株式会社三菱総合研究所 理事長 小宮山宏
人生は設計通りにはいかない。だからこそ、偶然を大事に

株式会社三菱総合研究所 理事長 小宮山宏 (こみやまひろし)
■プロフィール
1972年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、同大学工学部教授、工学系研究科長・工学部長を経て、2005年4月に第28代東京大学総長に就任。2009年3月に総長退任後、同年4月に株式会社三菱総合研究所理事長に就任(現職)。2010年8月、「プラチナ構想ネットワーク」を設立し、会長に就任。その他、STSフォーラム理事長、超教育協会会長、国際科学技術財団会長、ヒートポンプ・蓄熱センター理事長など。
東京大学大学院を卒業後、東京大学第28代総長を経て、現在は三菱総合研究所の理事長、プラチナ構想ネットワークの会長として、日本の未来を描く小宮山宏氏。「人生は設計通りには進まない」という自身の経験から、課題先進国の日本が目指すべき姿、AI時代に必要な力、そして大学生へのメッセージを伺った。
私は大学生時代、アメリカンフットボール部に所属していました。学生生活としては普通で運動部で活動しながら、授業と両立させる日々を送っていました。アルバイトは家庭教師を中心に行っていました。しかし、アメリカンフットボールは防具などにかなりお金がかかるため、物流関係の日雇いバイトもしていました。
東京大学では、1・2年生は駒場キャンパス、3年生からは本郷キャンパスで学びます。しかし、アメリカンフットボール部の練習は駒場キャンパスで行われていたため、3年生の時は授業や学生実験を終えた後に移動し、練習に参加する生活でした。勉強と部活動の両立は決して楽ではなく、一度は部活動を辞めようと考えたこともありましたが、クラスメートらの支えもあり最後まで続けることができました。
当時のスポーツ指導は今とは異なり、練習中の水分補給が禁止されるなど、今では考えられないような環境でした。それでも仲間とともに過ごした時間は、忘れがたい思い出です。
■人生は設計した通りには進まない
現在は研究者としての道を歩み、三菱総合研究所の理事長を務めていますが、学生時代から研究者を目指していたわけではありません。大学卒業後は企業に就職するだろうと思っていましたし、自分が大学に残るとは想像もしていませんでした。
転機となったのは叔父の言葉と卒業研究です。叔父が化学系の会社に勤めていたのもあり、「これからは化学工学が重要になる」と教えられ、その分野に進むことを決めたこと。また、アメリカンフットボール部の活動との兼ね合いから卒業研究を早めに始めたところ、講義とは違って、自分の予想とは異なる結果が次々と現れ、「なぜこうなるのだろう」と考えることに大きな面白さを感じました。それが研究に夢中になるきっかけでした。
さらに大学院へ進学した際も、大学が大学院進学者を増やそうと推薦制度が設けられていたことなどが後押しとなりました。振り返れば、人生は自分で描いた設計図通りに進んできたわけではありません。さまざまな偶然や人との出会いが重なり、現在の私があります。
だからこそ、人生は計画通りに進めようとするよりも、目の前のことに真剣に取り組み、訪れたチャンスを大切にすることが重要だと考えています。
■課題先進国から課題解決先進国へ
三菱総合研究所は、単に未来のことなどを考えるだけでなく、「Think & Act Tank」を掲げているシンクタンクです。社会課題について考えるだけではなく、自ら行動し、解決へつなげることを大切にしています。
近年は、地球温暖化や少子高齢化、エネルギー問題など、一つの専門分野だけでは解決できない課題が増えています。専門性を深めることは重要ですが、それぞれの知見を結び付け、社会全体を俯瞰して考える視点も欠かせません。
その思いから、私はプラチナ構想ネットワークを設立し、「プラチナ社会」を実現する活動にも力を注いでいます。日本は今まで、欧米から情報を仕入れて発展してきました。しかし現在は、日本が世界に先駆けて高齢化や人口減少といった課題に直面しています。つまり現在は周りから仕入れることは出来ません。
しかし日本の現在の状況は今後世界各国でも避けて通れません。日本がそれらの課題を解決できれば、その経験は世界のモデルになります。私は、日本は「課題解決先進国」を目指すべきだと考えています。
その実現に向けて、プラチナ構想ネットワークでは森林循環経済や再生可能エネルギーなど、さまざまなテーマに取り組んでいます。また、どれだけ優れた技術があっても社会は変わりません。技術を社会へ実装するためには、多くの人が納得し、協力しながら進めていくことが不可欠だと考えています。
■鍵は好奇心と真剣さ
私が一緒に働きたいと思うのは、「ChatGPTのようではない人」 です。もちろん、私は生成AIを活用しています。しかし、AIには迷いや葛藤が感じられないことがあります。便利な存在ではありますが、人間らしさという点では大きな違いを感じています。
だからこそ、私が大切にしたいのは「真剣さ」です。物事に真剣に向き合う人は自然と好奇心が生まれ、新しいことを学び、挑戦し続けることができます。さらに、私は「楽観的であること」も重要だと考えています。楽観とは、生まれ持った性格ではなく、自らの意思で前向きに物事を捉えようとする姿勢です。困難な状況でも前を向いて進もうとする人と、一緒に仕事がしたいと思っています。
■大学生へメッセージ
学生の皆さんには、「安心」を求めすぎないでほしいと思います。昔は「大企業へ入れば安心」と言われていましたが、今はそのような時代ではありません。社会は変化し続け、将来を完全に予測することは誰にもできないのです。
だからこそ、自分が本気で取り組めることを見つけ、多くの経験を積んでください。自分自身が成長するために挑戦することが、結果として人生の選択肢を広げてくれます。
また、年代や立場の異なる人と積極的に交流してほしいと思います。異なる価値観に触れることで、自分では思いつかなかった考え方や新しい視点を得ることができます。
私は「人生は設計通りには進まない」と考えています。目の前のことに真剣に向き合っていたからこそ、偶然の出会いや経験が現在の私につながっています。
未来は誰にも分かりません。だからこそ、変化を恐れず、目の前のことに全力で取り組んでください。その積み重ねが、自分だけの人生を切り拓く大きな力になると信じています。
学生新聞オンライン2026年7月6日取材 法政大学3年 佐藤海都

法政大学3年 佐藤海都/法政大学1年 山田賢彦/日本大学2年 原田達司/城西国際大学3年 渡部優理絵/京都芸術大学1年 猪本玲菜/上智大学2年 石川仁菜
/獨協大学4年 深山琴美


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