が浮かび、「ありがとう」と感謝できているだろうか。苦しい過去を乗り越え、政治の世界を歩む最中、東日本大震災で垣間見えた地方の限界。「都市と地方をかきまぜる」をミッションに、「ポケットマルシェ」などを運営する株式会社雨風太陽が目指す未来社会について、高橋代表に伺った。

人生とは思い通りにいかないものです。まず、私は大学2年生を3回やっています。当時、私の通っていた青山学院大学は、厚木駅からバスで約30分登った山の上にあり、3年生に進級すると花の都・東京の青山に出ます。私は進級できず「厚木返し」を2度味わいましたね(笑)。進級できなかった理由は、大学に通う目的を見失ったからです。高校までは親元で暮らし、当然のように学校へ通っていました。ただ、姉が知的障害者で「なぜ自分はこう生まれたのか、人は何のために生きるのか」などを、子供ながらに考えていました。そして、大学で上京して独り暮らしを始めると、その問いがドーン!と落ちてきたわけです。“自分は一体、何のために生きているのか”と。海外へ自分探しの旅に出ても何も分かりませんでした。
次に、帰国後はテレビ局のバイトを始め、やがてジャーナリストを目指すようになります。就職活動では新聞社だけを狙い、全国紙から地方紙まで3年受け続けたものの、見事に全て落ちます。ESは100枚以上書きましたよ(笑)。当時の新聞記者は花形で、100人に1人しか通らない狭き門。なので、面接に通るための社会経験として、大学の先輩で国会議員の鞄持ちを始めました。この不埒な理由で始めた政治の世界が徐々に面白くなってしまった。そのうち、“俺がマイク持って前に立って話したい”という気持ちがポッと湧いてきたんです。世話になった故郷・岩手で、地元の同級生と同じ空見て同じ空気を吸って、話を聞いてもらいたい。そう思い、岩手へ帰りましたが、田舎の選挙は組織票が多く、若者が入り込む隙間はありません。岩手は、政治家・小沢一郎の牙城でもあるので尚更です。それで私は毎朝、住宅地の交差点や田んぼの畔に立ち続け、1年と数カ月後に晴れて当選しました。人生とはなかなか思い通りにいかないものです。あまり先を見すぎず、その時々の縁や出逢いを大切にしようと切り替えてからは、歯車が動き出し今に至ります。

■震災が浮き彫りにした、地方の限界

雨風太陽を始めたきっかけも、出会い頭の事故でした。2011年3月11日に震災が起きた当時、私もすぐに駆け付けて被災地支援をする中で、また“リーダーになって震災を復興したい”という想いがポッと芽生えたのです。その志を胸に知事選へ出ましたが、落選。自然災害が浮き彫りにした社会課題は待ってくれないので、政治家を引退しました。そして、被災地の漁師町・三陸で、ある漁師と出逢います。彼は、「震災前からこの街は行き詰まっていた。魚を捕っても食べてもらえない。そこにトドメを刺されただけだ」と言いました。今は生産と消費が離れているので漁師の顔は見えず、スーパーでは値段を見て購入しますよね。消費者として合理的な行動である、費用対効果の最大化、すなわちできるだけ安いコストで多く得るという消費が地方生産者を追い詰めていた事に気付いたのです。さらに彼の過酷な漁師生活を知るにつれ、多少スーパーの魚より高くても、「彼の魚は彼の言値で買いたい」と思うようになりました。食べ物の裏にいる生産者が見えるようにすれば、適正な価格で売れる、すなわち生産者が報われる世の中になる。そう考え、生産者と消費者を繋ぐ情報誌「食べる通信」や産直EC「ポケットマルシェ」を始めました。

■「都市と地方をかきまぜる」

雨風太陽の事業は主に3つあります。
1つ目は、「ポケットマルシェ」という食のサービスです。現在、全国8,100人の生産者様、73万人のユーザー様に登録して頂いているオンラインマルシェで、分かりやすく言うと“メルカリの一次産業版”です。「ポケマル」も、スマホ一つでやり取りでき、自分で価格を決める事ができます。
2つ目は、「親子地方留学」という旅行サービスです。故郷がない人も増えているので、夏休みに帰る故郷がない親子が地方へ来て、親はワーケーションをし、子どもは農家で農業体験をするなどのプログラムを展開しています。
3つ目は、自治体支援サービスです。地方自治体は今、“課題のデパート”と言われていて、過疎高齢化はじめ様々な課題を抱えています。そこで現場と繋がりを持つ我々が、地域の生産者様に直販や配送の仕方を教えたり、ワーケーションプログラムを造成したりするなど、自治体の底力が上がっていくよう生産者に寄り添った支援をしています。この雨風太陽の主軸である3事業全てに一貫しているのが「都市と地方をかきまぜる」という考え方です。現代の都市では、東京一極集中が起因して、様々な生きにくさや生活環境の悪さなどの問題が発生しています。一方、地方は人が少なすぎることに起因して担い手不足などの問題を抱えています。つまり、“かきまぜる”とは、「都市の活力を地方に、地方のゆとりを都市に」という意味です。都市の方は都会にいながら地方の旬の食材を購入して食べ、夏休みはまるで里帰りするように子どもを連れて自然体験をしてもらうことで時折ゆとりを感じ、地方の方にとっては全国各地から来てもらい適正価格で購入してもらうことで活力に繋げていきたいですね。

