株式会社Preferred Networks 共同創業者 代表取締役社長 岡野原大輔
AIを、社会を支えるインフラへと変える。

株式会社Preferred Networks 共同創業者 代表取締役社長 岡野原大輔(おかのはらだいすけ)
■プロフィール
株式会社Preferred Networks 共同創業者 代表取締役社長
Matlantis株式会社 代表取締役社長
情報理工学博士。東京大学大学院在学中に、西川徹等とPreferred Infrastructureを創業。2014年にAIの実用化を加速するためPreferred Networks(PFN)を創業。最高技術責任者として国産生成AI基盤モデルPLaMo™や汎用原子レベルシミュレータMatlantis™など、PFNの技術開発および事業化をリード。2025年11月にPFN社長に就任。受賞歴、著書多数。
「計算機の性能は指数関数的に上がり続ける」。この確信をもとに、AIが社会インフラになる未来を誰よりも早く予見した岡野原大輔氏。バーチャルな世界を超え、ロボットや半導体といった実世界の変革に挑むPreferred Networks。AIを人々の生活に溶け込ませるための信念に迫る。
大学1、2年生の頃はESS(英語サークル)に所属していました。英語劇の舞台制作や、副部長として100人以上の合宿を取り仕切るなど、今思えばマネジメントの基礎のようなことを経験していました。それと並行して、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「未踏ユース」というプロジェクトにも参加しました。これは若手エンジニアに開発費が提供される公募事業で、私は3回採択されました。実は最後の年の成果が、今の会社の前身となる西川らと起業した「Preferred Infrastructure(PFI)」の検索エンジン事業に繋がっています。
加えて米Google本社でインターンも経験しました。そこで1、2ヶ月かけて実際の製品開発に関わったのですが、そのプロセスに強い感銘を受け、帰国後、自分たちの会社でもいち早く取り入れました。
私がAIの可能性を確信したのは、計算機の性能は指数関数的に上がり続けるとわかっていたからです。当時のAIはまだ「人工無能」と言われるほど実用性が低かったのですが、他の産業と違い、コンピューターの世界だけを見れば何十年も毎年1.5倍のペースで性能が向上し続けています。10年、20年経てば、性能は数億倍になる。そうなれば、AIもいつか社会のインフラになると確信していました。
2012年、画像認識の分野でディープラーニングが劇的な成果を上げた「アレックスネット・ショック」が起きました。私と共同創業者の西川は「これに全振りすべきだ」と決断し、既存の検索エンジン事業などは切り離して、AIと実世界を繋ぐことに特化した「Preferred Networks(PFN)」を立ち上げたのです。
■実世界の課題を解決する「四つの柱」
私たちの事業は、主に四つの柱で構成されています。一つ目は、AIを用いたソリューションと製品の提供です。多くの企業が「新しい製品を開発するスピードを上げたいが、社内データを活用しきれていない」という課題を抱えています。私たちは、自社のAI技術を用いてそのプロセスを劇的に加速させるお手伝いをしています。例えば、新しい材料開発を成功に導く汎用原子レベルシミュレータ「Matlantis」。カメラの映像をAIが解析し、スーパーの店頭の品出しのタイミングや棚の状況を把握・可視化する「MiseMise」。そして、小型で小回りが利く自律搬送ロボット「カチャカ」。このような製品を通じて、現場のDXを推進しています。
二つ目の柱は、半導体の開発です。独自のAI半導体「MN-Coreシリーズ」を開発しており、AIの学習や生成AIの利用をより高速化することを目指しています。
また、三つ目は、AI開発に欠かせない計算資源、いわゆるスーパーコンピュータの開発と、その計算力をクラウドサービスとして提供する事業です。
そして四つ目が、AIの知能の基盤となる「大規模言語モデル」の構築です。人口減少に直面する日本社会において、人手不足に悩む地方や特定の職種をAIで支えることが必要になっています。また、今後は日本の強みである製造業やエンターテインメントをAIの力で世界へ発信していくことにも注力する方針です。
■「Learn or Die」が紡ぐ、実世界への挑戦
私たちは創業当初から、AIを単なるバーチャルな世界のものではなく、製造業や物流、ロボット、材料開発といった実世界の産業に応用することを決めていました。実世界への導入には膨大な時間とコストがかかるので、当時このような領域に挑む企業は非常に稀でした。しかし、私たちは創業当時からあえてこの領域にフォーカスし、地道に研究を積み重ねてきました。
弊社の根幹には「Learn or Die(死ぬ気で学ぶ)」というモットーがあります。自動車や産業機器、創薬といった未知の産業領域に飛び込む際、私たちはこの精神を何よりも大切にしています。新しい領域を貪欲に学び、適応し続ける。この一貫した姿勢があったからこそ、トヨタ自動車様やファナック様といった世界的な企業からも信頼をいただき、共同開発のパートナーとして選んでいただけたのだと思います。
今後の展望としては、AIを電力や水道のような「社会インフラ」へと昇華させていきたいと考えています。かつて日本が世界を席巻した製造業のように、日本発の次世代AI製品を世界中に輸出できる未来を創り上げていくつもりです。
■「好奇心」と「主体性」が未来を創る
一緒に働きたいと思うのは、専門性はもちろんですが、それ以上にチームワークを大切にし、相手に敬意を持って接することができる人ですね。そして「主体性」と「好奇心」があることも重要です。
技術の世界は常に変化します。今の専門知識も数年後には古くなります。だからこそ、学べる環境は会社が整えるので、新しいことを興味深く吸収できる「学ぶ意欲」を持っていてほしいです。その人がどう成長できるか、主体性を持って行動できるかを大切にしています。
■学生へのメッセージ
学生のうちは、その経験が将来役に立つかどうかを考えすぎず、とにかく色々な経験をしてみてください。社会に出るとどうしても一つの仕事だけに注力してしまう傾向がありますが、学生時代に得た多様な経験は、後から思わぬ形で繋がってくると思います。そして、「他の人はやりたがらないけれど、なぜか自分だけが好きなこと」も見つけてほしいです。需要と供給の観点から言えば、みんながやりたがる場所は競争が激しいですが、あなただけの「こだわり」が世の中の困りごとや需要とパチっと重なったとき、それは代わりのきかない強力な武器になります。自分の好奇心を信じて、突き進んでください。
学生新聞オンライン2026年2月13日取材 青山学院大学1年 松山絢美

情報経営イノベーション専門職大学2年 山田千遥/青山学院大学1年 松山絢美


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