慶應義塾大学 體育會 競走部 監督 鹿又 理

雲の上なんてない

慶應義塾大学 體育會 競走部 監督 鹿又 理(かのまた おさむ)

■プロフィール
1971年生まれ、慶應義塾大学法学部卒業。競走部時代、日本インカレ4×100mリレー優勝、200m準優勝、日本選手権200m準優勝などの戦績を収める。1994年三菱商事入社、シンガポール勤務を経て2004年オイルメジャーのbpへ転職。2022年、母校の競走部監督に就任。現在はシンガポールを拠点に、bpのトレーディング部門日本代表を務める傍ら、監督として学生の育成にも力を注いでいる。

母校の競走部監督を務める一方、オイルメジャーbpのトレーディング部門日本代表として、シンガポールを拠点に日本とシンガポールを往復しながらエネルギー業界の第一線で活躍する鹿又理監督。「雲の上なんてない」という信念の下、競技とビジネスの両方で培った経験を基に、世界で活躍する考え方を学生たちへ伝え続けている。今回は、そのキャリアの歩みと学生たちへの思いを伺った。

■陸上とビジネスを通じて見てきた、一つ上の世界を学生たちに見せたい

私は現在、シンガポールを拠点に石油やガス、電力を扱うトレーディング部門の日本代表として、日本とシンガポールを往復しながら仕事をしています。現在はイラン情勢によるホルムズ海峡を巡る緊張など、日本のエネルギー政策のあり方を再考する局面を迎えています。世界中のエネルギーに関与し、国内の名だたる企業と議論し、協業を進めています。また、世界情勢を踏まえ、どの地域からどの市場へ供給する事が最適かを考えています。この世界に飛び出したのはオイルトレーダーとして世界でどこまで通用するか、世界中のトレーダーを相手に勝負したいと思ったからです。 その一方で、母校競走部の監督を務めています。本業と並行して監督を続けているのは社会に出る最後の学びの場である大学で、無限の可能性がある学生たちに「一つ上の世界」を見て欲しいからです。こう思うようになった理由は、私の経験にあります。

私は学生時代、日本インカレの4×100mリレーで優勝はしたものの、個人では日本インカレの200mや日本選手権の200mで準優勝でした。どちらも経験した上で、優勝と準優勝の差は僅かでありながら大きな違いがある事を感じました。勝ち切る為に何が必要か、もう一歩先を見る為の考え方の一助が出来ればという思いで日々学生と接しています。

■雲の上なんてない

学生たちは、つい「あの選手は別次元だから」「自分には無理だ」「この人には勝てないな」と、限界を作ってしまいがちです。手が届かない遠い世界を「雲の上」だと決めつけてしまうのです。しかし、実際には雲の上など存在しません。 かつて日本陸上界では「100mを9秒台で走る」という記録は、雲の上の話だと思われていました。しかし、誰か1人がその壁を破ると「自分も行けるのでは」と周囲の目線が一気に上がっていくもの。実際に9秒台で走る日本人スプリンターは4人ですが、そのうち2人が本競走部のOBです。

また、私がオイルメジャーのbpに転職した20年前、エネルギー業界で海外に転職する日本人は少なかったです。でも、誰かが飛び込んでやってみれば「あの人でも行けるのだから、自分もできる」と後に続く人が必ず現れます。これは野球のメジャーリーグや海外のサッカーでも同じ事が起きていますよね。 この「目線を上げる」という視点は、皆さんの就職活動やこれからの人生でも全く同じです。つい「有名な大企業に入ること」ばかりを目指していませんか。それは、中身が伴わないままブランド物のスーツを着たがっているようなものです。 大切なのは、どこに入るかではなく、「10年後の自分がどうありたいか」という高い視座に基づいたビジョンを持ち、活躍することです。外の世界を怖がる必要はありません。自分で勝手に雲の上という限界を作らずにアンテナを高く張り、5年後、10年後の世界を見据えて高い目線で挑戦を続けてほしいのです。

■頑張るのではなく「結果」

私は学生たちに「頑張るのではなく結果です」と言っています。頑張るのは目的ではなく過程であり、結果を出すために頑張ることが大事であると気付いて欲しいからです。 例えば、私の「頑張る」と他人の「頑張る」は違います。それなのに、それぞれが違う頑張りで競い合っても仕方がありません。しかし、結果はとてもわかりやすいものです。比較ができるのも結果です。競走部であれば、速く走り、高く遠くへ跳び、遠くへ投げて結果を出すことです。その結果に向かって一生懸命に頑張ることは、当然やらなくてはならないことです。ビジネスの世界でも、最終的に評価されるのは「結果」です。頑張るという言葉に逃げて、自分を納得させてはいけません。 では、どのような場面で結果を出すための頑張りが必要か。それは「明確なビジョン」から逆算し、つまらなくて地味な練習でも実直にコツコツと続けられるかどうかです。 陸上は素質や才能のスポーツだと思われがちですが、実際には何百回と繰り返す地道な基礎練習や、ケガをしないための身体作りといった派手さのない積み重ねが重要です。それをずっと続けられる選手が、最後に結果を出します。サッカーでも、シュート練習は楽しいからみんなが行うと思いますが、補強のような反復練習は続けるのが難しいと思います。 ただ、これを「やったほうがいい」と伝えても、残念ながら続けることができる人は少ないです。しかし、続けられた人が結果を出しています。

■大学生へのメッセージ

多くの大学生はついつい今日、明日ばかりを見てしまいがちです。しかし、目線を上にし、その先に何があるかを興味持って、アンテナを高く張って毎日を過ごして欲しいです。皆さんが素通りする処に沢山のチャンスがあります。 気付かなければ、バットを振る事もできない。でも先を見てどんな球がくるのか見据えることができれば、バットをどう振って良いか判るはずです。 5年、10年先のビジョンとやり切る意志があれば、夢は現実になります。「雲の上なんてない」と考え自分の限界を決めずに、前向きに楽しい人生を送って下さい。陸上もビジネスも「やらされているもの」から「自ら取り組むもの」になった時から面白くなるものです。

学生新聞オンライン2026年6月5日取材 法政大学3年 佐藤海都

国際基督教大学4年 丸山実友/京都芸術大学1年 猪本玲菜/法政大学3年 佐藤海都

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