レーシングドライバー 中野信治
好きなレースが導いた、世界チャンピオンとF1ドライバーの道

レーシングドライバー 中野信治(なかのしんじ)
■プロフィール
11歳からカートを始め、’87年16歳で国際カートGPにおいて日本人初優勝・大会史上最年少優勝に輝く。
’97年に日本人で5人目となるF1フル参戦デビューを果たし、「モナコGP」にて当時日本人史上最高位を獲得。
’03年には自身2つ目の世界3大レースである「インディ500」に参戦。
’05年には「ルマン24時間耐久レース」へ参戦、日本人として初めて世界3大レース全てへの参戦という偉業を成し遂げる。
近年では自身のレーサーとしての活動に加え、「鈴鹿レーシングスクール(SRS)」のバイスプリンシパルに就任、「DAZN」でのF1解説、「全日本GT選手権」及び「全日本スーパーフォーミュラ選手権」で2チームの監督を務めるなど、若手育成やモータースポーツの発展のために尽力。
海外経験豊富な国際派ドライバーとして評価が高く、実力・人気ともに日本が世界に誇るトップクラスのドライバーとして幅広い世代から支持を受けている。
小学校6年生でカートに出会いレースの大会では16歳で世界チャンピオンとなるなど、今やF1ドライバーとして注目を集める中野信治さん。学生時代はいじめや学業との両立に悩みながらも、「F1ドライバーになる」と決めて走り続けた。現在はF1の解説や若手育成に携わる中野さんに、今までの壮絶な経験とこれからの展望について伺った。
私がカートを始めたのは小学6年生の時です。父が元レーサーだったこともあり、自然とモータースポーツの世界に入りました。レースはお金がかかる競技なので、誰でも簡単に始められるものではありません。しかし、父の縁や環境のおかげで、私はレースのスタートラインに立つことができました。
カートを始めた最初の頃は純粋に楽しかったです。速く走れるようになることが嬉しくて、「どうしたらもっと速くなれるんだろう」と、そればかり考えていました。中学2年生くらいになると、生活の中心は完全にカートでした。学校が終われば練習、週末はレース、遊びや部活よりも、レースで1番になることに夢中でした。
日々の努力のかいがあり16歳で世界チャンピオンを獲ることができましたが、その頃には「F1ドライバーになりたい」という夢ではなく、「F1ドライバーになる」と決めていました。「なりたい」という気持ちだと迷いが生まれます。しかし「なる」と決めると、人は行動が変わります。自分の中で覚悟が決まる気がしています。
■レースと学業を両立した学生時代
実は、私は子どもの頃から勉強が特別好きだったわけではありません。普通によく遊ぶ子供でした。しかし中学生になり赤点を取ると留年することを知り、「それはまずいな」と思って、必要な勉強はきちんとするようにしていました。
そんな私の高校受験は前日が全日本選手権の開幕戦でした。多くの人なら受験を優先したかもしれません。ただ父からは、自分で決めろと言われました。私は悩んだ末に、レースにも出場し、受験にも挑戦する道を選びました。結果として高校にも合格することができ、自分で決断し、その責任を引き受けることの大切さを学びました。
高校入学後もレース活動との両立は続き、遠征などで欠席することも少なくありませんでした。そのため、限られた時間の中で効率よく学ぶ工夫が欠かせませんでした。ただ授業を受けるだけではなく、何を優先し、どこに力を注ぐべきかを常に考えながら勉強していました。振り返ると、時間を有効に使い、目標達成に必要なことを見極める力は、この頃に培われたように思います。
■学校で孤立しても、レースだけは支えだった
レース活動で学校を休むことも多く、テレビ局の密着取材も学校に入っていたので、周囲から浮いてしまい孤立感を覚えることもありました。今でいう「いじめ」のような経験をし、苦しい思いをしたこともあります。それでも私にはレースがありました。心から打ち込めるものがあったからこそ、そのような困難を乗り越えることができたのだと、今振り返って感じています。
その経験から、集団で誰かを追い込むようなことは絶対によくないと学びました。孤独は本当に苦しいものです。経験した私だからこそ、そういう人の気持ちは分かるつもりです。しかし不思議と普通の高校生活が羨ましいと思ったことは、あまりありませんでした。私にとっては、カートで速く走ることの方がずっと楽しかったのだと思います。
■カートはF1に一番近い乗り物
カートは入門カテゴリーと思われがちですが、実はものすごく奥が深い乗り物です。車高が低いのでスピード感がありますし、操作がダイレクトで、ごまかしが利きません。私は今でも、カートはF1に一番近い感覚の乗り物だと思っています。
今でも感覚を維持するために、月に1回くらいの頻度でカートに乗ります。乗っている時は余計なことを忘れられるくらい完全に集中することができます。最近では経営者の方が趣味としてカートにハマるケースも増えていますが、その理由はすごく分かります。集中力も必要ですし、運動にもなります。
もちろん危険がゼロではない世界です。私自身、生死を彷徨うような事故も経験しました。しかし、危険ばかり考えていたら速く走れません。今は安全性もかなり向上していますし、その中でどう向き合うかが大事なのだと思います。
■F1は速いだけでは勝てない世界
現在、私はF1解説を担当しながら、若手ドライバー育成にも力を入れています。DAZN で解説をしてきましたし、今年からは フジテレビ のFODでも解説を担当しています。
また、Honda のレーシングスクールでエグゼクティブディレクターを務め、次世代ドライバーの育成にも携わっています。
ただF1は「運転が速いだけ」で勝てる世界ではありません。良い車を作り、良いチームを作り、周囲に応援してもらう力が必要です。そのためには、コミュニケーション能力も欠かせません。
だからこそ私は、生徒に対しても挨拶やお礼、質問の仕方を大切にしています。海外で戦うには、自分を知り、自分なりのコミュニケーション方法を作ることが必要だと感じます。私自身、海外時代はチームの近くに住み、毎日ファクトリーへ通って関係づくりをしていました。言葉が完璧じゃなくても、行動で伝えることはできます。
■大学生へのメッセージ
今の時代はどうしても、いろいろ経験した方がいいと言われがちです。でも私は、まずは好きに特化することが大事だと思っています。
僕自身、F1ドライバーになると決めてからは、生活も全部そこに合わせました。テレビを見ない、お酒を飲まない、甘いものや脂っこいものも控える。全部、「勝つために必要かどうか」で判断していました。
もちろん、誰もがレーサーになる必要はありません。でも、自分が本当にやりたいことを見つけたのなら、一度は徹底的にやってみてほしいです。広げるより、まずはフォーカスをする。やり切った経験は、その後の人生で必ず力になります。
私の今後の目標は、日本から次世代のF1チャンピオンを育てることです。そして、モータースポーツの魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいと思っています。
もし機会があれば、ぜひ一度レースを見に来てください。きっと、想像以上の迫力を感じてもらえると思います。
学生新聞オンライン2026年5月12日取材 京都芸術大学1年 猪本玲菜

東京都立大学4年 坂倉彩月/京都芸術大学1年 猪本玲菜/城西国際大学3年 渡部優理絵/国際基督教大学 4年 若生真衣


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