ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 芝田 浩二

環境が人を育てる。常に環境を変える努力をすること

ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 芝田 浩二(しばた こうじ)

■プロフィール
アジアを代表する航空会社グループの代表取締役社長。奄美群島の加計呂麻島出身で、幼少時代より、島に来る多くの外国船と広い空を見て過ごす中で世界への憧れを持つように。ANA入社後は主に国際畑でANAの国際線拡大を果たしてきた。

鹿児島県の加計呂麻島出身の芝田社長。島から世界へ羽ばたく姿は、まるで飛行機が飛び立つかのようだ。学生時代の在中国日本国大使館(北京)での外務省在外公館派遣員制度(以下、派遣員)の経験から始まった世界への挑戦はまだずっと続いている。先頭を走る芝田社長にANAグループの今後についてお話を伺った。

■大学生で外交官!?の時代

私は鹿児島県の加計呂麻島で生まれました。大学進学のタイミングで上京し、東京外国語大学の中国語学科に入学しました。大学生活は空手着を着たまま授業に出席するほど部活に没頭していました。
空手部のキャプテンを引退したのは大学3年生の11月頃でしたが、ある先生との出会いがきっかけで人生が変わったのです。「中国語学科にいたとなると、中国語は喋れるとみられる。勉強にも力を入れてはどうか」と、尊敬する先生の叱咤激励を受けたことで勉強意欲が湧き、在中国日本国大使館で派遣員を務めることになるのです。
ある日、大学キャンパス内を散策していたときに、在中国日本国大使館の求人を偶然見つけて応募。大学を2年間休学して、在中国日本国大使館で働くことにしたのです。派遣員は社会人同様に平日は毎日8時間ほど勤務し、勤務後の時間は勉強に充てるという毎日です。中国各地から大使館に届く新聞を活用し、2年間中国語の勉強を継続したことにより、語学力を身に付けました。また、大使館で派遣員として働いたことで、日本の社会の仕組みを肌で感じて学べたことも大きな収穫だったと思っています。

■夢を叶えるため憧れのANAに

中国から日本へ帰国したときは大学3年生の3月で就職活動目前でした。その後、中国に支店があった多くの企業からお声がけいただいたりしていたのですが、私にとって思い入れがあったANAからは連絡が来ませんでした。そこで思い余って自ら「僕のこと知りませんか?」とANAの担当者に電話をしました(笑)。
当然ですが知る由もありません。というのも、当時ANAは海外への定期便が就航しておらず、中国にオフィスがありませんでした。北京にいた頃、たまたまチャーター便で訪中していたANAの客室乗務員を見て、故郷日本の鹿児島空港を思い出して感動したことがありました。当時の鹿児島県民にとって航空会社といえばANAで、特別な思い入れがありました。鹿児島空港で見たときと同じように、キラキラした客室乗務員がそのまま北京の空港にいる姿を見たとき、離れた故郷への想いと憧れを抱きました。加えて、丁度、ANAが国際線の定期便就航に向けて動き出しており、自分もその一助になりたいと思ったのです。
ANAグループは非常に風通しの良い会社です。風通しが良いということは、やりたいことができるということでもあります。私は国際線定期便就航に携わりたくて入社したのですが、入社2年目にして早くも国際部に配属されたのです。国際部では定期便就航のためのチャーター便の実績作りや支店の立ち上げを行いました。そして入社5年目の1986年、グアム・ロサンゼルス・ワシントンへ、日の航空会社として初めての定期便就航が実現し、手探り状態のANAと共に自分自身も成長したと思っております。

■コロナ禍から学んだこと

航空業界はコロナ禍で大打撃を受けました。コロナ禍前は売上が2兆円ほどあり、そのうち航空事業が約9割を占めていました。そのほとんどが止まったのです。
今後は航空事業だけでなく、非航空事業にも注力していきます。航空会社としてこれまでのサービスだけではなく、持続可能な航空燃料と言われている、国産のSAF(Sustainable Aviation Fuel)の活用による環境課題への取り組みを進めることに加え、リアルとバーチャルを融合したメタバース空間を利用したANAGranWhaleや、移動の可能性を広げるAvatarinのnewmeといったビジネスなど、今後より幅広く事業を行っていこうと思っています。
このように、コロナ禍を乗り越えることで、主力事業である航空事業が振るわないときのリスクヘッジも強く意識するようになりました。また、コロナ禍では「徹底的に小さくしゃがむ」ことを意識し、自社所有の飛行機の数を大幅に縮減したり、雇用自体は守りつつも、一時的な賃金削減策なども行い、社員の皆さんにも共に乗り越えてもらいました。今に採用も再開し、今後は生産量に応じて人員確保も積極的に行う予定です。航空会社はチームワークが命です。個人のスキル向上は当たり前、さらに同僚のスキルをも「さりげなく」高められる人を積極的に採用したいと思います。

*message*

「環境が人を育てる」ので、環境を変える努力をしてください。人は今いる環境に順応しようとします。たとえば登山を想像してください。少しずつ高度を上げて、身体を慣らしていきますよね。同じように、今いる場所より少し上のレベルに身を置く。そうすると、それがだんだんと普通になっていきます。そうしたらまた、さらに上のレベルに挑戦する。この上がる努力を継続することが個々の成長につながります。同じことの継続ではなく、少しずつでも新しい経験を積む心がけを持つと良いと思います。

学生新聞2023年10月1日発刊号 成城大学3年 小笠原萌

上智大学2年 池濱百花/国際基督教大学1年 渡邊和花/上智大学短期大学2年 大野詩織/専修大学4年 竹村結/武蔵野大学4年 西山流生/慶應義塾大学4年 伊東美優/立教大学3年 緒方成菜/成城大学3年 小笠原萌/立教大学3年 福田さくら/立教大学4年 須藤覚斗/慶應義塾大学大学院院2年 賀彦嘉

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。