アーティスト・役者 渡邉蒼
言語化の先にある、僕の表現

アーティスト・役者 渡邉蒼(わたなべあお)
プロフィール
子役として NHK 大河ドラマ『西郷どん』や連続テレビ小説『なつぞら』で注目を集める。2024年には作詞作曲編曲を自身で行った楽曲をリリースし、本格的に音楽活動を開始。近年の主な出演作は舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』、連続テレビ小説『舞いあがれ!』など。25年 11月には舞台「デスノート THE MUSICAL」に出演。
アーティスト・俳優として活躍する渡邉蒼さん。幼少期から芸能の道を歩み、自身の感情やモラトリアムを音楽や芝居で表現し続けてきた。「やめられない」と語るその原動力には、何があるのか。7月にリリースされる初のEP『ボーイズ・イン・ミステリー』に込めた思いや、学生への熱いエールに迫った。
マイケル・ジャクソンの楽曲「Smooth Criminal」を聴いたあの日、「アオ!」という掛け声が耳に飛び込んできました。まるで自分の名前を呼ばれたように感じて、運命を感じたんです。そこから、歌やダンス、そして演技へと扉が開かれました。
歌の表現力を高めたいという思いから、子役として芝居にも挑戦するようになりました。演じることを続けていくうちに、「これしかない」と思うようになったんです。
小学生の頃から「この仕事でご飯を食べていく」と決意していたので、すでに仕事としての意識は強く持っていました。給食を食べたら早退して現場に向かう日々。学校との両立は決して楽ではありませんでしたが、先生や家族が本当に支えてくれました。卒業式には出られなかったけれど、担任の先生が特別に母に卒業証書を渡してくれて。そうした周囲の支えがあったからこそ、今の自分があるのだと思っています。
■自分の人生が作品ににじむ瞬間
この仕事のいちばんの喜びは、「自分の人生が作品ににじみ出た」と実感できたときです。技術が身について表現できるようになるのも嬉しいですが、それ以上に、ずっと心の中にあったモヤモヤや、自分でも言葉にできなかった感情が自然と演技や音楽の場合は作詞に表れたとき、「ああ、ちゃんと伝わったかもしれない」と感じられるんですよね。
たとえば、かつて出演した舞台で、自分が演じる役に「バイセクシャルかもしれない」という解釈が含まれていたことがありました。あくまで役としての設定ですが、その人物が抱える葛藤を表現する中で、私自身がこれまで感じてきた“別の種類の葛藤”と重なる部分があり、自然と気持ちが乗っていったのを覚えています。感情が素直ににじみ出てきたように思えて、「ああ、これは自分の中にもある感覚かもしれない」と感じた瞬間、救われたような気がしました。
芝居も音楽も、口先だけでは伝わりません。笑顔を求められて口角を上げても、心が伴っていなければ、それは観客には届かないと思います。だからこそ、感情や心理とまっすぐに向き合う姿勢を大切にしています。
■初EP『ボーイズ・イン・ミステリー』は、10代の自分の“モラトリアム”
7月にリリースされる『ボーイズ・イン・ミステリー』は、私にとって初めてのEPです。収録されている僕が作詞作曲した4曲は全て10代の頃に書きました。自分は何者で、どう生きたいのか。そんな問いを抱え続けた日々の記録のような作品になっています。
たとえば「拍拍」という曲は、高校時代のフラストレーションをぶつけたような一曲です。まわりの価値観にうまく馴染めなかったり、普通でいることを求められて、人と違くないアーティストに何の意味があるのかと強い疑問を抱いたり。そんな心の揺れを、曲として形にできたことが、自分にとって救いでした。
編曲には音楽ユニット「モノンクル」の角田隆太さんに参加していただきました。誰かと一つの音楽を作ることをずっと目標にしていました。角田さんとは、「ポップスに寄せつつも、芯にあるものは届けたい」という思いを共有しながら制作を進めました。
「3㎎」は、たばこにたとえた恋の歌です。少し危うい存在に惹かれてのめり込み、失ったときに深く落ち込む——そんな経験に心当たりがある人も、きっといるのではないでしょうか。
リリースまでの道のりは長く、決して平坦ではありませんでした。レコーディングでは、「下手でもありのままの自分を出そうと。失敗を恐れて何もできなかったという結果にだけはしないようにと奮闘していました。でも今は、そうした不安や葛藤も含めて作品に込められたことが、意味を持つのだと感じています。
■これからも、「やめられない」自分でいたい
気づけば、芸歴も10年を超えてきました。正直、「もうやめようかな」と思ったことも何度かあります。でもそういう時は決まって、運命的な作品との出会いが訪れます。まるで「本当に諦めるの?」と問われているような気がして。そのたびに、「やっぱり続けよう」と思えるんです。
これからの目標は、ヒット曲を出すこと。自分がやりたい音楽は、今の流行とは少し違うかもしれません。でも、自分という名前に力がつけば、どんな表現でもきっと届けられると信じています。
俳優としては、「何かが人と違う」と感じている人に、作品を通して小さな希望を届けられたら嬉しいです。過去に韓国へ留学していたとき、自分だけ身長が低かったり、日本人らしい顔立ちだったりして、いろいろなコンプレックスを抱えていました。でも、世界中に「何かが違う」と悩む人はたくさんいると思うんです。そんな人たちの背中をそっと押せるような存在でありたいと願っています。
■大学生へのメッセージ
高校を卒業してから、考えすぎてしまうことが増えました。何も悪いことが起きていないのに、不安が勝手に膨らんでしまうことがあるんです。
でも僕は、限界まで悩んで、「もうやめよう」と思ったその先にしか、見えない景色がないような気がしています。実際、何度も「無理だ」と思ったけれど、そのたびに新しいチャンスがやってきて、自分を前に進めてくれました。
だからもし今、進路や将来のことで悩んでいる人がいたら、「もう少しだけやってみようかな」と思えたら、それだけで、何かが変わるかもしれません。
学生新聞オンライン2025年6月27日取材 津田塾大学3年 石松果林
【リリース情報】

2025年7月23日 リリース
デジタルEP「ボーイズ・イン・ミステリー」
ダウンロード/ストリーミング▷https://orcd.co/boysinmystery_aowatanabe
収録曲
M1.歪な春
M2.3mg
M3.拍拍
M4.プレイバックpart2
M5.〈新〉地動説

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