株式会社カインズ 代表取締役社長 CEO 高家正行

お客様目線を追求し続け、より豊かなくらしを“DIY”

株式会社カインズ 代表取締役社長 CEO 高家正行 (たかやまさゆき)

■プロフィール

1963年、東京都生まれ。1985年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、株式会社三井銀行(現:株式会社三井住友銀行)に入行。1999年にA.T.カーニー株式会社に入社。2004年に株式会社ミスミ(現:株式会社ミスミグループ本社)に入社し、2008年に同社代表取締役社長に就任、2013年まで務める。2016年に株式会社カインズの取締役に就任。取締役副社長を経て、2019年から現職。2022年3月から株式会社東急ハンズ(現:株式会社ハンズ)代表取締役会長も兼務している。

ホームセンター業界で首位に君臨するカインズ。社長を務めるのが、銀行マン、コンサルタントを経てミスミグループ本社の社長を務めた高家正行氏だ。骨格のある会社を成長させることのできるプロ経営者を目指していると語る高家氏に、カインズの魅力や自身が行った改革について伺った。

大学では中学校から続けているテニスに力を入れていました。今でも休日はラケットを握り、心身をリフレッシュしています。大学では、社会全体が豊かになるための経済システムや社会の仕組みといった原理原則を学ぶため、慶應義塾大学の経済学部に入学を決めました。その後、経済のメインプレイヤーである銀行の中でも、一人一人が自分の考えで行動する社風だと感じた三井銀行に入社し、自分の力で勝負できる企業人を目指しました。
銀行員として働く中で、アメリカの大手IT企業であるIBMを経営の専門家が立て直す様を描いた書籍と出会い、経営者の中には生え抜きの社長や創業者以外にも、「プロ経営者」として外部から招かれ、企業を成長させることができる人々がいることを知りました。それからプロ経営者に挑戦してみたいという想いが強くなり、A.T.カーニーへと転職、戦略コンサルタントになり、マネジメント手法や経営理論を勉強しては実践するを繰り返して、経営経験を積みました。そして40歳の時、実際に経営者として事業会社を成長させたいと考えミスミに転職し、45歳で社長になり、5年間勤めました。その後は、「1社の経験だけではプロとは言えない」とカインズに転じ、2019年、社長に就任しました。

「Kindness」の精神でお客様目線を追求

カインズの強みは、社名の由来でもある「Kindness」の精神が全国230の店舗、約2万人のメンバー(従業員)に浸透していることです。一方で、ホームセンター業界に目を向けると売上高は2005年にピークを迎えて以降、横ばいが続いています。しかし、店舗数は増加しているので面積あたりの販売効率は低下傾向にあり、業界としては厳しい状況にありました。そこで、19年3月に社長に就任した直後から、〝第3の創業〟と位置付けて大きな改革に取り組んでいます。1989年の創業、2007年のSPA宣言を経て迎えた第3創業期には、「次のカインズを創る」ためのさまざまな施策に取り組んでいます。
1つ事例を紹介しましょう。カインズでは、現会長の土屋さんが2007年にSPA宣言を行い、メーカーから仕入れて販売するだけではなく、自社によるオリジナル商品を作っていく戦略に大きく舵を切りました。世の中は、大量生産された商品を大量消費する「価格」の時代から、一つの良い商品を長く愛用する「価値」の時代へと変化していたからです。今では売上の約4割をオリジナル商品が占めています。グッドデザイン賞を11年連続で受賞するなど国内外で数々の賞を頂いており、デザイン性や機能性を高く評価頂けるまでになりました。
商品の開発で大切にしているのは、カインズで働く2万人のメンバーの「お客様目線」です。店舗から家に帰れば、彼らも地域の一生活者。その豊富なアイデアを生かさない手はありません。開発会議では、開発担当者が店舗メンバーへプレゼンを行い、認められないと商品化ができないのです。そうした地道なプロセスを積み重ねることで、お客様の困りごとを解決し、くらしを豊かにする商品をお届けできているのではないかと思います。
そうした強みをもつカインズの商品開発ですが、私が社長になってからここでも改革を行っています。それまでのフライパンやハンガーなどといった「品番単位の商品別組織」から、ライフスタイルや日用雑貨、プロ(職人向け)など「顧客提供価値をベースとした組織」へと体制を大きく再編したのです。なぜなら、商品開発がお客様目線ではなく、売り手目線になっていて、お客様の期待する価値に対応しきれていないと感じたからです。
その結果、例えば、まな板の上に敷くだけで食材ごとにまな板を洗わずに済む「まな板シート」や複数のおかずを同時調理できる「分割型フライパンホイル」など、家事をラクに楽しくする「楽カジ」というコンセプトで、ヒット商品が多数生まれています。

■「くみまち」を通じて地域格差を解消し、豊かな生活を提供

昨今、都心への一極集中・少子高齢化・人口減、自然災害の増加などにより、日本各地で様々な地域課題が顕在化してきていて、地域社会・経済の持続可能性が危ぶまれています。カインズは、創業以来、「商業を通して社会の発展に貢献する」ことを志に、28都道府県下に展開する230の店舗が、それぞれの地域の皆様のくらしに寄り添いながら事業活動を行っています。私たちはそうした創業以来の志をさらに発展させ、それぞれの地域における困りごとや関心、ニーズに丁寧に耳を傾け、「人々が自立し、共に楽しみ、助け合える、一人ひとりが主役になれる「まち」(≒地域社会)を実現することを目指す、「くみまち」構想を策定し、活動を始めています。
私たちのように地域に根差した小売業が地域社会に提供できる価値は、経済的価値だけでなく、地域の持続的な成長やさらなる社会価値にもつながります。
その一例として現在、学校では教えてくれない「生きる力」を、体験(DIY)を通じて学ぶ場として、「くみまち学校」の展開を始めています。定期開講は2023年4月からの予定で、店舗の余剰スペースを活用して行おうと思っています。
このような事業で、日本の地域やくらしが抱える様々な課題を解決し、半数の自治体が消滅の恐れにあるという現状を変えたいと思っています。

大学生へのメッセージ

先ほどお話した、第3の創業と位置付けて取り組んでいる大きな改革の一環として、2020年3月にはカインズの新しい企業理念を決定し、3つのコアバリューを制定しました。「Kindnessでつながる」、「創るをつくる」、「枠をこえる」です。
カインズは、何事も自分でチャレンジしてみて形にする=「創る」文化を社会に広げてきました。今も、既成概念にとらわれずに一歩踏み出して枠をこえ、新たなことに常に挑戦し続けています。
そうした企業理念を土台に、私たちは、くらしを良くするために自分でやってみることの全てを「くらしDIY」と位置づけ、「くらしDIY」を文化として根付かせていくことを使命として取り組んでいます。
学生の皆さんには、変化の激しい世の中で自分を見失わずに挑戦し続けるためにも、自我を形成し、自立していくことを大切にして欲しいと思っています。
それは、自分を律する強さがあるからこそ、人に親切にできるのだと思うからです。相手の気持ちを汲み取る豊かな想像力と相手を心から大切にする愛で、「Kindness」にあふれる世界を一緒につくっていきましょう。

学生新聞オンライン2023年1月12日取材 中央学院大学 4年 田根颯人

中央学院大学 4年 田根颯人 / 津田塾大学 4年 宮田紋子 / 日本大学 3年 和田真帆 / 東京理科大学 3年 伊藤陽萌 / 日本女子大学 4年 神田理苑 / 立教大学 4年 須藤覚斗

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