株式会社紀文食品 代表取締役社長 堤 裕
「感謝 即 実行」で、品質にこだわり、喜びを届けるブランドへ

株式会社紀文食品 代表取締役社長 堤 裕 (つつみひろし)
■プロフィール
1956年生まれ、静岡県出身。慶應義塾大学経済学部卒。1980年4月、株式会社紀文(現・株式会社紀文食品)に入社。営業や商品企画担当等を経て、取締役総務本部長、常務取締役マーケティング室長、取締役兼専務執行役員秘書室長などを歴任後、2017年12月に代表取締役社長に就任。
水産練り製品大手・紀文食品。そのブランドを支えてきたのが、品質へのこだわりと時代に応じた事業展開である。創業以来受け継がれてきた理念のもと、発展を続けてきた同社の堤社長に、自身の歩みを振り返りながら、企業を支えてきた考え方やブランドへの思い、そして今後の展望について伺った。
大学生時代は社会と接点を持つきっかけの期間でした。愛知県で過ごした中学高校の6年間はいわゆる帰宅部で、周りの人と何かを一緒に行う機会は少なく、本ばかり読んでいました。その頃は人と接することが苦手でしたので、そのような状況を変えたいという気持ちもあり、浪人をして、東京の大学に進学しました。大学生になってからは、麻雀仲間と毎日のように一緒に過ごしていました。麻雀そのものが目的というより、それまでほとんど持たなかった外の世界との接点として、みんなといる時間が楽しかったことを覚えています。また他には百貨店でアルバイトをしていて、そういった経験を通して、徐々に社会に参加していったと感じています。
■多様な経験を糧に築いたキャリア
大学で百貨店研究会に在籍していたことやアルバイト先でお中元やお歳暮といった食品を扱っていたことから食品系の企業には親近感を持っていました。百貨店では、とにかく目の前のことを丁寧に確実にやりきる、また商品の特徴に応じて売り方が異なることを学ぶ場となり、将来につながることとして、今でも大切なスキルになっています。その後、たまたまゼミの先生のご縁もあり、先生に紹介してもらった紀文食品に就職しました。入社後は、地元・名古屋での勤務からスタートしました。当時は地域ごとに会社が分かれていたこともあり、比較的早い段階で課長という立場を任されました。そこではマーケティングや商品開発、広告など様々な仕事に約10年携わり、さらに新人教育も任されていました。そのような環境ゆえに自分の思い描くように仕事をしていた部分があったと今では思います。その後、名古屋での評価を受け、沖縄の合弁企業へ赴任しました。沖縄が本土復帰する前で、現地と日本本土をつなぐ窓口のような立場となり、上層部に意見を伺いながら提案し、その許可を得ては現場に伝える、という橋渡しの役割を担った5年間でした。そんな中で特に記憶に残っているのが紀文のはんぺんプロモーションの出来事です。本来は機械を使用して発泡させることでふわふわに仕立てるのですが、沖縄でははんぺん自体の販売量が多くなく、結果的に製造数が少なく、機械を導入しても採算性に難があることから手作業で行っていました。しかし、手作業で作るものは紀文本来の商品とは異なる品質でした。そのことを前会長から厳しく指摘・叱責され、私は東京に戻されました。
振り返ると、今に至るまで浮き沈みが激しい人生だったように思いますが、その都度、目の前の仕事に対しては、丁寧に確実に向き合ってきたと考えています。
■憧れから伝統を引き継ぐ
現在の社風には90年近く前の創業時の思いが引き継がれています。初代は農家の生まれなのですが、地元の食品問屋に東京から背広を着たセールスマンの方が訪れた際、その姿を見て「東京でスーツを着てかっこいい商売をしたい」と思い、東京に1人で出てきました。1938年に独立し山形屋米店を開いたのが当社の始まりです。創業時の根本となる思いは2つで、かっこいいスタイルと食品の商売でした。その後米店や果物店を経て資金を貯め、1947年に築地で魚肉加工品の製造に着手。自慢のオートバイで浦安や九十九里まで魚を仕入れに行きながら、出来立ての商品を築地場外市場で販売していました。当時は珍しかったのですが、清潔感や高品位感を示すよう、社員は白いワイシャツ、紺のネクタイ、紺の背広を着用し、市場の中で接客を行っていました。当時から“ブランド”というものを大事にしていました。商品に焼き印を入れることで品質と信頼の証としているのも、ブランドを大事にするという思いからです。
またブランドに関連しますが、創業者は自身もアマチュア相撲で四股名を持つほど相撲が好きでした。戦後まもない頃に、物資が少なく、大相撲の世界でも縁の下の力持ちである呼出が困窮していると聞いた創業者は、支援のために着物を寄付したそうです。それに対し呼出の方々が感謝の気持ちを込めて「紀文」と染め抜いた着物を着るようになり、やがて相撲がテレビ放映されるようになると、呼出の着物に紀文のマークがついていることが全国のお茶の間に映像として届けられ、当社の認知度向上とブランドとしての成長のきっかけの1つにもなりました。さらにブランドに見合った高品質な商品も販売していたことから現在の上皇陛下のご成婚に際し、引き出物の調製を賜り、現在では祝宴料理の調製も承っています。
■品質へのこだわりとブランド力を活かした成長戦略
2代目の前会長が大学で専攻していたマーケティングを皮切りに、広告宣伝やマーケティング活動も積極的に行ってきました。また、市場の主力が百貨店からスーパーマーケットやコンビニへ移る中で、自前の物流網を駆使しながら直接取引をすることで売り上げ拡大を図ってきました。こうして自社と製品の持つブランド価値を大切にしながら商売を行い、堅実な商売を通じてブランドを認めてもらうという連鎖を作り続けてきました。また創業以来、出来立てで美味しく安全安心な商品をお客様に提供するといった品質へのこだわりを現在にも引き継ぎ、今に至っています。さらに2021年には東証一部(現 東証プライム市場)へ上場しました。上場に至ったきっかけには2つあります。1つは上場することで社会的なお墨付きがつき、信用がある企業であるという印象を関係する皆さまに与えることができます。もう1つは、創業家によるプライベートカンパニーから、長く続くパブリックカンパニーにしたいという思いがあったからです。
これからも多くの方に役立ち、喜んでいただける商品と召し上がる機会を提供していきたいです。日本のみでなく、世界各地の方々にも当社の商品を喜んで食べていただけることも目指していきたいと思っています。
■大学生へのメッセージ
いただいたものへの感謝を大事にしてほしいです。いただくものは、物や笑顔、サービス、心遣い、機会など様々あると思います。そういったいただいたものに対して素直にありがとうと伝えるのです。そして“今”に全力を尽くしてほしいです。“今”は過去からの帰着であり、未来に向けての出発点です。“今”を大事にするからこそ素晴らしい未来を作ることができます。人間の時間は平等で、今目の前にあること以外に力を発揮することはできません。だから様々な人がいる社会の中で、いただいたことに対して感謝する気持ちを忘れずに、自分ができることを全力で行ってほしいです。
学生新聞オンライン2026年4月30日取材 津田塾大学4年 山下さくら

武蔵野美術大学2年 石井生成/法政大学2年 森川葵/実践女子大学2年 土屋栞菜/津田塾大学4年 山下さくら/東京女子大学3年 浮田梨紗


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