マルコメ株式会社 代表取締役社長 青木時男
発酵の可能性を信じて、「世界初」の商品開発に挑む
マルコメ株式会社 代表取締役社長 青木時男(あおき ときお)
■プロフィール
1957年、長崎県生まれ。1979年、慶應義塾大学卒業。食品問屋を経て1984年、マルコメ入社。1998年、代表取締役社長に就任。
味噌を中心に、さまざまなカテゴリーの発酵食品を展開しているマルコメ株式会社。これまで数々のヒット商品を生み出し、今も発酵の新たな可能性に挑戦している。今回は、代表取締役社長である青木時男様に、枠にとらわれない商品開発の秘訣や今後の展望についてお話を伺った。
◾️音楽好きの学生から社長へ。変わりゆく環境で学んだこと
大学生の頃から音楽が大好きで、同好会でバンドを組んでいろいろな大学を演奏して回っていました。演奏するたびに、周りが楽しんでくれるのが嬉しかったです。周囲を楽しませるのが好きなので、今でも仕事で楽しい瞬間をどうやって作っていくか意識しています。
ただ、大学卒業後、環境が大きく変わりました。というのも、私がマルコメの創業家の女性と結婚したからです。当時マルコメでは、代々長男が後を継ぐのがならわしでした。しかし、生まれたのは2人とも女の子。そこで、長女が家を出て、次女と結婚した私が会社の後を継いでほしいと打診されたのです。お話をいただき、マルコメを継ぐことを決めてからは、「会長の言うことは全て聞き、全力で取り組んでいこう」と決意しました。
まず、会長からは「これから流通が大きく変わっていくから、会社に入る前に勉強をしてきなさい」というお言葉をいただき、まずは流通を行っている明治屋という食品会社に入り、三鷹にある出張所で働きました。当時は、作っても作っても商品が売れる時代だったので、寝る間もなく働きました。倉庫内の油圧エレベーターに乗る20秒間だけが、唯一休憩できる至福の時間でしたね(笑)。 そこでの5年間はとても苦しいものでしたが、学んだこともあります。それは、苦しんでいる人の気持ちを理解できるようになったことです。会社でも苦しんでいる人、頑張っている人は顔を見ると分かるんです。働く覚悟もここで身に着けました。仕事は上手くいくことばかりではありません。苦しい経験は、お金では買えない貴重な経験であり、今でも宝物だと思っています。
◾️時代に合わせて、新たな挑戦を続ける
マルコメは、1854年の創業以来、味噌を軸とした商品展開を行ってきました。そして私が社長に就任した後、「日本古来の発酵技術を通じて生活者のすこやかな暮らしに貢献する。」という経営理念をみんなで考えました。そこから第二のステージとして、発酵の可能性に着目しチャレンジするというミッションに向けて走り出しました。
その際、着目したのが、味噌が大豆と糀(こうじ)から作られていることです。素材を輝かせ、お客様に喜んでもらえる商品を作ろうと決意しました。そこで開発したのが、生塩糀です。これまで味噌や醤油などは男手中心で製造していました。しかし、当時料理をするのは女性が多かったことから、女性が商品を企画することを当たり前にしようと考え、女性を中心に開発が進められました。糀をきっかけに商品作りをして、塩糀ブームとともに商品が大ヒットしました。このように、長年培ってきた味噌のノウハウを活用できるのは当社の強みだと考えています。味噌は今や最先端の食品です。大豆由来なのでヴィーガン対応の食品でもあり、グルテンフリーでもあります。健康を意識している人が増えている現代でも、時代を超えて愛され続けている素晴らしい食品です。
他にも新たな挑戦として糀甘酒づくりを行っています。生き残るためには圧倒的な商品力が必要です。そこで糀を活用し、アルコール・砂糖が含まれていない糀甘酒を開発しました。糀甘酒は今までにない分野だったので、お店に置いてもらうまでに直接交渉を重ね、やっと陳列させてもらえるようになりました。
また、私たちは大豆ミートの開発も行っているのですが、学校の給食で大豆ミートを提供する取り組みも行っています。コストはかかりますが、添加物をいれないで、なるべくそのままのおいしさを味わってもらえるよう日々研究を重ねています。会社が170年続いて行く中で、お客様のニーズや世の中のトレンドに合わせて、常に新たな挑戦を続けています。
◾️驚きと感動を世界へ
今後は世界初の商品を世の中に届けていきたいです。たとえば、糀の可能性は無限大です。最近は糀から作る糀みつも誕生するなど、夢のようなアイデアが商品になっていきます。これらの商品は日本古来のものであり、世界の市場にも挑戦できる魅力があると思います。今後も、我々は固定概念にとらわれない商品を生み出し、お客様に届けていきたいですね。
お客様に楽しんでもらうには、自分がまず楽しむことが大切です。自分の個性を活かし、自由に考えを生み出せる人と一緒に働きたいです。何に対しても、エネルギーがある人の顔はキラキラしていて希望に満ちています。そのパッションが大事ですね。
今までにない新しいカテゴリーを提案することは、成熟しているものとは違い、手探りです。苦労もありますが、その分やりがいもあります。これからも世の中のトレンドに合わせて新たなカテゴリーを生み出し、お客様に驚きと感動を与え続けていきたいです。
◾️message
大学生の皆さんは、好きなことを見つけてたくさん挑戦してほしいです。好きなこと、熱中出来ることを見つけるまでには時間がかかる人もいると思います。それでも諦めずに、探し続けて欲しいです。好きなことに出会い、情熱を注いでください。「好き」が生み出す可能性は無限大です。皆さんが生み出す大きなエネルギーに期待しています。
学生新聞オンライン 2024年2月6日取材 立教大学3年 緒方成菜
立教大学3年 緒方成菜 / 國學院大學1年 寺西詩音 / 武蔵野大学4年 西山流生
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