日本製薬工業協会 会長 宮柱明日香 (武田薬品工業株式会社 ジャパン ファーマ ビジネス ユニット プレジデント)
より良い医療の未来を築き、時代の最先端へ

日本製薬工業協会 会長 宮柱明日香 (ミヤバシラ アスカ)
(武田薬品工業株式会社 ジャパン ファーマ ビジネス ユニット プレジデント)
■プロフィール
長崎県出身。九州大学大学院修了後、武田薬品工業にMRとして入社。国内でコマーシャル・メディカル部門を経て、インドネシア・ベトナムで事業戦略・変革を推進。帰国後は九州沖縄支店長、神経精神疾患事業部長を歴任。2024年4月より同社ジャパン ファーマ ビジネス ユニット プレジデント、2025年5月に日本製薬工業協会会長に就任。「不易流行」の精神で業界変革に挑む。
総勢69社の製薬企業が加盟し、より良い医療の未来を目指す日本製薬工業協会(以下、製薬協)の会長として。そして、武田薬品工業の国内事業責任者として。二つの重責を担う宮柱明日香さんに、ご自身の来歴やリーダーを務める上での苦労ややりがいについて伺った。
■目指していた道と製薬業界との出会い
ちょうど自分の進路について考えていた学生時代、京都議定書という地球温暖化に関する国際的なルールを決める会議が開催されました。その際、環境問題について熱く語る世界中の方々に感動したことがきっかけで、環境問題、特に地球温暖化に関わる研究をしたいと考え、大学は農学部を選びました。
所属した研究室では「NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)」に採択された研究プロジェクトに入りました。このプロジェクトは、日本および中国の大学、そして民間企業の方々と協力しながらバイオマス資源活用を目指した事業で、研究者として計4年ほど携わりました。
プロジェクトの初期段階を担当していたことから、研究室での実験がメインとなりましたが、日々研究に勤しむ中で、私は研究室にこもって結果を待つことは自分に向いていないと気づいたのです。私たちが目指していたのは「砂漠の緑化」や「人類への貢献」ですが、その成果が出るには長い時間がかかります。もともと好奇心旺盛な性格の私は、研究室で結果を待つよりも、海外でサンプル採取をしたり、現地の方々と交流をしたりすることの方が楽しかったのです。そこで、最終的に研究者とは違う道を選ぶことにしました。
そんな時、祖母ががんを患い、家族で看病をすることになります。医療従事者の方々に支えられながら日々を過ごす中で、彼らの患者さんへの向き合い方や、クスリが持つ力を目の当たりにし、大きな感銘を受けました。大学で取り組んできた研究とは直接繋がりがないものの、「人の命を救う」という点では共通する部分があると感じ、製薬業界を志すようになりました。
■製薬業界での志
正直なところ、就職活動を始めるまでは製薬業界について詳しく知りませんでした。しかし、「人と直接関わりながら働きたい」という思いから、武田薬品工業に医薬情報担当者(MR)として入社しました。MRとは、医師や薬剤師など医療の現場の方々に「医薬品(クスリ)に関する正しい情報」を伝える仕事をしている人のことです。クスリの効果や使い方、副作用などについて、科学的な根拠に基づいて説明し、患者さんに安全に薬が使われるよう、医療の一翼を担っています。製薬会社で働く多くの従業員は、患者さんと直接お話しすることはできませんが、だからこそ患者さんに最も近い医療従事者と向き合うことが大切だと考えています。
入社後、国内でマーケティング部門などを経験した後、海外駐在の機会を得ました。インドネシアやベトナムという、日本とはまったく異なる医療システムのなかでの事業立ち上げや運営について学び、コロナ禍の終息期に日本へ戻りました。九州沖縄支店長を経て昨年、武田薬品ジャパンファーマビジネスユニットプレジデントに就任し、今年5月からは製薬協会長を務めています。
■69社がもつ、共通の使命
研究開発志向型の製薬企業69社が加盟する製薬協では、共通の使命を持ち、企業間、さらには国や行政とも連携しながら仕組みづくりを行っており、業界共通のルールを定めたガイドラインなども作成しています。
企業間で考え方や意見の違いはあっても、我々が共通して目指すのは「国民に安全に薬を届けること」。その目標のもとで、各社が「医療の未来のために何ができるか」を考えています。会長が私に代わっても、その姿勢は変わりません。
ただ、ここ数年で私たちを取り巻く環境は大きく変化しました。コロナ禍に加え、科学やAIといったテクノロジーの飛躍的な進化により、製薬業界もその在り方が変わっています。例えば研究開発そして製造分野では、AIの活用により業務が効率化されるなど恩恵を受ける一方で、最終的な判断や責任は人間が担うべきという前提に立ち、どうこのテクノロジーの力を最大限活用し、私たちの可能性を最大化するかという議論が活発になっています。AIとの共存は今後の大きな課題の一つであり、こうした課題解決に向けた取り組みを、今後さらに強化していきたいと考えています。
■製薬産業の魅力
製薬業界は大きな社会的責任を担う業界ですが、その魅力は大きく三つあると考えています。
一つ目は「社会に貢献できる達成感」。クスリは患者さんや家族の人生を変える力を持っており、新薬が完成して世に出た瞬間の喜びは格別です。長い年月と大きな投資が必要ですが、「人々に貢献している」という実感が、私たちの原動力になっています。
二つ目は「最先端の科学と技術」。製薬業界は科学の進歩とともに発展してきました。近年はAIが研究や製造、営業にも活用され、開発スピードや品質管理が大きく向上しています。常に新しい知識と技術を取り入れ、イノベーションに挑み続けられることが、この仕事の面白さです。
三つ目は「多様な人材」。医薬品は、研究から販売まで世界各国が連携してつくり上げるものです。多様な人材と協力しながら、グローバルな視点で課題解決に挑めることも魅力の一つです。
■大学生へのメッセージ
ひとつは、「問いを立て、育てる力を持つ」こと。今後はAIが多くの答えを出してくれる時代になります。その時に「では、これはどうだろう?」と好奇心を持って疑問を投げかける姿勢をもつ、また得られた情報の中で最終的には意思決定をする力がとても大切になります。
次に、「人間はどうあるべきかを考える」こと。この議題はよくリーダー陣とも話すのですが、常に「人のために我々は何ができるのか?」を問い続けています。AIが台頭してくる時代だからこそ、「自分が人類のために何ができるか」を考えてください。
最後に、「失敗を恐れず挑戦する」こと。誰しも壁にぶち当たります。そんな時こそ、失敗を恐れず、挑戦をするマインドを持ってほしいと思います。失敗したなら、素直に受け止めて次に活かせばいい。「挑戦すること」「行動すること」を大切にしてください。しかし、結局のところ必要になってくるのは人間力だと思います。学生の皆さんには、時間という大きな財産があります。いろいろなものを見て、いろいろなことを感じ、様々な経験を通じて、人間力を磨いてください。
学生新聞オンライン2025年9月29日取材 情報経営イノベーション専門職大学2年 山田千遥

東京女子大学 2年 浮田梨紗/武蔵野大学 3年 吉松明優奈/法政大学 4年 佐伯桜優/情報経営イノベーション専門職大学2年 山田千遥/法政大学 4年 島田大輝


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