■“間”を大事に、つながり育む「産直SNS」

ポケマルは単なる産直ECではなく、人間関係が生まれる「産直SNS」です。具体的な生産者と消費者の顔が見える双方向取引は、「ありがとう」が生まれます。例えばポケマルでは、「海から発送したよ」など、発送完了の連絡をいれることをルールとしています。今までスーパーでしか購入経験が無い人は驚くわけです。さらに農家は、住所と名前、先月も購入してくれたことを覚えていたりすると、購入者へのメッセージで「先月も買って下さり、今月もありがとうございます」と10秒間の手間をかけて送る。この手間はかけなくてもいいけど、かけようと思えばかけられる。手間と時間には“間”という字が入っていますよね。“人の間”と書いて、人間です。お客さんとの間に手間と時間をかけると、人間関係が生まれるのです。人間関係が生まれてインスタも繋がると、益々相手のことを知ります。ある農家さんは、赤ちゃんが生まれたばかりの家庭だと知ると、注文が入っていないにも関わらず、出産祝いとしてリンゴを送ったりしています。まるで田舎の親戚のオッチャンのようです(笑)。
買う側にしたら、都会住みで故郷も無く、いつもリンゴを買っていたオジサンからプレゼントされたら、もう離れられません。そして、この農家が銀座のアンテナショップで催事を開くと、子供の顔を見せに行くわけです。めちゃエモくないですか(笑)? 同様の仕組みを持つ競合サービスもありますが、このような「生産者と消費者の距離」がポケマルのユニークポイントです。我々はサービスFAQで“間に入りません“とあえて記載し、生産者と消費者だけの直接的でクローズドなやり取りも認めています。これは、代金を払うから直接売ってくださいという、中抜きリスクに繋がる可能性がある。しかし、そのリスクよりも双方向に繋げたことで生まれるエンゲージメントを優先しています。エンゲージメントが高まると、人間関係が生まれ、長期で購入してもらうことができる。また、生産者の売る力も上がります。マーケティングの一番地とは「お客さん」を知ること。お客さんと直接つながると時には厳しい事も言われますが、それは自分の生産や販売における欠点です。その声をしっかりと反映し、改善していく生産者は、確実に売る力をつけていく。ひいては持続可能な社会に繋がるのです。

■「関係人口」を増やし、都市も地方も元気に

2050年に日本国民は1億人を下回ると言われていて、今から2千万人以上いなくなります。そこで、極端に言えば、2050年までに日本国民全員が2ヶ所に住民票を持ち、都市と地方を往来するようになればどうでしょう。住民票を持ち、主体的に地方に関わる人、すなわち「関係人口」が増えれば、国全体の活力は増すと考えています。まずは3つのサービスを通じて、地方に関わる人の“量”を増やすことを目指しています。つまり、都会から地方へのパスポートを沢山の人に渡して、どんな形であれ地方に関わる人を増やしていきたいですね。
また、1つの企業で出来ないことは、大企業さんと進めています。例えば、日本航空さんは、地方が廃ると運ぶ人がいなくなるため、地方を元気にしたいが術はない。一方、我々は都市と地方を往来する人が増えてほしいけれども、交通手段を持っていない。そのため我々は包括業務提携を結び共に協力しています。
そして、同じ志を持つ仲間も募集しています。都市と地方をかきまぜて、持続可能な社会を共に作っていきましょう!

■大学生へのメッセージ

出会い頭の事故は、外に出ないと起きない。以上!(笑)。思いがけず出逢ってしまって、思いがけずその出逢いによってポッと芽生えてしまう、これは本当に大事なことです。家の中でスマホを眺めていても、出会い頭の事故は起きません!とにかく外に出て、面白そうだなと思ったら何も考えず、まずは体験してみることが大事だと思います。

学生新聞オンライン2024年2月27日取材 専修大学 4年 竹村結 / 玉川大学 1年 川口英莉

明治大学大学院 1年 酒井躍/玉川大学 1年 川口英莉/専修大学 4年 竹村結

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