南アルプス市長  金丸 一元

「地の利」を戦略に変える

南アルプス市長  金丸 一元(かねまる かずもと) 

■プロフィール
昭和24年山梨県中巨摩郡小笠原町(現 南アルプス市)生まれ。
昭和49年立教大学卒。青年会議所理事長などを歴任し、平成16年に南アルプス市議会議員に初当選。3期10年にわたって地域経済やまちづくりに取り組み、平成27年に南アルプス市長就任。平成31年、令和5年と再選を果たし現在3期目。

住民発議で誕生した南アルプス市を率いる金丸市長。「3度断られたコストコ誘致」を覆した戦略をはじめ、財政改革への信念やAI時代の行政課題、南アルプス市の魅力。地の利を活かした街づくりの最前線と、激変する社会を生き抜くための「思考の武器」をお伺いした。

学生時代は、新聞社でのアルバイトと並行して、社会学部で社会学の学びに励んでいました。講義ではマックス・ウェーバーやカール・マルクスなどの理論を学び、夜には当時流行していた麻雀を学友たちと囲む。そんな、仕事と学びと遊びが詰まった充実した日々を過ごしていました。現職の「市長」という職についてはあまりイメージしておらず、当時流通業界が結構伸びていましたので新卒で西友ストアー(現 株式会社西友)という企業に就職しました。
就職して2年が経った頃、地元で靴屋を営んでいた母親が体調を崩してしまったため、その事業を継ぐために会社を辞め地元に戻りました。
ですが「靴屋」という事業はどうしても時代の流れで変わっていくものですから、最終的には時代に即さないと判断して事業を閉じることにしました。
そして、次はどのような店を出そうか、と考えていた頃に出会ったのが「南アルプス市」の市政に向きあうことでした。

■出馬することへの決心

平成15年の市誕生後、周囲からの後押しを受け、市議会議員を3期務めました。当時は財政問題が深刻で、自治体として破綻しかねない厳しい状況にありました。
そうした中で、私は前市長に「行財政改革」を公約として掲げてほしいと強くお願いし、彼を支えてきました。しかし、2年目に入ると状況は一変します。巨額の予算を投じ、新しい市庁舎を建設する方針が打ち出されたのです。私は庁舎建設に反対の立場だったため、「行財政改革を掲げたのではないのか。その方針では認められない」と真っ向から反論しました。
それでも計画は止まりませんでした。ならば自分がやるしかないと決意し、市長選への出馬を決めました。「庁舎建設反対」を掲げての選挙は、一般的には不利とされる戦いです。それでも、市民の皆様のご支持をいただき当選することができ、現在こうして3期目を務めさせていただいています。

■南アルプス市の魅力と取り組み

大型商業施設の進出によって、この地域の可能性は大きく広がっていると感じています。特に大手スーパーのコストコの出店は想定を大きく上回る好調ぶりで、売上は当初見込みの約2倍に達しています。ここは一見すると中心人口が少ない商圏ですが、車で1時間半の圏内には約700万人が暮らしております。オープン当初は来店客の8割以上が県内からでしたが、ありがたいことに次第に県外からのお客様が増え、現在、土日には約半数の方が県外からいらっしゃいます。
この地域の魅力は、災害の少なさと自然環境の豊かさにあります。水害リスクが低く、地価も比較的安く、水にも恵まれています。さらに、富士山や八ヶ岳を望む景観に加えて扇状地の特性を活かした果樹栽培も盛んですし、種類が豊富で品質も非常に優れています。住みやすさという点では間違いなく強みがあると考えています。
これまで鉄道が通っていないことが課題でしたが、中部横断自動車道や新山梨環状道路の整備により交通の利便性が高まり、近年は移住される方も増えてきました。人口は自然減の傾向にありますが、転入が転出を上回る「社会増」によって、令和4年以降は微増を続けています。
さらに企業誘致も進み、この2〜3年で約1500人規模の雇用が生まれました。今後はリニア中央新幹線の開通により、都心へのアクセスも飛躍的に向上します。地価の安さも含め、今後さらに人が集まる可能性を強く感じています。
こうした流れの中で、私は特に子育て支援に力を入れ「子育てしやすいまちづくり」を進めてきました。 たとえば中学生までとしていた医療費の無償化を18歳まで拡大し、さらに給食費や保育料の無償化、現在は3歳から6歳までの給食費無償化も進めています。また、小中学校への入学時には支援金を支給するなど、家庭の負担軽減にも取り組んでいます。
その結果、実際に支援制度を理由に移住してくださる方も増えています。地域全体の人口減少という課題はあるものの、こうした取り組みが若い世代の流入につながり、着実に成果が現れていると感じています。

■AIとの歩み方

いま、テクノロジーの進化スピードは私たちの想像を絶するほどです。半導体の能力が4年で1000倍、8年で100万倍、12年で10億倍へと指数関数的に跳ね上がっていく。そんな時代がすぐそこまで来ています。レベル5の完全自動運転が実現し、既存の職業が姿を変える未来において、行政もまた「これまでの当たり前」を捨てなければなりません。
当市でも、既に議会の答弁作成などに生成AIを活用し始めています。議員の皆さんもAIを使って質問を組み立ててくる時代ですから、遠くない将来、AI同士が議論を交わすような光景さえ現実味を帯びています。こうした技術は、膨大な書類作成に追われる職員の負担を劇的に減らし、少子高齢化で人が減っても、質の高い行政を維持するための強力な武器になるはずです。
しかし、現実はそう単純ではありません。「DXを推進しているのに、なぜか職員数が増えている」という逆転現象が起きています。新しい業務が次々と生まれ、システムを導入しても組織の最適化に直結していないのです。さらに切実なのが、システム構築、維持のための巨額の支出です。また、市にはシステム会社と同等の知識を持ったプロの職員がいるわけではないので、こういった環境を整えることが課題となっています。
市単独のレベルには限界があります。だからこそ、県レベルで専門家を揃え、システムの適正価格や技術を精査する「目利き」の仕組みを整えてほしい。技術に振り回されるのではなく、いかに賢く使いこなし、市民の幸せに還元できるか。私たちは今、その大きな転換点に立っています。

■大学生へのメッセージ

大学の4年間は、人生で最も自由で貴重な時間ですので、ぜひ学問に本気で向き合ってみて欲しい。社会学などの理論を学ぶと、世界の見え方は一変します。自分なりの「ものの見方」を養うことが、将来あなた自身を支える大きな武器になると思います。

学生新聞オンライン2026年4月10日取材 情報経営イノベーション専門職大学 2年 山田千遥

情報経営イノベーション専門職大学 2年 山田千遥/獨協大学4年 深山琴美/京都芸術大学1年 猪本玲菜

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