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ヤマハ株式会社 代表執行役社長 山浦 敦

音・音楽の力で、人々の個性輝く未来を創る

ヤマハ株式会社 代表執行役社長 山浦 敦(やまうら あつし)

■プロフィール
長野県生まれ。1992年、ヤマハ株式会社入社。電子ピアノの開発を担当した後、米・テキサス大でMBAを取得。帰国後はデジタルコンテンツ配信や音響通信技術の事業開発を担当。その後、音響技術開発部長、電子楽器開発部長、電子楽器事業部長、執行役楽器事業本部長、ヤマハ楽器音響(中国)総経理を歴任し、2024年4月に代表執行役社長に就任。

幼少期の異なる2つの音楽体験が大きな財産になっていると語る山浦社長。電子楽器の開発から音楽コンテンツの配信事業まで、さまざまな事業に携わることで自分をアップデートしてきたのだという。社長として何を考え、会社をどう牽引していくのか、お話を伺った。

父が音楽教師だったこともあり、幼い頃から音楽は私の傍らにありました。特に小学校時代、親の仕事でメキシコに3年間住んだ経験は、私の音楽観に大きな影響を与えました。メキシコの人々が生活の中で音楽を心から楽しむ姿を目の当たりにし、音楽の楽しさが強く胸に刻まれたのです。日本に帰国後、中学では全国大会にも出場する実力を持った非常に厳しい吹奏楽部に入部。このような生活に根ざした楽しむ音楽と、高みを目指す厳しい音楽という全く異なる2つの経験は、私にとって大きな財産となりました。

■変化を受け入れ、常に新しい知識を吸収

大学時代はサークル活動に没頭する日々を送りました。合唱団では指揮者を務め、音楽をつくっていく楽しさを存分に味わいました。就活では一旦は音楽を仕事にしないと決めて会社訪問をし、内定もいただきました。しかし、音楽が自分の身近にない生活に寂しさを感じ、内定を辞退。音楽に近い場所で働きたいと決意し、ヤマハに入社しました。入社した当時のヤマハ、特に電子楽器の開発部署には製品や将来音源の評価のため多くのアーティストが出入りし、非常に個性豊かで自由な雰囲気に満ちていました。私にとってそれはとても心地よく、大きな喜びを感じました。
入社したときには、実は不安もありました。学生時代にあまりまじめに勉強してこなかったこともあり、本当にやっていけるだろうかと心配だったのです。それでも私がここまでやってこれたのは、上司や先輩に恵まれたことに加え、「変化やアップデートを恐れない」という考え方が軸にあったからだと思います。「自分はこれで出来上がり」ではなく、何か新しいことがあれば飛び込んで、そこで何か学ぼうという意識を持つことが私の軸になっています。
入社後、電子楽器の開発から企画、そして携帯電話向けの音楽コンテンツ配信へと、多様な仕事を経験しました。ハードウェア中心のビジネスからコンテンツ配信まで、ビジネスで求められる考え方もそれぞれ異なりましたが、それ自体が非常に楽しく、常に新しいことを学ぶ貴重な機会となりました。これらの経験が私自身を「アップデート」させてくれたのだと思います。
社長就任の打診があったときは、驚きとともに正直、悩みました。新規事業開発に長く携わっていたため、ヤマハのコア事業ともいえる楽器・音響事業について、細かくは分からないこともあったからです。しかし、ちょうどその頃、コロナ禍や半導体不足、中国経済の急変など、世界は大きく変化していました。これからも変化は起きる、この先ヤマハにも大きな変革が必要になると確信したとき、私のような「楽器・音響事業ではないところ」の経験がきっと生かせるはずと思い、重責を自覚しつつも引き受けました。

■総合的な音楽ソリューション企業へ

私たちのミッションは「世界中の人々のこころ豊かなくらし」に貢献することです。これは音楽を通じて人々が楽しんだり、仲間を作ったり、生きがいを見つけたりすることであり、事業と明確にリンクしています。たとえば、アコースティックピアノや管楽器のような伝統的な製品をしっかりと次世代に継承することも重要な要素です。しかし、それだけで良いのではなく、音楽文化を発展させるには、「新しい音楽の形」をアーティストと協力して創り出さなければなりません。そのためには、新しいユーザーインターフェースや新しい表現方法を持つ楽器の可能性追求が不可欠です。これら「伝統」と「革新」の両方の取り組みが重要であり、今後は従業員にもこれまで以上の柔軟性が求められるようになると思います。
また、私たちは事業と並行して、YAMAHA MUSIC SCHOOL(ヤマハ音楽教室)や※スクールプロジェクトを通じて、音楽文化の普及に一生懸命取り組んでいます。これからも子どもから大人まで、世界中の人々に音楽の世界に入ってもらうさまざまな手段を提供していきます。
今後の軸は、できるだけ多くの人々の多様なニーズにきめ細かく寄り添った価値提供をしていくことです。そのために今後は楽器、音響機器といったハードウェアに加え、そこに組み合わせるソフトウェア、コンテンツ、そしてコミュニティ等の提供を強化していきます。生成AIのようなテクノロジーは音楽を楽しむ敷居を下げ、より多くの人人が音楽に触れる機会を増やしていくでしょう。ヤマハもそうしたテクノロジーを駆使しながら、より多くの方々に音楽の楽しさを届ける「総合的な音楽ソリューション企業」へと進化していきます。

*message*

皆さんに伝えたいのは、「自信を持って社会に飛び込んで欲しい」ということです。私自身、決して良い学生とは言えませんでしたが、新しい環境に興味を持ち、自分をアップデートし続けることで困難を乗り越えてきました。皆さんは今、大学でしっかり勉強し、新しいことに挑戦をしているはずです。是非、これからも心を開いて新しいものに興味を持ち、自分をアップデートしていく気持ちを忘れず、自信を持って社会に出てきてください。

※スクールプロジェクト/新興国の公教育における音楽授業の普及を目指す活動。2015年にスタートし、これまで世界10カ国425万人以上に広がっている。

学生新聞2025年10月号 情報経営イノベーション専門職大学1年 襟川歩希

津田塾大学3 年 石松果林/昭和女子大学2 年 阿部瑠璃香/情報経営イノベーション専門職大学1 年 襟川歩希

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